先日、Amazon AWSは4年目となるデベロッパー向けカンファレンス、re:Inventを終了した。これを見ると、Amazonがもはやデベロッパー向けプラットフォームではなく、スモールビジネスからFortune 500にリストアップされるような大企業まで、あらゆる企業のニーズに応えるフル機能のエンタープライズ・クラウド企業となったことが分かる。
今やAWSはパブリック・クラウド市場を制覇したことが明らかだが、これはパーソナル・コンピュータの登場以来、エンタープライズ・コンピューティングにおける最大のディスラプトだと思われる。
いくつか具体例を挙げよう。
- AWSはどの顧客企業よりもはるかに巨大だ。したがって顧客企業はAWSの料金とストレージ容量に太刀打ちできない。規模のメリットを活かすことによってAWSは最新、最良のテクノロジーをいち早く導入することが可能となり、もっとも優れたインフラとハードによるシステムを構築できる。いかなる大企業といえども最後にはAWSの規模の経済に太刀打ちすることは不可能となるだろう。この点、Zyngaのエンジニアの証言を聞くのはためになる。彼らは数年前にAWSを飛び出して独自のクラウド・インフラの構築を図った。しかし、結局彼らはその試みが無駄だったことを認め、AWSに戻ってしまった。Amazonほどのスケールになれば、その巨大さがますます多くの顧客を惹きつけることになる。
- AWSエンタープライズ事業の拡大はこれがすでにメインストリームとなったことをうかがわせる。たとえば、Capital One、Hertz、AOL、John
Deere、 FINRA等々の大企業がAWSのクラウド・サービスの新規顧客として注目されている。Capital Oneのキーノート・プレゼンがかっこうの例だ。Capital
Oneのカスタマーは今やAWSで作動するアプリを利用することになっており、Capital Oneはこれがなぜ最良の解決法で他社もいずれこれにならう他ないかをデータで説明している。それだけでも十分興味深いが、 Capital Oneはフィナンシャル・サービスを提供する会社であり、最新のクラウド・テクノロジーにまっ先に飛びつくような企業ではない事を考えると、クラウドの浸透ぶりがうかがえる。
- すでに事業として成功を収めているにもかかわらず、AWSは驚くべきスピードでイノベーションを進めている。今年に入ってすでに500以上の新機能を追加しているし、re:Inventカンファレンスだけでもさらに大きな機能追加の告知があった。Amazonはクラウド・サービスの本質を深く理解しており、顧客のニーズ、サービスの利用形態も他のどのプレイヤーより深く知っている。他社がやっと事業を軌道に乗せ、収益を上げられそうになったとき、AWSはすでにその先を行っているわけだ。
- Lambdaは非常に重要なプロダクトだ。というのも、これはAmazonの精神、いわばマインドセットを知る手がかりになるからだ。このイベント・ベースのコンピューティング・サービスは去年秋、メジャー・アップデートを受けた。Python、VPCがサポートされ、関数の生存期間が延長されるなどした。サーバーなしで複雑なアプリを作動させようというこのアプローチは斬新で興味あるものだが、重要なのはAmazonが各種AWSサービスとEC2のカニバライゼーション(共食い)を避けるつもりがないことが分かる点だ。歴史的にみて、AWSのコストには圧倒的な競争力がある。Amazonはこの点、いわゆる「イノベーターのジレンマ」を避けようとせず、AWSの利点を最大限に利用するつもりのようだ。これは競合他社にとって脅威となるだろう。.
- 最後に、AWSはもはや IaaSサービスにとどまらないことを注意しておきたい。AWSはスタックを拡充し、顧客との関係を密接化し、クラウド・サービスをますますユーザー・フレンドリーなもにしている。たとえば、 Amazonは今週、ビジネス・インテリジェンス・プロダクトとしてQuickSightを発表した。これはエンド・ユーザー向けで必ずしもデベロッパー向け製品ではない。驚くべき進展ではないかもしれないが、AWSサービスの上にさまざまなシステムを構築して収益を上げている他社に恐怖を与えるには十分だっただろう。Amazonがビジネス・インテリジェンスなどの分他で洗練されたサービスを提供できるまでにはかなりの時間がかかるだろう。当初は機能不足で荒削りなものにとどまる可能性が高い。それでも他社はAWSがいつまでも infrastructure-as-a-serviceの段階で満足はしていないことを知るだろう。
AWS事業は通年換算で100億ドルの事業に成長した。対前年比で81%の成長だ。これはエンタープライズ・コンピューティングの分野として驚くべき高成長だ。Bairdによれば、AWSの今年の売上はデータセンター事業全体の 5%、全エンタープライズ市場の 1%以下にしかならないという。逆にみれば、AWSにはまだ大きな成長の余地が残されていることんなる。AWSのスケール・メリットとこれまでの実績は次の10年で飛躍するための理想的な土台となるだろう。
AWSのカンファレンスが終了した頃、DellがEMCを買収するという情報が流れた。 EMCの最大の資産はもちろんVMwareだ。EMCは言うまでもなくオンプレミスのエンタープライズ・ストレージの頑強な支持者であり、そのVMwareはサーバーのバーチャル化のチャンピオンだ。両者はオンプレミスのエンタープライズ・データセンターの基盤としてこの10年以上。大きな成功を収めてきた。しかし今はおそらく、彼らの最良に時期はAWSによって過去のもにされかかっているのではないかという不安に捕らわれている頃だろう。
これに引き換え、AWSは上り坂であり、大規模な企業コンピューティングのあらゆる局面をリードする立場にある。もちろんMicrosoft、IBMなどはエンタープライズ市場の攻略に向けて巨大な資産を蓄えている。そうであっても現在この分野を主導するのはAmazonであり、世界でもっとも重要なIT企業であるという点は揺るがないだろうというのが私の考えだ。.
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)