原始的なようでもあり、賢そうでもあり。
今年9月、研究者たちが未知のヒト属「ホモ・ナレディ」の発見を明らかにしました。その後分析が進み、この原人の特徴がわかりつつあります。彼らは木登りができて道具も使える手、そして直立歩行に適応した足を持っていたらしいんです。
この絶滅した原人の遺骨は、南アフリカにあるライジングスター洞窟のディナレディ空洞で2013年に発見されていました。発掘された骨の数は1550に及び、少なくとも15体分に相当すると見られています。学術誌イーライフに掲載された論文では、47人の共著者がこの骨はヒト属のまったく新しい種のものであると主張しました。この種が現代のヒトの祖先であると判断するには時期尚早ですが、少なくとも祖先が共通であることははっきりしています。
ホモ・ナレディの骨。(Photo credit: John Hawks_Wits University/CC)
ホモ・ナレディの体重は約100ポンド(約45kg)、身長は5フィート(約150cm)弱で、400万年ほど前に東アフリカで生まれた原人、アウストラロピテクスに似た体格です。が、その頭蓋骨の形はより初期のヒト属に似ています。化石の年代推定は今後さらに精緻化する必要がありますが、現段階では250~300万年前のものと見られています。
ただし研究者の間では異論もあります。まず発見された化石すべてがひとつの種のものかどうかを判断するにはさらに検討が必要であり、年代推定が終わるまでは、この発見の意義は完全にはわからないとも言われています。
さらにNatureには上記とは別の論文2本が掲載され、ホモ・ナレディの足と手について詳細が報告されました。そこでは、ホモ・ナレディが木登りも歩行も主要な動作として可能であり、なおかつ手や指の細かい動きもできたことが示されています。
ひとつめの論文はニューヨーク市立大学の文化人類学者、William Harcourt-Smith氏らの共著によるものです。ホモ・ナレディの足については、デナレディ空洞で見つかった107個の足の骨を元に説明されており、その中には良い状態で保存された成人の右足の骨もありました。
その論文によると、ホモ・ナレディと現代のヒトには多くの共通点があります。たとえば、2本足で立ったり、歩いたりできるということです。逆に違うのは、ホモ・ナレディの足指の骨が現代人より曲がっていたことです。
ホモ・ナレディの足を再現したもの(Image credit: W. E. H. Harcourt-Smith et al., 2015/Nature)
「ホモ・ナレディの足は多くの意味であなたや私のそれに似ており、指摘しやすいのは細かい違いばかりです」と論文の共著者であるダートマス大学のJeremy DeSilva氏は米Gizmodoに語りました。「かかとは我々のものよりやや頑丈ではなく、土踏まずはやや平らで、つま先はややカーブしています。これら比較的マイナーな違いを除くと、ホモ・ナレディはネアンデルタール人以外では既知の初期ヒト属のどれよりも現代人に近い足をしています。足と脚部、ひざの分析結果からは、ホモ・ナレディは現代の人間にかなり近い形で歩いていたと言えます」
さらにホモ・ナレディの足には、現代人と同じくらいの強度や荷重耐性がありました。それはチンパンジーにはない特徴であり、この種が二足歩行ができたことを示唆しています。論文にはこうあります。
ヒト属の中には、原始的な足と比較的小さな脳で知られる種(ホモ・フローレシエンシス)や、ホモ・ナレディより発達した足と大きな脳で知られる種(たとえば初期のホモ・エレクトス)などがある。が、ホモ・ナレディは、足や脚部が発達していて脳が小さく、これは原人の中で初めて見られる組み合わせである。
そしてアウストラロピテクスでよく知られている「ルーシー」のように、ホモ・ナレディの骨盤はより外側に開いていて、より歩きやすい形になっています。
一方Tracey Kivell氏らのチームは、ホモ・ナレディの手について、ほぼ完全な成人の右手を含めた150ヵ所近いポイントを精査し論文にまとめました。その結果ホモ・ナレディの手には、人類の化石としてはこれまで見られなかった特徴があることがわかりました。
ホモ・ナレディの手を再現したもの。(Image credit: W. E. H. Harcourt-Smith et al., 2015/Nature)
まず手首と親指の骨の分析からは、ホモ・ナレディには強い握力があり、石器を使うのに必要な正確な手の動きが可能だったことがわかりました。
論文の要約部分にはこうあります。
この手には、ネアンデルタール人や現代人と共通の長く頑健な親指と、(発達した)手首の形態がある。これらは発達した手の扱いに適応したものと考えられる。だが、指の骨は多くのアウストラロピテクスより長く、生活の中で移動中に木に登ったりぶら下がったりするため強く握る必要があり、頻繁に手を使っていたことがうかがえる。後頭部や手の骨からは発達がうかがわれるが、カーブした指や人間に近い手首・手のひらからは、木登りがかなり重要だったことが示されている。
つまりホモ・ナレディの手には、木登りという一見原始的な機能と、道具の使用という現代人的な機能が共存していたようです。
「ホモ・ナレディにおいては、手には道具を使う機能がありながら脳が小さい。このことから、道具を作り、使うのにどの程度の認知能力が必要なのかについて興味深い示唆が得られる。またこれらの化石の年代によっては、南アフリカで見られる石器を誰が作ったのかという問題にも影響する」とKivell氏は発表文で述べています。
これらは非常に興味深い発見なので、「ホモ・ナレディこそ既知の原人の歴史におけるミッシングリンクだ」なんて言う人もいます。が、DeSilva氏は、そんな言い方は避けるべきだと言います。
「ミッシングリンク」というコンセプトは、「人間は今知られているサルから進化した」という古い間違った考えや、そこから来る「化石とは半分人間、半分サルの祖先である」という想定にもとづいています」とDeSilva氏。「でも進化とはそんなものではありません。サルだって進化してきたのです。」
DeSilva氏によれば、人間がチンパンジーから進化したのではなく、人間とチンパンジーには、人間でもチンパンジーでもない共通の祖先がいたのです。
「我々は初期のヒトの祖先や絶滅した親戚の化石を持っています。そしてヒトの化石の記録が増えることで、サル的あるいは人間的な特徴の異なる組み合わせを持つホモ・ナレディのような種についてわかってくるでしょう。でも私はホモ・ナレディを『半分人間・半分サル』とは絶対に呼びません。」とDeSilva氏。「我々の進化の歴史は、そんな想定よりもっと複雑で、もっと興味深いものなのです。」
George Dvorsky-Gizmodo US[原文]
(miho)