アダルトビデオの出演を断った20代の女性が、芸能プロダクションから2460万円もの違約金を請求された裁判で、プロダクション側の請求を棄却する判決が出たことが注目を集めている。
支援団体の「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS)が9月29日に開いた記者会見では、判決の内容とともに、女性の「手記」が明らかにされた。手記には、女性が訴える被害の実情や、切実な思いがつづられていた。
手記の全文は、以下の通り(小見出しは編集部が付記)。
●痩せるまで強制的にジムに行かされたこの度は、パップス(ポルノ被害と性暴力を考える会)という支援団体の方と、弁護士さん、助けてくれた家族と友人に対して、とてもとても感謝します。今回は、プロダクション側から裁判を起こしてきたことがきっかけで、このような流れができて、私はとても運が良かったと思います。そして、弁護士さんに出会えたことは、私にとってはとても救いでした。なぜなら、私ひとりではどうすることもできなかったからです。
初めに、私が支援団体のPAPSさんを知ったきっかけは、インターネットで、「AV違約金」で検索したときでした。そして相談するまでは、契約書がある限りは、私には自由などは存在していないと思っていましたし、当時のことを思い出すと最悪でした。メーカーやプロダクションの言いなりにならないと、身の危険を感じることもありました。業界の人は怖かったです。誰にも相談することができずに、ずっと悩み続けていました。死にたくなりました。
私は未成年の時から、AVではないものの、わいせつなビデオに出演させられていました。プロダクションと契約した以上、いやでも仕方がないと言われていました。今になって思えば、はじめから、脅しに負けず、断れば良かったのですが、そのときは、支援団体は知りませんでした。事務所が怖いのもありましたし、身内に知られるのもとても怖かったです。私は、プロダクションの人たちから、「身内や同級生にはバレナイ」と言い聞かされていました。「バレないで済むなら」いう事もあって、出演しないという選択肢をあきらめて応じました。
それからというもの、向こうの要求が多く、例えば、痩せさせるまで強制的にジムへ行かされました。ジムに行ったかどうか監視までつけられました。なかなか痩せられなかった私は、メーカーやプロダクションの人から屈辱的な発言を浴びせられ、泣いて帰ったこともありました。
●子宮や性器の痛みを訴えても、白い目でみられたまた、日ごろから、プロダクションやメーカーの方から、そういうこと(AVに出演すること)は「立派なこと」だ、とか、「誇らしいこと」だとか繰り返し言われていました。業界の人は信じられないくらいにロが上手で、脅したり、AVに出るのはよいことだと洗脳に近いことを言い続けたりしました。
そして私の場合は、出演する毎に、違約金がとんでもない額になっていきました。それを支払わなければ裁判で負けて本当に支払う羽目になると追い詰められ、最後はAVに出演せざるを得なくなったのです。
撮影のときは、子宮(膣のこと)や性器の痛みを訴えても、メーカーやプロダクションはもちろん監督や女性のメイクさんからも、みんなで白い目でみられ、「君はやるしかないよ」と言われました。
女の子にとっては、どこのメーカーが有名かどうかわからないですし、自分がどこのメーカーに売られるのかわからないですし、とにかく知識がないので、「言う事を聞けば終われる、逃れられる」と思っていました。
大人の男性を相手に敵に回すのはとても怖かったです。プロダクションやメーカーの人もそうですが、相手方の弁護士も怖かったです。
●警察から「あと2本出演したらどうか」と言われたようやく支援団体に助けを求めた日に、警察にも助けを求めました。警察の人の協力もすこしは得られました。しかし、警察の人はプロダクションに事情を聴いたあとで、私に対して「あと2本出演したらどうか」と言ってきました。
私は「出演したらどうか?」と簡単な問題で見られていることが悔しかったです。もし、「簡単に出演できるくらい」なら、誰でもがそれをやっているはずです。社会的に認められないことで、男性の警察官にとっては(女性としての)私の気持ちがわからないのだと思いました。
