バカヤンキーから、名門大学へと進んだ半生を綴った『【本編】もし元とび職の不良が世界の名門大学に入学したら…こうなった。カリフォルニア大学バークレー校、通称UCバークレーでの「ぼくのやったこと。」の話』がネットで話題となり、そのストーリーをさらに深く掘り下げ、家族の証言なども盛り込んで完成させた『バカヤンキーでも死ぬ気でやれば世界の名門大学で戦える。』(鈴木琢也/ポプラ社)は、勉強で悩んでいる人、何かを学ぼうと思っている人、そして忙しく働く社会人にも参考になる話が満載の一冊だ。
●聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥!
カリフォルニア大学バークレー校に入る前のコミュニティ・カレッジ時代には授業の予習復習に20時間を費やし、バークレーに入ってからも毎日10時間を下回ることなく勉強に没頭、歩きながら本も読んだという鈴木さんに、勉強しないといけないのはわかる、でも何を勉強したらいいのか、どうやって勉強したらいいのかと悩んでいるすべての人へのアドバイスを聞いてみると…
「もし僕が学生で、勉強しようと思ったら、まずデキるヤツのところへ行って、どういうやり方をしているのか聞きますね。参考になるやり方があるかもしれないし、過去どれくらい勉強してたのか聞けば、自分は全然足りないなって思うことでモチベーションが上がると思います。あとは教材を選ぶことは経験者から聞くと参考になるし、本屋さんで時間を無駄にしなくて済みます(笑)。そしてとにかく勉強に時間を投資すること。そうすれば少しは前進しますよ」
本書にも鈴木さんがいろいろな人から勉強法を聞き、参考にしながらトライ・アンド・エラーを繰り返し、自分なりの方法を習得する姿が描かれている。
「それから、自分の学力のレベルがどこかっていうのを知ることですね。僕がやってたのは、本屋さんで英検の5級のテキストから読んでいって、内容がわかれば上げて、3級でわからなくなったら、『自分が勉強しないといけないのはここからなんだ、大人だけど3級から始めればいいんだ』というようなことをやってました。大人だからこれくらい知ってて当たり前って思うと、基礎を飛ばすじゃないですか? でも基礎を飛ばすと一番非効率で、後々勉強が苦痛になりやすいんです。だから高校生でも、もしかしたら中学1、2年くらいで習ったことが抜けてるかもしれないので、まずどこが抜けてるのかを見つける。僕は身長が186センチもあって目立つんですけど、中学高校の参考書のところでずっと『どれがいいかな?』と見てましたよ(笑)。そこを恥ずかしがってたら、わからないことはわからないまま。知ってて当たり前だよね、みたいなことを言ってくる人には「うるせぇな、知らねぇんだよ!」と思えばいいんです。僕は逆に『それって知ってて当たり前なんだ!』と思って、それはいつ勉強することなのかを聞いて、その学年の教科書や参考書を見て勉強してました。確かに知らないって一瞬恥ずかしいんだけど、その恥ずかしさを超えれば、その後は気にすることはなくなります。僕は見てくれよりも、前に進めたい欲望の方が強いんです!」
また学生だけではなく、ビジネスマンにも参考になりそうなのが、鈴木さんが実行している「逆カレンダー」だ。授業の時間と就寝時間だけをカレンダーに記入しておき、後でどう時間を使ったのかを記入し、無駄を省いていくという逆転の発想から生み出されたものだ。
「モチベーションって、時間帯で変わるじゃないですか。疲れたりとかもするし。僕はどんなに疲れてても数学の問題を真剣に考えるとガーッとやれるので、夜は数学の時間にしました。逆に英語のエッセイを夜やると、文章も時間も長くなって、あーでもないこーでもないってやってしまうことに気づいたので、朝にやるようにしてみたんです。そしたら眠いんだけど、寝たら頭の中が整理されるので、スラスラ書けるようになりましたね」
●バークレーに通う人のほとんどは努力家!
