現在のテレビ番組では、少しでも常識はずれな行為を行えば、視聴者からのクレームが殺到する。ひと昔前ならスルーされていたことも今は許されない現実がある。
その流れはドラマの現場にまで波及し、クレームによって追いやられたシーンがあると聞きつけた。
1、手術シーン
「クレーム対策で困っているのは、医療ドラマです。医療ドラマでは、手術シーンがドラマの見せ場になりますし、定番のシーンとも言えますが、近年は手術シーンの撮影は苦労するようになりました」(ドラマ関係者)
一体、それは何か。
「手術シーンでは医師たちの奮闘も描きますが、やはり患者の存在が欠かせません。そのため、医師がメスなどを握って患者のお腹を開き、手術を進めていくわけですが、最近はドラマ内で手術箇所、つまりは患者の臓器の部分は見せられないようになってきているのです。完全に無くなったわけではありませんが、自主規制によって最小限のカットにとどめられています」(同)
手術をしているというのに患者の臓器を見せられないとは、どういう事情なのか。
「ドラマなので使用している臓器も血液もすべて作り物ですが、食事時などに流れるドラマもあるので、視聴者から『気持ち悪い』と言われてしまうのです。そのため、手術をしているシーンであっても、医師の顔をメインで撮影するようにして、患者の体は見せないようにしています」(同)
医療ドラマで気持ちが悪いと言われてしまうと、もはや何もできなくなりそうだが、それでもクレームが多いと逆らえないという。
同じようなケースは他にもあるのだろうか。
2、棺の中の遺体
「ちょっと種類が違いますが、お葬式のシーンで柩に入った遺体役の役者さんを撮らないようにしています。これもクレームが原因です。あくまでも役者が演じているだけですが、それでも『気持ち悪い』と言われるんです」
3、殺害された遺体
「ほかにも同じような例で言えば、刑事ドラマで殺人事件が起こるのは定番ですが、その際の殺害された遺体もあまり撮影できなくなっています。遺体を見ている刑事の顔で何が起きているのかを表現します」(同)
たしかに見ていて気分の良いものではないのは確かだが、それならば同ジャンルのドラマを見ないようにすればいいと考えるのは筆者だけであろうか。
「今はクレームが多いと上層部も番組内容に口を挟んでくることがあります。あまりに現場に介入されると面倒なので、現場としては要望を受け入れて、それ以上の介入を防ぎたいのです。演出家によっては『冗談じゃない』と怒りますが、なんとか受け入れてもらっています」
クレームを入れるべき番組はたしかに存在するが、なんでもかんでもクレームを入れていては何も創作できなくなってしまうような気がする。これ以上の規制が進まないことを祈るばかりだ。
(文=吉沢ひかる)
※画像は、Thinkstockより