ドワンゴは10月25日、「クリエイター奨励プログラム」の総支払い額が18億7000万円を超えたと公表した。特別企画として本来の申請手続き不要で1年以内に投稿された全動画を対象とする「選抜クリエイター大抽選会」を年内に行い、最大20万円を授与する。
●還元額は約4年で18億7000万円 8カ月で5億増
クリエイター奨励プログラムは、ニコニコ上での創作活動を支援するため、人気度に応じた奨励金を制作者に還元する仕組みとして2011年末に始まった。約4年間の総支払い額は18億7013万6964円(10月時点)、登録作品数は42万6741点(9月時点)となっている。
奨励金の原資となっているのは、プレミアム会員収入の一部と、動画再生前広告の収益だ。支払い額は今年2月からの8カ月だけで約5億円増加しており、今後も増額のスピードは加速していく見込みという。
同プログラムを束ねるプラットフォーム事業本部パートナーシップ開発推進部の伴龍一郎さんによると、サラリーマンの平均年収程度を得ているユーザーも「そこそこいる」規模に広がってはいるが、まだまだ認知度が低いことが課題だ。ユーザーごとの収益が公にならないよう配慮していることで、実際にもらえる対価、メリットなどを含めた制度の実態が理解されにくい状況にあるという。
なるべく多くのユーザーに適正に還元することを目指し、「こんなものがあるなら登録しておこう」と思ってもらうチャンスや、創作に参照した素材をコンテンツツリーに登録する意義の啓発につながれば――と、今回の“無差別”な特別企画の狙いを話す。
●「なんか当たったんだけど」 抽選で奨励金を突然“押し付け”
「選抜クリエイター大抽選会」では、過去1年以内に個人アカウントから投稿されたすべての動画作品を対象に、総額800万円の奨励金を“押し付ける”クリエイターをユーザー投票と抽選を組み合わせて選出する。通常のクリエイタープログラムと異なり、申請不要ですべてのユーザーを対象とすることで、プログラム自体の認知度を向上させる狙いだ。
11月前半にプレミアム会員と10月にアクセスした一般会員にポイントを付与し、「ニコニ広告」機能を使って自分の好きな動画、応援したい動画への投票を促す。上位2525人のノミネートを選出したのち、抽選を行い、10人に20万円、200人に1万円分のニコニコポイントを授与する。通常のクリエイター奨励プログラムと同じく、使用楽曲や素材、インスパイア元としてコンテンツツリーに登録している「親作品」にも同額が分配され、親作品が複数登録されている場合は頭割りとなる。
「ニコニコからユーザーのみなさんへの『年末ジャンボ』のようなイメージ。当たりの宝くじが“押し付けられた”人は『なんか当たったんだけど……(笑)』と話題にしてもらえれば」(伴さん)
ゲームメーカーの“公式2次創作”解禁の影響は
昨年12月に任天堂の一部タイトルが同プログラムの対象に、それ以外のすべてのタイトルも“公式2次創作”が可能になった。続いて3月にはバンダイナムコが「パックマン」など自社IPを解禁している。
これまでグレーゾーンだった実況動画やMADが公式に認められたことをポジティブに捉える声が多く上がる一方、「Splatoon」(スプラトゥーン)、「スーパーマリオメーカー」など奨励金対象の人気タイトルの実況動画がランキング上位を占めることもあり、一部ユーザーからは「多様性を損なう」「収入目当ての投稿が増えているのでは」と指摘されていた。
今回発表されたデータによると、クリエイター奨励プログラムの登録作品のうち、動画が占める割合は76.6%と、前回発表時の75.1%と大きく変化はない。動画以外は静画(イラスト)16.5%、コモンズ(素材データなど)5.1%、生放送1.8%――と続く。
「再生数だけを狙った“釣り”動画も目立つ」という声も上がっているが、奨励プログラムの指標となる「人気度」は単なる動画再生回数ではなく、「不正は運営側でも認識し、厳正に対処している。工作の多くは収入につながっていないと思う」(伴さん)とする。
「公認を受けたすべてのタイトルが同じような状況になっているわけではなく、何よりまずゲーム自体に実況者や視聴者を惹きつける面白さ、魅力があったから。ユーザーの創作活動が公認され盛り上がるのは喜ばしいこと」(伴さん)
他社からも同様の許諾を与えたいという相談、打診は寄せられており、今後ゲームだけでなく音楽分野などにも広がる可能性があるという。
●オフラインにも広がるクリエイター支援
動画制作以外にも、6月にTSUTAYAの一部店舗で始めた同人CDレンタルを全国に解禁。従来の即売イベントやネット通販だけでなく店頭に置くことで、普段からネットで親しんでいるか購入するチャンスの少ない小中高生などが手にとるチャンスが増え、新たなユーザーの目にも触れている手応えがあるという。取り扱い店舗の拡大で地方を含む全国に届け、さらなる収益還元も見込む。
5月にオープンした、個人開発者らの自作ゲームを連載形式で無料配信する「ニコニコゲームマガジン」も、ゲーム開発自体にスポットを当てたクリエイター支援の形と言える。
Web上だけでなくオフラインも含め、クリエイター、ユーザーそれぞれのニーズにあった支援を今後も展開していきたいと話した。