【市川】アクセンチュアの企業市民活動の一環として、若新さんがプロデュースする「就活アウトロー採用」や「ナルシスト採用」のほかにも、若者の就労支援や若手起業家の起業支援事業、資金調達の支援なども行っています。ただ、僕たちが一部のイノベーターやソーシャルセクターの人たちだけと頑張っても、大きなうねりはつくれないんじゃないかと。もっと一般の人たちが自分ごととして取り組めるような仕組みをつくりたいと思っています。
横浜では、「ローカルグッド」という、地域の課題をウェブサイト上で見える化することで、地域の人たちが地域をよくするための取り組みに主体的に関わることのできる課題解決プラットフォームをつくっています。僕らのようなIT企業だけでなく、NPO、大学機関、行政、企業の方々など多様な人々が関わってこの手法が生まれました。
【若新】「地域社会」を構成しているのって、実はほとんどが、普段は問題意識なんか持たずに暮らしている人たちだと思うのです。何か現状を変えようとするイノベーターなんて、市民のほんの一部に過ぎない。もちろん、そういう人たちも必要ですが、地域の課題を考えていくには、「その他の一般の人たち」のほうを巻き込む必要がありますよね。
ただ、ややこしいのは、「その他の一般の人たち」というのは、決してひとくくりにできない。1人ひとりをみていくと、本当にいろんな人たちがいて、複雑な感情があって、限りなく多様ですよね……。
【市川】「多様性」という言葉は、これまでも社内でもよく言われていたんですが、あまり実感がないまま、どちらかというと美辞麗句っぽく感じていたんです。そんなとき、若新さんがニート株式会社などで、個性の異なる多様な若者たちの意見を、まとめるでもなく、教えるでもなく、彼らの主体性を大事にしながら、混沌としたカオス状態から創発的なやりとりを導き出しているのを見て、「これだ!」と。多様性そのものである社会を変えていくには、多種多様な人たちが主体性を持って交われる仕組みが必要だろうと思ったんです。ローカルグッドの活動は、若新さんの取り組みから大きな気づきを得たからこそ、できたのかなと思っています。
【市川】最近、ビジネスにも「多様さ」が必要だと思うようになりました。よく、日本人は「1」を「10」にしたり、「100」にしたりすることは得意ですが、「0」から「1」を生み出すのはすごく苦手って言いますよね。僕らみたいなコンサルティング会社も同じで、命題が分かっているものに対しては最短距離で答えを導き出すことができます。つまり、「1」から「100」の世界です。
では、「0」から「1」をどう生み出すのか。クライアントすらも気づいていない命題を探り出す方法は、じつは僕らもよく分かっていません。それは多分、若新さんたちがやろうとしているような、一見無秩序な、カオスの中から模索していくことがすごく重要なんだろうなと思います。だから、活動を支援させていただいてきました。
【若新】命題そのものを探すのは、イノベーションも同じですが、計画の中からは生まれづらいですよね。「イノベーションは計画できない」と散々言われているにも関わらず、大企業などの改革戦略はあくまで計画的に進めようとされている。一方で、僕が企画した「鯖江市役所JK課」みたいに、本当に事前計画をしない変化をつくるための実験的なプロジェクトをやろうとすると、「無計画だ」とか「リスクはどうするんだ」とか「失敗したらどうするんだ」といった批判が聞こえてきます。
いつの時代も、時代の少し先を行こうとするイノベーターには支援者が現れるものですが、歴史的に見て面白いのは、支援者は緻密なプラン策定を手伝ったり、具体的な手法を教えたりしているわけではないところ。イノベーターに対して、“うっかり”すごい権力とか資金を渡しちゃったりしているんです。「俺の名前使っていいよ」といって、お墨付きを与えたりとか。
【市川】これまで僕らは、コモディティな領域で効率のソリューションばかりをやってきました。僕が担当してきたITアウトソーシング事業もその一つです。これからも効率化できるものは徹底的に効率化し、グローバルにアウトソーシングしていきます。
その一方で、超少子高齢化で就労人口も減少し、課題が山積している日本の社会を支えていくには、若新さんがやろうとしているような価値創造のイノベーションも重要なんです。日本を持続可能な社会にしていくには、「0」から「1」のテーマ設定を、クライアントとアクセンチュアのみならず、多様な人たちを巻き込みながらやっていくことが必要だろうと考えています。
【若新】今の社会問題の多くは、片方をとると片方がダメになる、といった、バランスがすごく難しいものが多いですよね。だから、社会で暮らす1人ひとりのリアルと接することが大事になってくるのだと思います。一部の人たちだけで勝手に問題を設定してしまわない、ということが大切です。
【市川】まずは地域の人たちや、行政、NPO、大学、企業、クライアントなどの人たちが対話できる場をつくり、アクセンチュアがハブになることでお互いが影響し合っていける仕組みを実験的に始めていきます。僕らはこれを「オープンイノベーション」と呼んでいますが、ビジネスとして展開していけないか模索しているところです。若新さんのファシリテーションや“マネジメントしない空間づくり”などのノウハウを、数値化して再現できたらいいですよね。おこがましいかもしれませんが。
【若新】「オープンイノベーション」というとカッコイイですが、人によっては、ただの「よけいなこと」や「いたずら」みたいに見えるものかもしれません。子どもたちが公園である遊びをやっていたんだけど、誰かが友達のお兄ちゃんを連れて来て、その人がまた別の知り合いを連れて来て……、気づいたら最初とはぜんぜん違う遊びになってた。新しいルールとか、独特のチームができるんだけど、中には当然「最初のほうがよかったな……」「なんかややこしくなっちゃった」って思う子もいるわけで(笑)。イノベーションって、最初は価値があるのかないのか分からなかったりするんだと思うんです。ぐちゃぐちゃしますからね……。
【市川】コモディティ領域でのソリューションは「いくら売れば立派です」という評価が成り立ちますが、価値創造のイノベーションは評価しづらいですよね。「0」から「1」を生み出す取り組みをしている人をどう評価するのか、誰も答えがないんです。評価すること自体が間違いかもしれませんし。僕は幸せなことに、若新さんたちの取り組みを垣間見る機会を得たので、そこで得た気づきをオープンイノベーションに取り入れていきたいですね。
【若新】市川さんたちのように、社会で圧倒的な信頼を得ている方たちに、僕たちの活動の価値を認めてもらえるのはとてもうれしいです。セオリーどおりで考えれば、イノベーションのための行動というのは、結果的には成功することもあれば、当然失敗することもあるわけです。
だから、ある意味失敗も覚悟して進まなければいけないわけですが、実は毎回、「なんとか成功させたい」という気持ちに襲われてしまっています。どうしても、「ソリューション」を意識してしまう……。もっと自信をもって、「よけいなこと」に集中できるよう、精進したいと思います。