シリア情勢に絡み、日本政府内でロシアとの北方領土交渉の先行きに懸念が広がっている。ロシアがシリア空爆をめぐり、米国との対立を先鋭化させているためだ。日ロが接近すれば米国が不快感を示すことは必至で、日本政府は米ロ両国のはざまで難しいかじ取りを迫られる。
過激派組織「イスラム国」への攻撃を名目とするロシアの空爆に対し、米国は同組織以外の反体制派の拠点を狙ったと反発している。
これに対して、日本政府のスタンスは定まらない。菅義偉官房長官は1日の記者会見で、「当事国でなく、状況を把握していないのでコメントを控える」と述べ、距離を置いていた。だが、2日の会見では「(米国の主張が)事実であれば、シリア情勢のさらなる悪化につながるものと懸念せざるを得ない」と語り、対ロ批判をにじませた。
安倍晋三首相は、ロシアのプーチン大統領との個人的な信頼関係を突破口に、北方領土交渉を動かしたい考え。そもそも米ロはウクライナ問題で対立しているが、「日米が全てで一致するわけではない」(外務省幹部)として、首相は米国の懸念をよそに、プーチン大統領の年内来日を模索する姿勢を崩していない。
だが、シリア空爆を機に、米国が日本の対ロ外交へのけん制を強めるのは間違いない。政府関係者は「ロシアに追い打ちをかけられた。ウクライナ危機に続いてシリア情勢と、領土交渉が国際情勢に翻弄(ほんろう)されている」と嘆いた。