10代の頃はずっと勉強が苦手で、バカだから理解が遅いと思っていたという鈴木さんは、よく言われる「地頭」なんて全然関係なく、本質的な人の能力はさほど変わらないと強調する。
「今振り返って思うと、デキる人ってやっぱそれなりの時間を勉強することに投入してるんです。ホントに天才的な人ってたまにいますけど、それってホントに一握りなんですよ。バークレーには3万5千人くらい人がいますけど、その中でホントの天才って、数百人いるかどうかじゃないですかね? 僕の実感は、バークレーに通っているほとんどの人が尋常じゃないくらい勉強している努力家集団ということでした。それは入ってみたからわかったことで、もし入れなかったら『この人たちはもともと頭いいんだろう、俺とは違うんだ』と今でも思い続けてたでしょうね」
そしてバークレーではどんな精神を学んだのかというディスカッションで「ともに学ぶこと」、そして「社会を変えるためなら無償で知識を公開すること」という2点が出たという鈴木さん。でも知識を出し惜しみをする人って、多いですよね?
「普通だったら知識を売り物にする人は外へ出さずに、それを使って何か商売をしようとする、ってある人に言われたんです。それで『あー、だから周りの人は何も教えてくれないんだ』って思いましたね(笑)。でもバークレーへ行くと、結構平気で教えてくれるんですよ。例えば分厚い論文の要約みたいなものを読んでも、すぐには理解できないじゃないですか。それは、理解するために“時間”を投入しないといけないからなんです。だから誰かが無償で知識を公開しても、その人が言ってる内容を理解して身に付けるには、その人が投入したのと同じくらいの時間を投入しないといけないんです。もちろんヒントにはなりますけどね。そう考えると、知っていることを人に教えるのって何もマイナスではなくて、聞いた後にやるかやらないかを決めるのは聞いた人次第なんです。もちろん投資情報とかそういうのは別ですけど、学ぶことに関しては知識の出し惜しみをしても意味ないのかなと思いますね。だいたい出し惜しみする人って、『まぁ今のお前にはわかんないかもしれないけど…』みたいなこと言うじゃないですか。それで『そうなんだ、そのうちわかるんだ!』なんて思いがちですけど、絶対そのうちになんてわかんないんですよ(笑)。だから読んだ方がいい本を教えてあげるとか、そういうアドバイスをして欲しいですね」
●「運」は死ぬ気でやった先にしかないもの
本書のタイトルにも出てくる「死ぬ気でやる」ということについて、鈴木さんはこんな興味深いことを言っていた。
「昔からの仲間と話しているときに、スゲー頑張ってるヤツとだけ話が合ったのが“運”の話だったんです。運って絶対あるよね、でも運ってやり切った後に最終的に出てくるもんで、その手前で運のことを考えちゃうと絶対無理だよね、みたいな話でした。僕も大学に入れるくらい努力した人の中から自分が選ばれたのは運だけど、その選ばれるところに乗るまでは死ぬ気で勉強しました。とにかくそこまではやるしかなくて、その先は運だから、ダメだったら仕方ない。でも運が作用するまでは、死ぬ気でやるしかないんです」
そして現在、教育関係の仕事に携わっている鈴木さん。自身の境遇を活かすような取り組みをしていきたいと考えているそうだ。
「僕は大学生の頃からずっと『やり直しのきく社会』を作れたらいいな、と考えていたんです。それは僕みたいにまったく勉強をしてなかった人が学び始めるというのもあるし、ずっと頑張って何かひとつのキャリアを進んでいたんだけど、思うところがあって違うキャリアへ変えたいと考えている人など、人生にはいろんな“変わりたい”という場面があると思うんです。ただ、まだ大学を卒業したばかりなので、この先これをやりたいという具体的なビジョンはないんですが、教育が抱えている問題はどこがボトルネックになっているのか、どういうことなら自分がアプローチできるのか、その方法は何なのかをここ2、3年で勉強して、5年後くらいに大きくアクション起こしていけたらいいなと思っています。そしてモチベーションの上がらない人、自分には無理だと思って何かを諦めてしまった人、そんな人たちにこの本を読んでもらって、『コイツにできたなら、自分もできるかも』と思ってもらえたら嬉しいですね!」
取材・文=成田全(ナリタタモツ)