映画『オデッセイ』、NASAの協力で現実よりリアルに

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実際のNASAをベースに、さらにわかりやすく。

SF映画では、ストーリー的にも登場する小道具・大道具的にも「こんなのありえない!」ってものがよくあります。が、米国で現在公開中の映画『The Martian』(邦題『オデッセイ』)は、いろんな面でリアリティを厳しく追求しています。リドリー・スコット監督たちは近未来の宇宙探査技術を具現化すべく、リアルな宇宙の専門家であるNASAに協力を求めたのです。

『オデッセイ』制作中、NASAはこの映画のセットデザイナーやグラフィックデザイナーといった人たちに対し、直接惜しみない協力をしてきました。未来の宇宙技術を実際に作る人たちと、それを想像する人たちがひとつになったのです。

山のようなデータ


『オデッセイ』の主人公、マット・デイモン扮するマーク・ワトニーが通信に使っている画面やグラフィックスを作ったのは、ロンドンを拠点とするTerritory Studioです。彼らは『エクス・マキナ』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』といった映画のグラフィックスでも実績があります。彼らとNASAのコラボレーションが始まったのは2014年、同社のアートディレクターMarti Romances氏とその創業者David Sheldon-Hicks氏がこのプロジェクトを引き受けたときのことでした。

その後はNASAの専門家とTerritory Studioの間でメールや電話でのやりとりの日々でした。NASA側は太陽系探査プログラム・エグゼクティブのDave Lavery氏が責任者となりました。Lavery氏はTerritory Studioが作るシステムを極力リアルにすべく、宇宙飛行士や地上管制官が宇宙飛行時に使うシステムやそのインターフェースについての山のようなデータを提供しました。


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上:『オデッセイ』でのミッションコントロール。下:2011年のスペースシャトル・アトランティスの打ち上げのときのNASAのミッションコントロール


「我々の作品は、類型として、ウソっぽい・現実にそぐわないといった批判をよく受けます」とSheldon-Hicks氏は語ります。「でも、宇宙飛行士やNASAのジェット推進研究所のエンジニアと話をして、これだけのデータや情報、調査結果をもらえるのは、ほとんど夢のようです」

NASAで太陽系探査を率い、火星のキュリオシティ・ミッションのチームリーダーでもあるLavery氏は、『オデッセイ』のスタッフに対して出し惜しみをしませんでした。共有した情報の中には、一見意外なほど退屈なものもありました。Sheldon-Hicks氏は、「ここまでスプレッドシートやカレンダーやスケジュールが重視されているとは思わなかった」と語っています。


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『オデッセイ』のデザインで一番大事なのは、数十年後のNASAの姿を作り出すことでした。Territory StudioのRomances氏が言うように、「そのためにベストなのは、現在のNASAに何があるかを知ること」です。そして場合によっては、Romances氏がNASAの探査機のインターフェースについて冗談めかして言うように、現在のテクノロジーが「ものすごくカッコ悪い」こともあるんです。

リアルなデータで語るフィクション


Territory Studioの手にかかると、そんなスプレッドシートやチェックリストの役割はそのままで、見た目だけがよりわかりやすいように工夫されていきます。

NASAのインターフェースデザインの考え方は、『オデッセイ』にも色濃く反映されていて、それはデータに満ち満ちたミッションコントロールを見れば一目瞭然です。でもそんなNASA的な実データとともに、映画の観客にとってもわかりやすいような要素、たとえば打ち上げ機のセクションカットや、打ち上げ場所の映像などが埋込まれています。


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よく見ると、画面を構成する要素はリアルな細かいデータと、ストーリーを語るビジュアルの組み合わせであることがわかります。たとえば火星の天気を示す画面にはリアルデータが詰まっていますが、それは近づいてくる砂嵐の「衛星」写真と組み合わされています。

『オデッセイ』に登場する宇宙船Hermesのユーザーインターフェースも見られます。これもNASAの協力で実現したものですが、グラフィックデザインはTerritory Studioによるものです。


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『オデッセイ』では、こういったリアルとフィクションのパッチワークがいたるところで見られます。最近は宇宙飛行士が宇宙での仕事や生活をストリーミングすることがよくありますが、『オデッセイ』にもそんな設定の動画があります。マーク・ワトニーが一人称視点でクルーのインタビュー動画を撮るという設定で、登場人物の紹介になっています。下のYouTube動画がそれですが、導入部分など、体裁はまるで本物の宇宙からの公式動画のようです。


映画はタイムカプセル


『オデッセイ』は非常にリアルではありますが、宇宙技術はつねに進化を続けており、その進み具合によってはこの映画に描かれたものもいつか古臭くなってしまうのかもしれません。

たとえばワトニーにとって大きな障害になるのは、NASAとの通信に遅延が発生することでした。でも人間が火星に行かれるようになる頃には、そんな遅延が起こらなくなっているかもしれません。

またワトニーの宇宙服の腕の部分にある通信デバイスは、半分現代、半分未来、ふたつのレベルのテクノロジーのミックスです。というのは、現在の宇宙服の手袋では指の細かい動きができないので、この画像のように小さなタッチスクリーンの操作は無理なんです。なのでところどころ、ディテールに関して非現実的という批判を受けるかもしれません。


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この映画には他にもたくさんのテクノロジー要素が登場しますが、それぞれの要素が将来どうなっているか、正確な予測は難しいです。未来の火星宇宙飛行士は、たとえば宇宙船Hermesのクルーが使っているようなラップトップのスクリーンを使ってコンピューターを操作するんでしょうか? それともインターフェースはスクリーンじゃなく、ジェスチャーとか音声ベースの操作になるんでしょうか?


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原作のアンディ・ウィアー氏とスコット監督が『オデッセイ』で目指したのは「ものすごくリアルな未来のNASAを映画化する」ということで、それはほとんど不可能です。でも、それでいいんです。『オデッセイ」が描いた数十年後の姿がどの程度リアルであるかにかかわらず、それは我々が今捉えている宇宙やテクノロジーの現実、そして今後に対する理解を反映しているんです。

「ときどき、我々はすごくお金をかけてNASAと未来をシミュレートしているような感覚に陥りました」とSheldon-Hicks氏は言います。「そしてそれに参加できたのは、光栄でした。」


Kelsey Campbell-Dollaghan-Gizmodo US[原文
(miho)