性犯罪者の更生に効果絶大なのに誰もやりたがらないこと

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アメリカではレイプで捕まると、全国性犯罪者データベースに登録されて公開され、学校や公園のそばには住めなくなります。

中には高校時代に彼女といちゃいちゃしてたら父親に通報されて性犯罪者認定という人もいて、そういう人は「昔カミさんを襲ってしまいました」と近所に触れ回って理解を得るようですが。そうなんです、データベースは法務省のサイトで誰でも検索できるので、そうしておかないといろいろとまずいのです。

この法務省の性犯罪所轄部署、名前はSMARTといいます。以下の頭文字からきています。

性犯罪者を
Sentencing  :判決
Monitoring  :監視
Apprehending :逮捕
Registering :登録
Tracking   :追跡

いや~性犯罪者、逃げ場なし!

ただこうして隔離すれば性犯罪が減るのかというと、どうかな?という話もあります。今月、米ギズモードがそれを実証したあるカナダの牧師者さんの取組みを紹介してますよ。前置きも長いですが、この下はもっと長いのでお時間のあるときに。

チャーリー・テイラーの場合


1994年6月、児童性的虐待の刑期を終えたチャーリー・テイラーは、オンタリオ州ハミルトン中心街の公民館向かいの粗末なアパートに入居した。身寄りはない。保護監察官もいない。当時、性犯罪者は危険過ぎるということで仮出所も認められず刑期満了が基本だったが、その割にはカナダ矯正保護庁からは保護観察も更生支援もない。お粗末なものだった。

だが、彼には友だちがいた。メノナイト会派ザ・ウェルカム・イン教会の牧師ハリー・ナイ(Harry Nigh)。ここに彼を呼んだ人だ。面識があるわけでも、性犯罪者処遇の訓練を受けたわけでもない。なのにナイ牧師はチャーリーを歓迎し、夕食に招いた。息子は当時まだ小学3年生だった。チャーリーがどういう人物か知ったのは、ずっと後になってからだ。学校で配られた警告のビラにテイラーの顔が出ているのを見たときだった。

ナイ牧師は内心ビクビクしていた。チャーリーが心配なのではない。隣近所の目だ。「街から追い出されるんじゃないかと思ってました」(牧師)

それ怒るの当たり前、とむしろ隣近所に同情する人がたぶんほとんどだろう。実際問題アメリカとカナダでは性犯罪者をどんどん社会から隔離する方向に動いている。住む場所を制限し、監視プログラムもあれば、地域住民通知プログラムもある。刑期を終えてからも民事上の拘束で事実上、一生牢屋につながれているようなものだ。

ナイ牧師がチャーリー・テイラーのために考えたプランは、何から何までがその正反対だった。それは後に「CoSA (Circles of Support and Accountability:支援と責任の輪)」という運動に発展した。今や性犯罪前科者の再犯率を下げる目的で世界中で使われているモデルだ。20年に渡る調査でも、このモデルの有効性はほぼ実証されている。少なくとも隣近所に性犯罪者を告知するよりはよっぽど効果的なのである(隣近所への告知はむしろ再犯率を上げる)。

だが、ナイ牧師がチャーリーを連れてきたときには自分の思惑どおり事が運ぶ保証はどこにもなかった。あるのは単に、刑事法は地域ぐるみで支える「修復的司法」でなければならないという信念だけだった。犯罪は凶悪犯罪もひっくるめてみな、見られたいという飢え、失われたものを埋めたい飢えからくる、そうナイ牧師は考えていた。

現在のCoSAの活動は、1994年のチャーリー・テイラーのグループの活動をそっくりそのまま踏襲している。地域ボランティア4~6人が、超危険人物と思われている出所後の性犯罪者と、とにかく友だちになるのである。性犯罪者と定期的に会って、性犯罪者の職探しや家探しを手伝い、クリスマスには家に呼んで、社会の仲間入りを助ける。こうした活動は世界中にあるのだが、あまり一般受けは良くない。米国でCoSAがまともに機能している州は7州だけだ。カナダに至っては CoSAへの政府の援助も最近打ち切られてしまった。

