お釣りはいらないから、取っておいてーー。そういう客はときどきいるが、「お釣り」を受け取った側が困ってしまう場合もある。たとえば、コンビニでアルバイトをしている大学生のAさんが遭遇したケースだ。
Aさんによると、そのお客は、税金の支払いをするためコンビニを訪れた。ところが、相当急いでいたらしく、払込票とお金が入った封筒を置いて、「お釣りは大丈夫」と言い残すと、Aさんが呼び止める間もなく、走って店から出ていってしまった。
会計は7万2000円ほどだったが、封筒に入っていたお金は8万2000円。差額が1万円もある。どうやら、客の男性は封筒にお金を入れすぎていたようなのだ。
Aさんは店長に話し、あまった1万円のお釣りを店で保管していたが、客の男性がその後店を訪れることはなかった。店長から「『お釣りは大丈夫』と言われたのはAくんだから、お釣りの分もらっていいよ」と言われたので、結局Aさんはこの1万円を受け取った。
Aさんがお釣りを受け取った行動は、法的に問題なかったのだろうか。山内良輝弁護士に聞いた。
●「お釣りは大丈夫」の発言の意味は?「今回のケースを考える上で、まず、お客の男性の発言の意味を検討する必要があります」
山内弁護士はこのように述べる。
「客は『お釣りは大丈夫』と発言していますが、『お釣りはいりません』『端数はチップです』など、無償で金銭を提供する趣旨が明確になるような意思表示はしていません。
この点に加えて、封筒の中に入っていた金額が、代金の7万2000円よりも、ちょうど1万円多い金額だったという点にも着目する必要があります。
もし、封筒の中に入っていたお金が8万円ジャストだったら、『お釣りは大丈夫』という発言は『お釣りの8000円はいりません』という黙示の意思表示であると見ることができます。
しかし、封筒に入っていたお金は8万2000円だったのですから、客は7万2000円を封筒に入れるつもりで間違って1万円多く封筒に入れてしまったと見るほうが自然でしょう」
●民事・刑事責任が生じる可能性ももし、客が後になって「金額を間違えた。返してほしい」と言ってきた場合には、返さなければならないのだろうか。
「そうですね。民法703条の不当利得の規定により、店側はもらいすぎた金額を返さなければなりません。
それどころか、客が払いすぎた金額を店員が勝手に使ってしまったような場合には、刑法254条の遺失物等横領の罪に当たり、1年以下の懲役または10万円以下の罰金を受けることもありえます」
Aさんは店長に相談し、「もらっていいよ」と店長の許可を得ているが、それでもダメなのか。
「お金を返す責任があるのは、お店の管理者である店長ですから、Aさんの民事責任(不当利得)はセーフでしょう。
しかし、Aさんは店長の許可をもらったとしても、客の金を勝手に使う権限がありませんから、刑事責任(遺失物等横領)がセーフになるわけではありません。
今回のケースからわかるように、趣旨の不明なお金はできるだけ受け取らず、もし受け取ってしまった場合は、封筒に入れて別に保管しておくのが無難です」
山内弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山内 良輝(やまうち・よしてる)弁護士
10年の検事経験を経て、弁護士に転身。特捜時代に多くの脱税事件を手がけた経験を生かし、弁護士時代も脱税事件の弁護や税金の取りすぎに対する税務訴訟を多く手がける。大学教員も務める福岡の町弁(町の弁護士)。通称「山弁」。
事務所名:和智法律事務所