瓜田、噛み付き、噛み付かれる!――“元アウトローのカリスマ”こと瓜田純士(35)の動きが先鋭化してきた。10月頭には太田出版から竹書房に版元を移して前著『遺書~関東連合崩壊の真実と、ある兄弟の絆~』が文庫化されたが、その裏では怒髪天を衝くスッタモンダがあった様子。10月末には同じく竹書房から新著『國殺』が発売されることも決まったが、これまた各方向にケンカを売る作品内容だという。出版の前祝いとばかりにインタビューを行っている最中も、瓜田の怒りは収まらない。さらには取材を終えた直後、瓜田が謎の外国人に噛み付かれ、警察が出動するハプニングも発生。筆致も日常もスリリング、これぞ“瓜田文学”だ!
読書の秋。作家・瓜田純士の著書が続々と発売される。ひとつは、関東連合崩壊の真実を描いた前著『遺書』の改訂文庫版(10月1日発売)。もうひとつは、時事問題を“瓜田節”で斬るオール書き下ろしの新著『國殺』(10月30日発売)。いずれも版元は竹書房だという。
それぞれの出版の苦労や、作品の見どころを尋ねるべく、瓜田の自宅からほど近い新宿三丁目の飲食店にてインタビューを行った。
――まず『遺書』についてお聞きしますが、今回文庫化されるにあたって、版元を太田出版から竹書房へ移したのはなぜでしょう?
瓜田 太田出版と揉めて、決別したからです。今年の6月に太田出版から、酒鬼薔薇聖斗こと元少年Aの『絶歌』という手記が出ましたよね。あんな変態殺人鬼の書いたものでも金になると踏んだら喜んで商品化してしまう、出版人としてのポリシーもクソもないような連中とは、袂を分かちたいと思ったんです。
――『絶歌』の出版が、それほどまでに許せなかった?
瓜田 はい、絶対に許せませんでした。僕は、仲間同士の殺し合いを終わらせたくて『遺書』という本を太田出版から出した。きれいごとじゃなく、マジでそういう思いがあったからこそ、僕は著者印税をまったく受け取らず、その全額を犯罪被害者遺族支援のために寄付する契約にしたんです。なのに太田出版は、そんな僕の思いを踏みにじった。こっちは殺人の連鎖を止めたい一心で本を書いたのに、同じ版元、しかも同じ編集チームの手によって、似たデザイン、似たような漢字二文字のタイトルで変態殺人鬼のオナニー本を出されたら、僕はどんな気持ちになりますか? ふざけんな! となりますよね。
――太田出版には、その意志をどのように伝えたんですか?
瓜田 担当者を呼び出して、相手が泣くまでゴン詰めしましたが、その後の会社の対応も不誠実そのもので、僕の怒りに火を注ぎました。ヤツらがいかに金の亡者で、どれだけふざけたマネをしてきたのかについては、『國殺』に実名入りで詳しく書きますので、そちらをご覧ください。
――『遺書』を文庫化するにあたって、新たに追記したことなどはありますか?
瓜田 本文は同じでも、登場人物はすべてイニシャルから実名表記に直して、顔写真のモザイクも外し、よりリアルでドラマチックな本に仕上がっています。表紙のデザインも、まえがきもあとがきも一新しましたから、まったくのリメイクと言っていい。文庫版の『遺書』のほうが断然カッコよく、絶対に売れると思います。ちなみに『遺書』の版権を移す際にも、スッタモンダがあったんですが、竹書房の取締役にして名物編集者でもある宇佐美和徳さんが、「これだけの金を渡すから手を引け」と、相手の予想を遥かに上回る、誰をも黙らせるケンカの買い方してくれました。
――問題はクリアになったのでしょうか?
瓜田 双方、条件面の折り合いがついて、あとは印鑑を押すだけです。
――竹書房との縁は、いつどこで?
瓜田 ちょうど太田出版との関係がこじれて「やってらんねぇ」とイラついていた頃、たまたま竹書房の上層部の方々と酒席を共にする機会がありまして、そこで僕の心情を吐き出したところ、「瓜田純士をアウトローとしてではなく、未来ある作家としてサポートしていきたい
という有り難いお誘いをいただきました。僕を拾い上げてくれた竹書房の宇佐美さんは、かつて『実話ドキュメント』『実話時報』『近代麻雀』などの編集長を歴任されたほか、“雀鬼”こと桜井章一さんの担当編集者もやられていた方で、金よりも義理と人情を重んじるタイプ。出会いで人生は変わると言いますが、35歳にして、こういう心ある方と巡り会えたご縁に感謝しています。
――竹書房のサポート体制とは?
