脳から脳へ、直接対話。
もし、自分の考えを言葉やサインなしに伝えることができたら、どうなるでしょう? もしかすると、言語を介さない分、より純度の高い情報や気持ちを伝えられるかもしれませんね。
もちろん、まだSFの世界での話ですが、それに近づこうとする試みが成功しました。もっとも、ややこしい装置を用意しないといけませんし、たった2分の会話を伝えるにも数時間はかかってしまいましたが…。
それでも、この脳−脳間インターフェイス(Brain-to-Brain Interface:以下BBI)とよばれる研究は大きな意義があります。なぜなら、その研究が進めば、脳の損傷などの疾患で会話できなかった人が、他人とコミュニケーションできるようになるかもしれないからです。
PLOS ONEに発表されたレポートによると、ワシントン大学のチームが、次のような方法でBBIの実験に成功しました。
実験では、BBIでつながっている質問者と回答者の2人が参加します。質問者は回答者に「YES」か「NO」で答えられる質問をすることで、相手が何について考えているかを当てます。まず回答者は、あらかじめ決められたカテゴリの8つの中から、ひとつオブジェクトを選択します。仮にここでは「動物」から「犬」を選択したことにしましょう。
次に質問者(8つのオブジェクトは知っている)が、回答者が何を選んだかを知らないまま、用意された質問のうち3つを投げかけます。すると、回答者の前にあるディスプレイに「それは飛びますか?」という具合に質問が表示されます。これに対する回答がBBIを介して伝えられるんです。
質問への回答方法は点滅するLEDを見つめるだけ。「YES」と「NO」があり、それぞれ周波数(13Hzと12Hz)が異なります。
「YES」の場合は、目から入った光に回答者の脳が反応し、質問者が頭に装着している経頭蓋磁気刺激(TMS)マシンに13Hzの信号が送られます。すると、彼らの視界に眼内閃光(フラッシュのような残像)が起きるので、回答が「YES」だったことが分かるんです。回答が「NO」だった場合は何も起きません。
冒頭でも書きましたが、この実験はものすごく時間がかかります。まず、今の段階だと回答者はLEDを20秒間見つめないといけません。
それに、質問者も眼内閃光が回答によるものと判断できるように、1〜2時間の練習が必要でした(疲れていたり、神経が立っていると目がチカチカしますからね)。
これだけ労力と時間をかけてやっているのが、普通の会話なら5秒とかからない質疑応答なんです!
バカバカしいと思うかもしれませんが、この研究によって2つの重要な成果が得られました。まず、情報の伝達は95%の確率で成功しています。今後さらに改善されていくでしょう。
次に、(準備に時間はかかりましたが)BBIはリアルタイムでの情報伝達に成功したということです。つまり、研究が進めば、他の通信手段と同じように使える可能性もあるってことです。
まだ小さな一歩かもしれませんが、この実験は脳と脳を直接つなぐインターフェイスを大きく進歩させる糸口になりそうです。将来的には、言葉を発することができない患者とのコミュニケーションなど、医療分野で実用化されることが期待されています。
参考文献
Andrea Stocco, Chantel S. Prat, Darby M. Losey, Jeneva A. Cronin, Joseph Wu, Justin A. Abernethy, Rajesh P. N. Rao (2015) Playing 20 Questions with the Mind: Collaborative Problem Solving by Humans Using a Brain-to-Brain Interface. PLoS ONE 10(9): e0137303.
doi:10.1371/journal.pone.0137303.
*本稿は、論文サイトPLOS Blogsに掲載された記事を、米Gizmodoがクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に再掲したものを抄訳しています。
Top image by Stocco et al., PLOS ONE 2015
Pierre Mégevand - Gizmodo US[原文]
(高橋ミレイ)