マイクロソフト、そしてラップトップの、ターニングポイントへ。
日本でも来年初頭に発売されることとなったSurface Book、期待が高まるばかりですが、実際使い勝手はどうなんでしょうか? 米GizmodoのMario Aguilar記者がレビューしています。
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クレイジーなやつが来ました。数々のガジェットたちが原始のプールから這い出そうと進化する流れにおいて、マイクロソフトのSurface Bookは大きな区切りとなりそうです。それは今までの想定を打破する進化であり、少なくとも僕にとっては、習慣すら変わるほどのです。Windows 10までもかすむ勢いです。
マイクロソフト初のラップトップです。クレバーなデザインで、13.5インチ・3000x2000(ピクセル密度267PPI)のディスプレイをキーボードベースから取り外し、巨大タブレットとしても使えます。ベースモデルはIntel最新のSkylake Core i5プロセッサ搭載で1500ドル(約18万円)です。それは基本的に、Surface Pro 4がもっと素敵なデザインになったものです。Core i5でなく、GPUがNvidia GeForceとして別になっているモデルだと、1700ドル(約21万円)です。そこから徐々にアップグレードして、Core i7+NvidiaのGPU、ストレージ1TBなら3200ドル(約39万円)となります。
この記事では、基本的にベースの1500ドルモデルについてレビューしています。が、2100ドル(約26万円)のCore i7+NvidiaのGPUモデルもちょっと試したので、一部それにも触れています。
Surface Bookの発表はガジェット界に衝撃を与えましたが、唐突な動きというわけでもありませんでした。マイクロソフトはここ何年も、転換点を探ってきました。Surface Bookのプレミアム価格や魅惑的なデザインは、「優れたハードウェアはソフトウェアと同じように重要」という彼らの認識を堂々と示しているように感じられます。
Surface Bookに至るまでの道は、3年前の初代Surfaceの発表にまでさかのぼれます。マイクロソフトはその失敗、さらにはWindows 8でのつまづきから長い道のりを経て、多くの人が本当に使いたくなるようなデバイスとソフトウェアを作り切りました。長年素晴らしいWindows Phoneを作ってきたノキアも買収し、ハードウェア分野の地盤をさらに固めました。
さらに大事なのは、あらゆる形態のガジェット横断で使えるWindows 10がリリースされたことです。スマートフォンも(新しいLumiaは11月発売)、パソコンも、タブレットも、さらにXbox Oneも動かせるんです。しかもWindows 10は、Surface Book発表時点ですでに1億1000万台の端末にインストールされています。
Surface Bookは美しく、他の何とも違います。パワフルで、値段も高いです。そのデザインからは、コンピューターに「何をさせなきゃいけないか」ではなく、「何をさせられるか」を考えたくなります。妥協はありません。ラップトップとは、最高のディスプレイ搭載の巨大タブレットとしても使えるべきだし、完ぺきなスタイラスでの手書きも可能であるべき…それが、Surface Bookが考える「ユーザーが求めるべきもの」なんです。
それはユーザーにとっても、マイクロソフトにとっても冒険です。率直に言って、1500ドルのラップトップは既存のマイクロソフトユーザーにはリーチしないはずです。ほとんどの人は、サードパーティ製の1000ドル以下のWindows 10マシンを使っているはずですから。でもSurface Bookは象徴として存在し、誰もが取り入れられるアイデアを提示しているんです。マイクロソフトの野心と未来を体現すべく、Surface Bookはほとんどスティーブ・ジョブズのようなディテールへのこだわりを見せています。Surface Bookが今あるアップル製品の代替になりうるとすれば、未来はきっと、変わっていきます。
もちろん、そんな野心的デザインにはデメリットがありえます。不確定要素がたくさんあります。ひとつの失敗で、全体が台無しになってしまう可能性だってあります。
Surface Bookの真価は、Windows 10をフル活用することで発揮されます。
外見上、Surface Bookは大きなマグネシウムのクラムシェル型ラップトップみたいに見えます。が、実際はご存じの通りハイブリッド機で、その完ぺきなヒンジのデザインによって全体が動きます。細長いパーツがしっかり組み合ったこのパーツこそ、Surface Bookの要です。きしみもまったくなく開閉でき、感動的なほどうまくできています。
キーボード右上の小さなリリースボタンを押すと、スクリーンをキーボードから取り外せて、独立したタブレットになります。このコンバーチブルの実現手法が素晴らしいので、ちょっとご説明します。ディスプレイを取り外し可能にするためには、そこにはプロセッサやストレージ、バッテリーといった端末を動かすためのパーツが全部入っている必要があります。でもキーボード側のスペースも、ムダになってはいません。1500ドルのベースモデルでは、キーボードに追加のバッテリーが入っています。GPUが別になってる高額モデルでは、キーボードにGPUが入っています。
リリースボタンはキーボードの右上。ここをホールドすると、ディスプレイがカチャッと取れます。
Surface Bookと比較するのに一番適しているのはMacBook Proですが、Surface Bookからキーボードを外すと、iPad Proみたいになります。Surface BookのディスプレイはiPad Proの12.9インチよりやや大きく、重くなっています。ディスプレイは13.5インチと大きく、600万画素が詰まっています。解像度は3000x2000でピクセル密度は267PPI、対するiPad Proは264PPIです。パソコンのディスプレイとしては最高にきれいなんじゃないでしょうか。技術的にいうと、ディスプレイが表示できる明るさ/暗さの範囲の広さを表すコントラスト比は、競合を大きく引き離しています。
次に、ディスプレイを外向きにキーボードにくっつけてみます。これはマイクロソフトが「クリップボード」ポジションと呼ぶセッティングで、抱えて持つようなイメージです。たとえばお店で在庫商品を数えるときとか、病院で回診するときとかにこういう感じで使うのかなと想像できます。
ここでSurface Penの出番です。シルバーのスタイラスは、初代からデザイン的にも機能的にも大きく成長してきました。多分今回一番大事なのはマグネットが入ったことで、ディスプレイのわきにくっつけられることでしょうか。
Surface Bookの未来志向デザインの課題は、何もかもひとつでこなそうとしていることです。実際の利用シーンではどうなるのか、見てみました。
・仕事用ラップトップとして
Surface Bookは万能志向のデザインではありますが、僕個人はほとんどラップトップとして、トラディショナルなモードで使っていました。そしてこの使い方だと、ほんのちょっと足りないところを除けば、夢をほぼ完ぺきに実現できます。
まずアスペクト比が3:2であることで、MacBook Proの16:10より見える範囲が広がります。またCore i5はベーシックなネット閲覧とかNetflix鑑賞、ライトなPhotoshopといった使い方ではまったくスムースです。バッテリーライフも夢のようで、通常、充電なしで6-7時間使い続けられました。Skylakeに感謝です!