私や私以外の女性にとってはそれ(私の性行為の様子を他の人がいつでも見ることができてしまう状態)が重大な問題だということに気づいてほしいですし、問題意識をもってほしいと思います。
いま、AV出演の事で困っている人がいて、出演したくないのであれば、事前のキャンセルや、連絡手段を絶つという方法もあるかもしれませんが、人それぞれに脅せる方法はいくらでもあるので、やむを得えず、出演する方がいっぱいいるのだと思います。実際に、私もそうでした。
例えそれが、苦痛なことや、嫌なことであっても、いちおう与えられた仕事だということ、「しなければならない」ので、その状況に立った人ならば、早く終わらせたいと思うので、視聴者にはわからないと思いますが、みんな頑張って演技をします。たとえ、女の子が、望んでしているように見えても、決してそうとは限らないということです。
アダルトビデオは、映画とかドラマとか、きれいなグラビアとは全然違うものです。性行為とはとても重いものです。本来であれば、決して他人にみられたくないものと思います。
●検索結果や動画サイトに流れたものは消えない実際に、私や団体の方、弁護士さん、いざ裁判が始まったとき、どのような結果になるのかわかりませんでした。そのため長い間不安と戦ってきました。今は、ひと段落しましたが、たとえ、裁判がおわっても、課題はいっぱいあり、一度でもグーグルの検索結果やネットの動画サイトに流れたものはなかなか消えません。忘れたくてもわすれることができないのです。私にとって一生つきあっていく問題です。いつ、どこで、誰に知られてしまうのか、わかりません。それに怯えて生きるのは苦痛です。なので、そういった業界は許せません。
支援団体の方から、さまざまな理由によって、出演された方も、後で後悔する人たちもいると聞きましたので、この業界は問題だと思います。それに、望んで承諾したとしても、性問題、人権問題として、永遠にそれが残ってしまうのは、私は問題だと思います。
私も、知人が身内、友人、たくさんの人に知られて、からかわれたり、それをネタに変な交渉をしてくる人も居ました。友達なのに、購人したといいう人もいました。そのときは、消えて死にたくなりました。
私にとっては、気にしないようにすることしかできません。もちろん、事情を知って励ましてくれるひともたくさん居ましたので、みなさんの周りに同じような境遇のひとが居ましたら、どうか助けてあげてください。
●スカウトマンを禁止する法律をつくってほしいきっと、望まない性行為というのは、なかなか男性の方にはわからないと思います。今回、少しでも、世の中の人に知っていただけたらいいと思います。また、今回の結果を、現役の方にも教えてあげてほしいです。
これは、とても重大なことなので、むやみな相談もよくないと思いました。なぜかというと、私は、支援者のふりをして近づき、また騙される手口を実際に経験しました。そのため、本当に信用できる人や、もし弁護士さんに相談しづらいばあいは支援団体に相談してほしい。身内だけで解決しようとすると、失敗する可能性も高いと思います。
現役の方で私と同じような状況の方に対してこのような被害が減るように、世の中にはこのようなしっかりした支援団体があることを知ってほしいです。
私の相談以降、支援団体への相談件数が89件を超えたと聞いています。この問題はとても重大なことだと思います。駅付近とかのスカウトマンを禁止して欲しいです。禁止と言ってもやりたい放題なので、きちんと法律をつくってほしいです。
若者を守る、プロダクションやスカウトの取り締まりについても、しっかり考えてほしいです。何でも若者のせいにするのではなく、どうかこれらの仕事が儲からないようにしてほしいです。
私も、伊藤弁護士のプログのコメントや、世の中の意見を読みました。やっぱり、私たち側がわるいなど、いろいろな意見がありましたが、法律の知識のない一般人から、騙された方が悪いといわれるのが悔しいです。
私は、今回被害にあったことは運が悪かったし本当にひどい目にあいましたが、今後は、同じような裁判にも影響すると思いますので、どうか、この判決を今後生かしてもらえたら良いなと思います。
2015年09月29日
(弁護士ドットコムニュース)