アジャイルの流暢性(fluency)とは - Agile Alliance & Agile Open Northwest Open Space Conferenceより

Agile AllianceとAgile Open Northwest Open Spaceがオレゴン州ポートランドで共同開催したイベントで,9月24日,Declan Whelan氏とDiana Larsen氏が2つのセッションを指導した。その中で両氏は,Agile Fluencyモデルを技術的負債の理解と対処に応用する方法の一例として,そのモデルに基づいたゲームを紹介した。このゲームは,チームが自らの流暢性(fluency)の目標を達成する上で,採用すべきプラクティスと原則を明確化する作業を支援するものだ。

Declanが主導し,“Solving the World’s Technical Debt Problems via Agile Fluency”と題された最初のセッションでは,まず始めに,強力な技術的プラクティスを持たないスクラムの増加が,開発チームにますます多くの技術的負債を抱え込ませている,という問題が提起された。

セッションはまず,議論の前提として,グループが合意できる技術的負債の定義を見出すところから始まった。Agile Alliance Managing Technical Debtという(プロジェクトないしポートフォリオレベルの)プログラムに参画している氏は,同プログラムでの技術的負債の定義を紹介した。

“コード内に存在し,製品寿命全体に渡って価値の提供を遅らせるもの。”

この定義に対して,議論を通じて“技術的負債は作成したコードを見ることで分かるもの”で,“私たちをスローダウンさせる技術的存在”である,という側面が追加された。

氏はさらに,Martin Fowler氏による技術的負債の4象限図を参照しながら,技術的負債の持つ複利的な側面を指摘した。すなわち,対処されないまま長く放置すると,解決にかかる費用もそれだけ高くなるのだ。

次に氏は,Agile Fluencyモデルの要約を説明した上で,その流れの中には“バス停(bus stop)”ごとに適用されるべきプラクティスが存在すること,組織が停車すると決めたバス停と製品の持つ技術的負債のレベルには相関関係があること,などを論じた。

そして,参加者に対して,ふれぞれの流れのレベルで適用されるべきプラクティスを挙げ,それを壁に貼り出すように指示した。

Fluency Practices

ここでモデルの考案者であるDiana Larsen氏とJames Shore氏がグループに加わり,同モデルに関する最新のアイデアをいくつか発表した。両氏がまず強調したのは,“バス停”を選択するのは組織であって個々のチームではない,という事実だ。組織が“切符を買って”,チームが“バスに乗り込む”のである。誰も切符を買ってくれなければ,チームは星1つの習熟度達成さえ覚束ない。

氏らはまた,このモデルについて,スキルと能力を相応なレベルで組み合わせることで,流暢な技術を達成するいうことも強調していた。流暢(fluent)であるというのは,プレッシャの下でもプラクティスを実行できる,ということなのだ。チームは,そして個人は,それぞれの技量の段階において,さらなる学習(一例としてAlistair Cockburn氏は,Shu-Ha-Ri(守破離)に言及した)の途上にあり,組織はそれをサポートする必要がある。

このモデルがさらに広範なコミュニティに採用されるように,氏らは,モデルを用いたアイデアと経験を共有する場としてGoogle Groupを用意した。さらに氏らは,チームが現在どの位置にあるのか自己評価を可能にし,目標とするレベルについて語る上での基礎にもなるような,チーム診断モデルも開発している。

第2のセッションを指導したのはDianaだ。氏は,SpotifyのChristian Vikstrom,Peter Antman両氏がSquad Health Check モデルの一環として開発した“Fluent@agile”というゲームを紹介した。ゲームの内容はビデオで紹介されているが,残念ながらポーランドの聴衆のためにスウェーデン語である。Dianaがゲームのセットアップ方法や使用方法の確認に参加者の支援を求めたため,検討や実験に多くの時間を要することになり,結果的にこれから述べるような合意を得ることができた。

ゲームはフリップチャート上に描かれた道路で構成される。道の途中にはモデルのバス停に対応する5つの停止場所がある。Spotifyの方法では,次のようなレベルを持ったミュージシャンのメタファを使用する。

  • アマチュアミュージシャン/スタジオアーティスト/ソロアーティスト
  • カバーバンド
  • 交響楽団
  • 自分たちの音楽を確立したバンド
  • 美しい音楽を即座に奏でることができる即興(シンフォニー)オーケストラ

ゲームには広い範囲の技術的慣行や能力について記載したカードがあり,プレイヤであるチームは,それを道路の内外に配置する。カードが道の上にある場合は,チームがその能力において十分な技量を持っているということであり,道の外ならば,将来的には必要ではあるが,現在はまだ技量が不十分であるということだ。次に,“運転免許”の条件となる能力値を選択する。それがプラクティスを学び,習熟する上での目標値となるのだ。

Fluency Game

このゲームのようなツールは,チームが今,流暢性モデルのどの位置にあるのかを示す指標となるだけでなく,マネジメントがそのチームをサポートし,所定の流暢性レベルに到達するまでの必要な投資を把握する上でも有効である。