厚生労働省が9月28日に発表した公的年金の試算が話題となっている。厚生年金の場合、1945年生まれの70歳の世帯は、支払った保険料の5.2倍が給付される。しかし1985年生まれの30歳以降の世帯では2.3倍。この世代間の格差が問題視されているのだ。
また、この試算はあくまでも経済成長率がプラス0.4%の場合。新聞報道ではこの数字が使われているが、識者からは「前提が甘すぎる」という批判も漏れる。成長率マイナス0.2%の場合はさらに格差は広がり、70歳の世帯は5.2倍で変わらないが、30歳以降の世帯は2.0倍とさらに低くなる。
厚労省は「それだけで若者が損とは言えない」と説明加えて問題視されているのが、試算のベースが被保険者本人の負担分のみであるという点だ。厚生年金保険料は労使折半のため、会社分の負担を含めると納めた保険料は倍額。30歳以降の世帯の場合、給付は支払った額の1.0倍でタンス貯金と変わらないことになる。
さらに試算モデルが、月収42万8000円(賞与込)の夫と同年齢の専業主婦の世帯であることも、現実に沿っていないと槍玉にあがる。就職氷河期世代では非正規雇用や独身者も多く、20歳から60歳まで厚生年金に加入し平均余命まで生存するモデルに、どれだけの世帯が合致するのかといった疑問も残る。
試算の前提が楽観的で甘すぎるうえ、世代間の格差も大きい――。年金の未来を悲観する人たちからは「何でこんなに不公平なの?」「ぜんぶやめてチャラにすればいいのに」と憤りの声があがっていた。
この点について厚生労働省は「マンガで読む『いっしょに検証!公的年金』」の中で、登場人物に次のように説明させている。
堀江貴文氏「生活保護かベーシックインカムにすべき」「今のお年寄りたちは教育も医療も十分でなかった時代に、自分たちの親を扶養しながらここまで日本を発展させてきました。そのおかげで今の若い世代が豊かに暮らしていることを考えると、受け取る年金に差があったとしても、それだけで若者が損とは言えないと思いませんか?」
サイトの説明によると公的年金制度は、現役世代が受給世代を扶養する「世代間扶養」の仕組みのもとで運営される社会保障制度であり、「本来、個人や世代の差による損得を論じる性質のものではありません」ということだ。
とはいえ、今後経済成長率がさらに下がって高齢化が進めば、若い世代では支給額が支払った額に満たない場合も予想される。そんな年金には払い込みをしたくないという人が増えるのも当然だろう。実質破綻していると見切る声もある。
経済関係の識者が多いニュース共有アプリの「NewsPicks」でも、コメントが盛り上がっている。弁護士の荘司雅彦氏が「到底信用できない試算」と批判しているほか、現行制度の代わりにどのような施策を取るべきか意見を提示する人も相次いでいる。
グロービス大学大学院学長の堀義人氏は、「支給開始年齢を75歳に引き上げ」「高所得者の基礎年金の減額」を含む5つの施策を提案した。堀江貴文氏は「生活保護なりベーシックインカムに一本化すべきね」とコメント。最低限の生活に必要なカネを国や自治体が無条件で支給する考えに賛同する人も少なくない。
経営コンサルタントの冨山和彦氏が著書の中で提唱する「あるだけ解散」を支持する人も多かった。払い込んできた年金に、過去から現在までの国債の長期金利分を上乗せしたものを全員に返して、現行制度を白紙にする方法だ。その後、新しい掛け捨てタイプの保険制度に移行するというものだ。
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