「ゾンビ」なんてまるで映画かゲームみたいな話に思えるかもしれませんが、現実です。植物が「ゾンビ化」する現象は1600年代初めから農家により報告されています。ゾンビ化した植物は黄色く病み、花を咲かせたり実をつけたりする代わりに、奇妙な葉っぱのような構造や茂みのような育ち方をします。
1967年、この植物のゾンビ化現象が「ファイトプラズマ」という細菌によるものだとわかりました。この細菌は、リンゴの木やココナッツの木、ムラサキバレンギク、クワ、ビャクダン、サトウキビ、ブドウなど、複数の花をつける植物に感染します。主に熱帯もしくは亜熱帯地域でよく発生し、感染された植物は生きたままではありますが、繁殖はできなくなり、本来なら花が咲くところに奇妙な成長が見られます。これはファイトプラズマが植物のライフサイクルをのっとり、細菌自身が繁殖して自らを広めていこうとするからです。
ドイツ、フリードリヒ・シラー大学イェーナの大学院生Florian Rümplerさんの研究により、ファイトプラズマがどうやって植物を「生ける屍」にするのかが判明しました。
この細菌はSAP54というタンパク質を生成します。このタンパク質は宿主である植物の花の成長に関連したタンパク質の構造と似たものとなっています。MADSドメインタンパク質とよばれる植物内のほかのタンパク質類が、本来植物が自ら持つタンパク質の代わりに、SAP54と結びつくことで、花弁やほかの花器の成長プロセスが阻害されるのです。そうして花の代わりに成長するのは退化した葉っぱのような構造、「葉化」と呼ばれる症状です。
たとえばリンゴの木では、ファイトプラズマの感染は「魔女のほうき」(訳注:witch's broom、日本では「てんぐ巣病」とよばれます)という症状を引き起こします。これは木の一部から若枝が密集して生えてくる症状で、もじゃもじゃしたほうきのような成長が見られます。感染した植物は、炭水化物を葉から運ぶ「師部」という組織が細菌により傷つけられて黄色くなって死ぬこともあります。
Rümplerさんと彼の研究チームによれば、タンパク質が似ているのも偶然ではなく、ファイトプラズマは宿主のタンパク質を模倣して植物の生殖器官を乗っ取るように進化してきたそうなのです。彼らの研究はジャーナルTrends in Plant Scienceに発表されています。またこの研究に参加した遺伝学者のGünter Theißenさんは発表の中で「これらの植物は生きた屍と化し、しまいにはこの細菌を広めることしかしなくなる」と述べています。
でも細菌にとってどんな得があるのでしょうか? ファイトプラズマが宿主植物のライフサイクルを書き換える際に、実はそれを利用して新たな宿主をおびき出そうとしているのです。
ファイトプラズマは感染した植物の中か、ヨコバイなどの昆虫の消化器官の中でしか生きていけません。そしてヨコバイがこの細菌を拡散させていくのです。多くの植物はジャスモン酸類というホルモンを生成しています。このホルモンはヨコバイや他の植物を餌とする昆虫を寄せ付けないようにする機能があります。しかしファイトプラズマは植物のジャスモン酸類生成を少なくしてしまうSAP11というタンパク質の生成を促進させるのです。
その結果、感染した植物はよりたくさんのヨコバイをおびき寄せることになり、最終的に卵が産み付けられます。そうして生まれたばかりのヨコバイがファイトプラズマのたくさん入った葉っぱを食べて、育ち飛び立っていき、新たにほかの植物へと感染していくのです。
source: Friedrich Schiller University Jena, Trends in Plant Science
image: Joseph O’Brien, USDA Forest Service, Bugwood.org, via Wikimedia Commons
Kiona Smith-Strickland - Gizmodo US[原文]
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