NHK大阪放送局の見学スペースで9月下旬、男性が殺虫剤のようなスプレーをまいて、救急車や消防車が出動する騒ぎがあった。報道によると、近くに見学者はおらず、ケガ人も出なかったという。
現場は、NHK大阪放送局の見学スペースの1階入り口付近。40歳くらいの男性が突然、室内から外に向けて、スプレーを数秒間にわたって吹きかけた。駆けつけた警備員らが110番通報したが、男性は歩いて逃げた。
男性はそれまで何度も訪れて不審な動きをしていた人物とみられ、大阪府警が男性の行方を追っているということだ。男性の行為は何らかの罪に問われるのだろうか。刑事事件にくわしい大山滋郎弁護士に聞いた。
●「罪に問われるかどうか疑問」「どのような行為をすれば、犯罪として処罰されるかについては、あらかじめ法律で明確に決めておく必要があります。そうでないと、国が恣意的に国民を処罰できることになってしまうからです。
ところが、日本には、『建物の入り口でスプレーを吹きかけたら犯罪になる』なんて法律はありません」
今回のケースで、男性は罪に問われないのだろうか。
「人に向かって直接スプレーを吹きかければ、暴行罪になります。スプレーによって、吹きかけられた人が身体を壊したら傷害罪になります。しかし、今回、そういうことは起きていません。
また、人が集まっている場所であれば、混乱を生じさせたということで、大阪府の迷惑行為防止条例違反になる可能性もあります。しかし、今回のような行為で、そんな混乱が生じるといえるのかは疑問です。
さらに、テレビ局内でおこなったことを考えれば、業務妨害の罪が問われることがありうるかもしれません。しかし、この程度で本当に業務が妨害されたといえるのかも、少し疑問です」
大山弁護士はこのように疑問を呈する。では、今回のケースをどう見ればいいのだろうか。
「明確に刑罰が規定されていないが、許されないように思える行為に対して、国や市民がどこまで刑罰をもって臨むのが妥当か――。そんな根本的なところが問われている気がします」
大山弁護士はこのように語っていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 滋郎(おおやま・じろう)弁護士
刑事弁護と企業法務が得意分野。メーカーの法務部門に長く勤め、勤務のかたわらニューヨーク州弁護士資格を取得し、日本の司法試験にも合格した。会社の法律問題を扱う一方、多数の刑事事件を手がける。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/