公設図書館を民間企業に運営委託する「ツタヤ図書館」が批判にさらされている。生みの親である佐賀県武雄市では「選書」を巡る問題で運営会社が謝罪に追い込まれ、4日に愛知県小牧市で行われた建設計画の是非を問う住民投票では反対が賛成を上回った。武雄市をきっかけに巻き起こったツタヤ図書館ブームはこれで終わるのだろうか。
小牧市の住民投票では賛成が44%、反対が56%。投票率は50・38%だった。投票結果に法的拘束力はないが、条例は市長に結果を尊重するよう求めている。計画を推進してきた山下史守朗市長は記者会見で「必要に応じて見直しする」と述べた。
小牧市の計画は図書館の老朽化を踏まえ、42億円を投じて小牧市駅前に地上3階地下1階、延べ床面積5770㎡の新たな図書館を建設するというもの。収用冊数は現在の蔵書数の2倍を超える50万冊で、座席数も164席から550席と大幅に増やす。
運営を受託するのはツタヤの運営会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。武雄市と同様にCCCが運営する書店やカフェなども併設する。当初は一般的な公設図書館とする予定だったが、武雄市の「成功」にならって全面的に見直した。
先駆者である武雄市が樋渡啓一前市長の肝いりで図書館を全面改装し、CCCを指定管理者として運営を委託したのは2013年4月。CCCはスターバックスを含む蔦屋書店を併設し、民間目線で図書館の開館時間を17時までから21時までに延長。週一回だった休館日も廃止した。
民営委託には一部市民から反対もあったが、話題性やおしゃれな内装などから実際にリニューアルオープンすると客が殺到。初年度の来館者数が前年比で3.6倍に増え、20億円の経済効果をもたらしたという。今年10月1日には武雄市をモデルに神奈川県海老名市の市立中央図書館がリニューアルし、ツタヤ図書館としてオープンした。
●ツタヤ図書館、住民投票の結果は冷静に受け止めるべき
風向きが変わったのは今年8月だ。リニューアルの際に新たに購入された資料1万冊の一覧がネット上に出回ったところ、古い実用書や佐賀県からはるか遠くの埼玉県の関連本などが多く含まれていたことが発覚。CCCが当時、資本関係のあった「ネットオフ」から購入していたこともわかり、「CCCグループの在庫処分」との批判が巻き起こった。
当初は静観していたCCCだが、批判の広がりを受け、「より精度の高い選書を行うべき点があった事を反省しております」と謝罪。リニューアルの際に購入した1万冊のうち、一度も借りられていない1630冊については代替の蔵書を無償提供すると表明した。
小牧市の住民投票はツタヤ図書館に逆風が吹く、こうした最悪なタイミングで行われた。しかも、住民に与えられたのは「賛成」と「反対」という2つの選択肢のみ。住民がどういう理由で反対票を投じたのかは、冷静に受け止めなければならない。
●民営化図書館はツタヤ図書館以外にもある
住民投票を主導した市民団体が問題視したのは①市長の独断的な市政運営②建設費の高さ③ツタヤ図書館には問題点が多い――という3点。反対票を投じた市民は大きく分けて市長反対派と大型公共事業反対派、ツタヤ図書館反対派の3派が混在していたとみられる。
ツタヤ図書館に反対した市民が「公設図書館の民営化」自体に反対であるとも限らない。武雄市で騒動となった選書の問題は、民間企業であるCCCの問題。「民間企業に任せれば儲けを優先する」と、行政機能の民営化をひとくくりに否定すべきではない。
行政が蔵書の構成方針を確立し、方針通りの運営がなされているかチェックしていれば、民間業者に委託しても質の担保は可能だろう。現に東京都千代田区では2007年から民間業者に図書館の運営を委託しているが、武雄市のような問題は表面化していない。
小牧市の場合は大型箱モノ建設による市街地活性化という旧来型の発想への批判も多かったとみられる。駅前の私有地を民間に開放し、ゼロベースで開発案を民間に競わせる手もあったのではないか。公共投資ありき、図書館ありき、ツタヤありきの発想が市民の拒否反応誘ったと考えられる。
図書館を運営できる民間企業はCCCだけではない。幅広い企業が参入し、アイデアを競ってこそサービスや質の向上が見込める。ツタヤ図書館を「一過性のブーム」ととらえるのではなく、行政機能の民営委託の更なるレベルアップが図られることを期待したい。
(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)
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