CoSAは実証されているプログラムなのに、政府はこれを無視し、なんの実証性もない法律を優先し続けている。CoSAを反科学に抗う活動と片付けるのは簡単だが、科学的裏付けだけでは政策が動かないという、いい例だ。

A Circle of Friends―友だちの輪


引っ越してすぐの夜、チャーリー・テイラーはバーベキューに出掛けた。ナイ牧師が庭で歓迎パーティーを開いたのだ。チャーリーは警察を誘ってみた。その日、裁判所に同行してもらって、いい人だと思ったから。警官たちは来ることは来たが、家には一歩も上がらず、ただ車から眺めているだけだった。チャーリー・テイラーは24時間監視されていたのである。

Bob Maxwellもそんなチャーリー番のひとりだった。当時殺人捜査班の副警部だった彼の仕事は、毎朝チャーリーを見張ること。その仕事を通して、ナイ牧師と教区の人たちの取組みをつぶさに眺めてきた。最初は胡散臭く感じ、何か隠れた魂胆があるのではないかと思っていた。甘い気持ちで関わって、チャーリーの人生にストレスが加わるのも心配だった。警察には、ひと言も連絡がなかったので、どういう集団なのかもよくわからなかった。

だが、チャーリーの生い立ちのことはよく知っていた。「家庭崩壊で、 5歳でインダストリアルホームに入れられた。ガキの牢屋みたいなところさ。 自分で悪いことしたわけでもないのに」。チャーリー・テイラーはそこで数人に何度も性的虐待を受けた。ティーンになる頃には、自分も同じことをほかの子どもたちにしていた。性犯罪者のほとんどは刑事ドラマに出てくる犯人像とは違う。他人の子どもを誘拐して凶行におよぶ性犯罪者は極めて稀であり、死ぬまで再犯を繰り返す人も稀なら、普通の社会生活が送れない人も稀なのだ。

この法則を証明する機会はなかなか与えられないが、チャーリーは例外だった。カナダ矯正保護庁でチャーリーの事例を担当した時からCoSAのことを調べてきた心理学者のRobin Wilson氏によれば、チャーリーは18歳の時に初めて刑務所に入れられ、以来、出たり入ったりを繰り返していたという。罪状は毎回、幼児の性的虐待。ナイ牧師が引き取った時には、もう41歳で、犠牲者は少年少女合わせて数十人に上っていた。

またどうせやるだろう。誰もがそう思った。Maxwell刑事も思った。チャーリーを床屋に尾行する時もそう思ったし、私服の刑事に頼んでチャーリーの近所にある自警団の標識を取下げにやる時もそう思っていた。ナイ牧師も思った。チャーリーから子どもの頃のおぞましい話を聞きながら思ったし、アニメ見ながらロードランナーにワイリーコヨーテ来るぞーと言ってるの見たときも思ったし、 猫がけがして病院がどこも開いてないときもチャーリーを疑う気持ちをぐっとこらえなければならなかった。

ところがチャーリーは二度と罪は犯さなかったのである。

再犯者の誤ったイメージ


後で調べてみたらこれは何も特別なことではなく、ごく当たり前のこととわかった。チャーリー・テイラーには再犯の前科があるが、 性犯罪者全体で見れば、再犯の確率はほかの犯罪より低いのだ。 これは支援や治療抜きでも低い。 無論、数値は場所と時代によって異なるし、性犯罪は毎回通報されるわけではないので実数の把握は難しい。それを踏まえた上での話だが、23の研究論文を分析した2012年の調査では、 性犯罪者8,000名以上のデータを集計した結果、 5年後の再犯率は4-12%、10年後では6-22%というものだった。

従って、どこまでが支援の成果でどこからがそうでないのか読むのは難しい。チャーリー・テイラーはナイ牧師の友だちの輪CoSAがあったから救われたのか? 牧師はそう思っている。その威力を間近に眺めてきたMaxwell刑事も、今ではそう思っている。