瓜田 「面倒なことはすべて編集部に任せろ。余計なことは考えるな。小説を書きたいなら好きなように書けばいい」と言ってくださり、主に心理的なサポートをしてくださる。おかげで僕も書くことに集中できる。このまま作家としてなんらかの賞を取るまでは、不良っぽい話はないでしょうね。もう以前とは住む世界が違う。あづま(編注:新宿三丁目の洋食店)でビフテキを食う人は、牛丼屋の話をしないでしょ。
――10月末に発売される新著『國殺』の内容を教えてください。
瓜田 新生・瓜田純士が、アイスピックをペンに持ち替えて、世間にケンカを売っています。酒鬼薔薇聖斗、イスラム国、ネット社会の悪、イジメ、振り込め詐欺、危険ドラッグなど、現代のさまざまな社会問題を“瓜田節”で斬っています。タブーな領域に思い切り踏み込んだ部分も多く、場合によっては問題になって出版停止になることも考えられる。でも、ただ暴露したり毒づいたりすることが目的じゃなく、この生きづらい世の中を生き抜くための瓜田流のヒントを、ユーモアも交えつつ随所に盛り込みました。
――もうすべてを書き終えたんですか?
瓜田 何事もスピード感が命です。版元からは「8月一杯でいい」と言われていましたが、7月にはすべてを書き終えました。執筆途中、酒鬼薔薇聖斗に告ぐ、イスラム国に告ぐ……っていう感じでコンテンツが増えていく中、「瓜田純士に告ぐ、っていうページも必要じゃない?」
と宇佐美さんから言われたこともあった。冗談めかした口調だったけど、これはきっと重要課題に違いない、この課題を乗り越えた先にきっと何かがある……と確信した僕は、その翌日には自分自身に向けた原稿を書き上げていました。自分という存在に一気に集中して向き合ったから、そのあと精根尽き果ててブッ倒れましたけどね。
――スピード感を重視する理由は?
瓜田 スピードってのは、気迫になる。気迫は人の心を動かすんです。何事も途切れ途切れにやっちゃうと、ウソになる。でもスピードは本音が出るんです。僕は昔から、今やれることはつらくても今やって、後で倒れりゃいいじゃん、っていう考えなんです。
――素晴らしい考えですね。
瓜田 実は今日も本当は、嫁に定められた「休肝日」だったんですけど、版権移籍の件がどうにかまとまるメドがついたので、こうして宇佐美さんと前祝いをすることになりまして。「今日は休肝日だから明日にしましょう」と断ってもよかったんですけど、やはりスピード感が大事なので「明日倒れてもいいから今日にしましょう」となって、ついでだから情報もオープンにしちゃおうってことで、こうして急きょ、取材も受けることにしたんです。
――そのスピード感は、いつどこで養われたのでしょう?
瓜田 ヤクザ時代だと思います。切った張ったの世界にいると、「今日という日を逃したら、明日はないかもしれない」という危機感とスピード感が自然と身に付く。実際、いつどこで何があるかわかったもんじゃないですよ。このあと店を出たところで車にひかれて、すべてがオシマイになる可能性だってあるわけですから。
* * *
その言葉を裏付けるような出来事が、直後に起きたから驚いた。取材を終え、瓜田、麗子夫人、宇佐美氏、記者の一行が店を出た途端、どこからともなく現れた酩酊状態の外国人男性が、「ハウッ…ハウッ…ハウッ…ガルルルル!」と獣のような唸り声を上げながら、瓜田に襲いかかってきたのである。その突然すぎる敵の登場はまるで「龍が如く」や「バイオハザード」のようであった。
外国人は目を見開き、歯をムキ出しにしたまま獅子舞のように顔を踊らせ、文字通り瓜田に噛み付こうとする。宇佐美氏と記者が間に入って制止しようとするが、筋肉質な外国人はそれを弾き飛ばしながら、瓜田めがけてなおも突進。その尋常ならざる目付きや行動から察するに、おそらく危険ドラッグの影響で攻撃性が増し、錯乱状態になっているようだ。
最初のうちは相手を諭すように、冷静に対応していた瓜田。だが、外国人の指が瓜田のネックレスにかかり、そのチェーンが切れると表情が一変した。
「てめぇ、この野郎っ!」
シャドーボクシングを始め、ノーガードの顔面をわざと前に突き出しながら、先に殴らせようとする瓜田。慌てて両者の間に割って入る宇佐美氏。咄嗟にカメラを構える記者。
「純士! 大事な時期やから、絶対に手ぇ出したらアカンで!」
麗子夫人の叫び声がこだました直後、10人ほどの警察官が現場に駆けつけ、外国人は取り押さえられた――。
良くも悪くも目立つため、良縁も悪縁も引き寄せてしまう瓜田。竹書房の一件のように幸運な出会いに恵まれる一方で、この日のように街でケンカを売られる場面も相変わらず多い。だが、たとえ絡まれても自分からは手を出さなくなったところが、以前とは大きく変わった点だ。アイスピックをペンに持ち替えた“作家・瓜田純士”。その決意の固さを見た一夜だった。
(取材・文=岡林敬太)