子どもの虐待を防いだり、虐待を受けた子どもの自立を支援するには、どうすればいいのか。児童虐待の問題について考えるシンポジウムが10月3日、東京・渋谷で開かれた(主催:認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク)。
その中で、虐待などの辛い過去を抱えながら成長した若者たちの「その後」についても語られた。児童養護施設などで育った若者の多くは、退所後も様々な困難に直面している。その問題解決のサポートを行うアフターケア相談所「ゆずりは」の高橋亜美所長は、厳しい現実を紹介した。
「施設を退所した後、ホームレスになって、大晦日に『住む場所がない』と連絡してきたり、女の子の場合は、性産業で働かざるを得なくなっている子や、望まない妊娠をして、産むことも育てることもできず、どうしていいか分からない子もいます。刑務所に服役した子、自殺した子もいます」
●「あなたを知っている人はもういないの」現在の制度では、児童養護施設などで過ごせる期間は基本的には18歳までで、延長したとしても、20歳までしかいられない。そして、18歳や20歳で施設を出た後は、自力で生活を維持していかなければならない。
高橋さんによると、施設の退所者は、虐待などの辛い記憶が突然フラッシュバックして、人間関係がうまくいかなくなったり、就労に支障をきたすことが多々あるという。また、「一般家庭の子どもと比べて低学歴で資格もない」ことも、退所後に困難な状況に陥る要因の一つだという。
では、問題が起こったとき、親や家族、入所していた施設に頼ることはできないのか。親との関係ついて、高橋さんは「児童を虐待していた親が、施設から戻ったら殴らなくなっていたなど、いい方向に変わったケースはほとんどない」と厳しい実情を指摘する。
また、施設についても、「児童養護施設は、職員にとって長く継続して働きにくい環境。退所者が相談しようと思っても、自分の担当者が辞めていることが少なくなく、せっかく連絡したのに、『あなたを知っている人はもういないの』と言われてしまうことがある」と話す。
●問題をひとりで抱え込んでしまう人が多いこのような実態には問題があるとして、施設退所者の自立をサポートする取り組みが施設側に求められていると、高橋さんは指摘する。
一つは、施設に在籍した人の情報を職員間で引き継ぎ、退所後に相談があったときにきちんと対応できるような体制を整えることだ。施設に在籍している間に、就労につながる資格や学歴を取得させることも大切だという。
「ひとりで生きているのではなく、誰かに頼ってもいい。助けを求められることが、自立しているということなんだよ」。施設退所者をサポートする中で、高橋さんが彼らに伝えるメッセージだ。「自立したのだから、もう頼ってはいけない」。施設退所者の中には、そう考えて、問題をひとりで抱えこんでいる人が少なくないのだという。
●施設退所者の最大の問題は「孤独感」シンポジウムでは、児童虐待の防止に取り組む「子どもの虹情報研修センター」の川松亮・研究部長によって、2011年に東京都が施設退所者に行ったアンケートの結果が紹介された。
それによると、「施設を出て困ったことは何か」という質問に対して、「孤独感」と答えた人が29.6%で、最も多かった。以下、「金銭管理」「生活費」「職場での人間関係」と続く。また、問題があっても「誰にも相談できなかった」という人が16.8%いた。
さらに、大学に進学したものの中退したという人が21%いた。アルバイトとの両立ができないことや心身のストレス、学費の負担が、主な原因だという。川松さんは「施設の退所者は、心身ともに苦しい状況におかれている。どうアフターケアしていくかが問題だ」と語った。
(弁護士ドットコムニュース)