■ 元彼との5年間で大切な時間を失った
雑誌「AERA」で「結婚はコスパが悪い」と題した特集が組まれたのは6月。現在はさらに進んで「恋愛はコスパが悪い」と主張する声が聞こえる。仕事や勉強とは異なり、本人の努力次第ではどうにもならないのが恋愛、結婚だからだ。
「恋愛でストレスをため、無駄な時間を過ごすくらいだったらシングルで十分」と話すのは薫子さん(35歳)。彼氏はおろか好きな人すらいないが自分的には充実した毎日を送っているという。
「25歳のときに交際を始めた元彼とは社内恋愛でした。5年付き合ったものの、彼の転勤をきっかけに別れることに。ところが別れて一年後くらいに元彼は友達の紹介で知り合った女性とちゃっちゃと結婚したんです!! マジかって、寝耳に水状態。未練はなかったけれど、正直、20代のいちばんいい時期を無駄にしてしまったという後悔があります。交際中も、元彼の二股疑惑で精神的に疲労したこともありましたしね……。あそこまで彼に入れ込んだのに結局、今の私には何も残っていないなんて」
現在、薫子さんは某有名企業へ転職活動中。キャリアアップへのモチベーションと反比例して、恋や出会いに関心が向かない。
「35歳の誕生日を迎えたときに、自分はフツーに結婚して子どもを産む人生は難しいかもしれないと、リアルに感じました。それで悟りを開いたというか(笑)。それまでは恋愛しなくては、結婚しなくてはという焦りがあったけれど、開き直って“一生、恋愛なしの独身も悪くない”と思ったらラクになった。誠実に働いて、コツコツ老後のための貯金していけば何とかなるんじゃないか」
結婚したカップルの3組に1組が離婚するといわれている時代。離婚するには精神的・金銭的な負荷がかかる。「35歳ともなると結婚するのにそれなりの努力が必要に。でもせっかく結婚できても3割の確率で別れてしまう。それならばいっそ、気持ちを切り替えて独身生活を満喫したほうが人生に無駄がないのではないでしょうか」
■ 人生はあらゆることが低コスパ
そもそも「コスパ」とはなんだろう。恋愛・結婚に関してはコストが問われるものの、「友情はコスパが悪い」などといわれることは少ない。でも、OL時代にさんざんつるんでいた○○ちゃんが、子ども産んでからはさっぱり連絡をくれなくなったばかりか、SNSに子どもの成長ぶりをこれでもかとつっこんでくるので、ボディブローのようにストレスが溜まっていくだとか、過去の友情関係に味噌がつく経験は誰しもあるはず。
さらにコスパ感覚を追求するなら、原価率が数%程度といわれる化粧品を使ってメイクをすることは損の上塗りになる。賃料の高い東京に住むのはもはや大損。都会で消耗している場合ではない。経営者以外の労働者はほどよく労働力を搾取されているので「仕事はコスパが悪い」。
しかし友情、仕事、美容などに関してコスパ云々を言わないのは、これらが必要不可欠だからに他ならない。人生において「恋愛・結婚」は必要性がないからこそ、コスパが悪かったり無駄だと感じやすいのである。薫子さんが、「恋愛・結婚はコスパが悪い」といったのは、彼女の価値観の中では真実だ。
■ 「コスパ教」の罠に注意
一方で恋愛・結婚を望んでいるものの、いっこうに彼氏ができないという苦い現実を認めたくないゆえに、すべての責任をコスパに転嫁するケースもある。プライスレスな人間関係を値付けすることは土台無理な話なので、「恋愛はコスパが悪い」という主張を理論的に切り返すことは難しい。それゆえ「コスパ」は現実逃避をしたいときにかなり都合のいい呪文。
パワーストーンやお守りを信じたくなるのと同じように、この言葉に頼りたくなったら女としての自分に自信が持てなくなっている可能性が大きい。なお、なんでも受け入れてくれる「コスパ教」は、「年収○万円でない男は無理」という言説に変わったりもするから、ご注意あれ。(来布十和)