2005年、Robin Wilson氏がカナダ矯正保護庁の依頼で発表した論文には、CoSAの活動で性暴力の再犯率は70%下がったと書かれている。Wilson氏は無神論者なので ロジックでしか物事を見ない。その氏が、こう分析している。「ほかに得るものが何もない人と一緒の時間を過ごすという信仰には何かしらの意味があるのかもしれないが、確かな証拠があるのもまた事実で、 これは医療と衝動抑制の文献の至るところで散見される。問題を抱えた人たちは強い支えがあれば必ず更生していくのだ」

ただ、CoSAの効果を実証するのは難しい。そもそも性犯罪は再犯率が低いので、証明には膨大なサンプルが必要で、現実的にそれは不可能だ。また、CoSAはボランティア団体であって、研究所が行う実験ではないので、リアルタイムの追跡結果はなくて過去のデータに頼るしかない。こうしたことから科学者の間では、証拠の信ぴょう性が低いと考えられてきた。

CoSAの無作為比較調査は今のところ1件だけだ。そのミネソタ州更生局が行った調査では、62人の性犯罪者をランダムに2つの組にわけ、片方にだけCoSAを割り当ててみた。3年後に比べてみると、CoSA組は誰ひとり性犯罪を繰り返していなかった。ただ、もう片方の組も性犯罪の再犯は1人しかいなかった。これでは比較にならない。そこでコスト分析では、ほかに成果が見られた箇所(性犯罪以外の犯罪逮捕歴)がないかも調べてみた。

すると確かに成果は出ていた。CoSA組は再逮捕23回なのに対し、非CoSA組は51回だったのだ。再逮捕と告訴にかかる管理コストをカウントすると、CoSA導入により3年間で被験者ひとりにつき11,000ドル(約130万円) の州予算削減につながっていた。

証拠と信念


ただし証拠という意味では、CoSAと真逆のアプローチも負けていない。調査を行ったチームでは、民事上の拘禁(刑期が明けてからも拘禁するプログラム。終身というケースもある)の効果も調べているのだが、こちらも4年後には性犯罪再犯率は12%下がっていた。まあ、民事上の拘禁はコストが嵩むし、ミネソタ州とミズーリ州のそのプログラムには最近、違法という司法判断も下っている。だが、危険度が最高レベルの性犯罪者には、これもまた効き目はあるのだ。

結局のところどっちを取るかは個人の信条という話になってしまう。どっちも実証データがあり、どっちもデータは完璧ではない。CoSAは確かにコスト面で効果が高い。チャーリー・テイラーのような人には一番の対処だと言うこともできるし、いやいや、やっぱり拘禁でしょ、ということもできる。これはもはや科学vs.反科学の議論ではない。

実証性に基づく政策決定と口で言うのは簡単だが、CoSAの例を見ると現実はそう簡単にはいかないことがよくわかる。ハリー・ナイ牧師もCoSAをはじめた動機はデータではない。自分の信仰と価値観からだった。なぜそんな選択をするのか、地域の理解はなかなか得られなかった。今はデータも証拠もある。しかし、それでも牧師のような選択をする人はそれほど多くはない。ミネソタ更生局の研究者もCoSAの一番の限界はボランティアが十分確保できないことだと言っているが、そういう面は否めないだろう。

チャーリー・テイラーは2005年この世を去った。ハリー・ナイ牧師はクリスマスの日、彼の遺体を発見した。居間のテレビはまだつけっぱなしで、カートゥーン・ネットワークのアニメが流れていた。心臓発作だった。11年半、子どもに手を出すことはついぞなかった。だが、かと言って映画のように自分の行いを深く悔い改めるようなこともなかったとナイ牧師は言う。それは自分が子供の頃に受けた虐待と複雑に絡み合い、切っても切り離せないものだった。

きっと墓に入る最後の瞬間までチャーリーは、自分がほかの人間に犯した罪より、自分に犯された罪に人生を狂わされたと思っていたのではないかと、ナイ牧師は今でも思っている。実証データなんてものは、自分が見たいものしか目に入らない。それを決めるのは、ここまで読んで自分が誰に対して一番、腸煮えくり返る気持ちになるかによるのではないだろうか。


image by Jim Cooke

Maggie Koerth-Baker - Gizmodo US[原文
(satomi)