キーボードはどんどん打てます。不満はまったくありませんでしたが、僕はたらたら打つ方なので、もし何か問題があったとしても気づかないと思います。キーが返してくる小気味良い反応が喜ばしいばかりでした。
でも、欠点もあります。まずトラックパッドが不安定で、急に変なところにカーソルが飛んだり、感度が良すぎたり足りなかったりします。2週間近く使ってきてその挙動不審さにも慣れてきたんですが、キョドってるガジェットとか、あんまりありがたくありません。「これ1台で何でもできる」はずのガジェットなら、なおさらです。何回かはあまりにイライラして、外付けマウスを使ってしまいました。
ただ良いニュースは、マイクロソフトもこの問題を認識していて、11月初旬にファームウェアパッチで対応すると言ってることです。この問題はけっこう深刻なので、購入を決めている人にも、ファームウェアで問題が解決されたのを確認してから買うことをおすすめしたいくらいです。
それ以外の主な問題点は、ハイブリッドであるがゆえに取り回しづらい場面があるということです。デスクに置きっぱなし、ひざに載せっぱなしのときは問題ありませんが、ラップトップってもっと無理な体勢で使う場面があります。たとえば空港のすみっこで、ベッドで寝そべりながら、ソファでダラダラしながら、なんてとき、Surface Bookのスクリーンの重さが問題になってくるはずです。MacBook Proや一般的なラップトップではキーボード側にウェイトがあるのに対し、Surface Bookはディスプレイ側が重いんです。
・巨大タブレットとして
Surface Bookの美しいディスプレイは、キーボードから取り外すとますます際立ちます。ただし13.5インチは巨大で、両手にミットが必要です。使う目的によっては、扱いづらいかもしれません。iPadみたいな小さいタブレットは長時間持っていても大丈夫ですが、Surface Bookはキーボードなしでも1.6ポンド(約726g)もあります。それくらい大丈夫と思っていても、長めの雑誌記事とか動画を見ていると、その重さが感じられてきます。
要するにSurface Bookは、ひざとかにおいて使う方に向いています。
Core i5モデルはプロセッサがディスプレイ側に入っているので、タブレットとして使ってもラップトップとして使っても同じ性能です。でも上位モデルになるとGPUがキーボード側に入っているので、タブレットモードにするとGPUが使えなくなり、その分パフォーマンスは落ちます。なのでパソコンレベルのゲームをタブレットだけでプレイできるとは思わない方がいいです。
・メモ取り端末として
ディスプレイでメモを取るのは、僕の自然な感覚からはかけ離れています。でもSurface BookのSurface Penは、使っていてウキウキします。ガラスがかなり薄いので、ペンが本当にディスプレイにピクセルを書き込んでいるような感じになりつつあります。
実際、非常に直感的です。先週末、アート寄りな友だちにSurface Bookをちょっと貸したら、OneNoteアプリとSurface Penでさっさっと絵を描いていました。ごく自然です。多分最大のハードルは、僕みたいな人がガラスに金属をこすりつけることについて感じる抵抗感でしょう。やっぱり感覚的には受け入れられないんですが、体感してみるとしっくりきてはいます。言い換えると、僕自身使えてはいたんですが、使いたいかどうかはまだ確信がありません。
・グラフィックスは?
僕はGPUが別になったモデルもちょっと使ってみました。
Surface Bookはゲーミングラップトップではありませんが、ゲームをするとしたら、この高級ラップトップは使えるんでしょうか? いくつか「トゥームレイダー」みたいなグラフィックスの重いゲームを試してみました。その結果、グラフィックスをミディアムクオリティにすれば、高いフレームレートでスムーズに動くことがわかりました。でもハイクオリティにすると、ガクガクしてきます。つまりゲームはできるんですが、最高クオリティのグラフィックスではできません。
別立てGPUがもっと現実的に役立ちそうなのは、デザイン系の作業です。社内アニメーターのDevin Clark君に、ワコムのペンタブレットCintiqをつないでちゃんと使えるか見てもらいました。その結果、Cintiqだけを動かす分には問題ありませんでしたが、CintiqとSurface Book両方を同時に動かすとかなり動作が遅くなりました。なのである程度の馬力はあるんですが、奇跡というほどではなさそうです。
美しいディスプレイ。信じがたいほどのバッテリーライフ。革新的で、柔軟なデザイン。
挙動不審なトラックパッド。
Surface Bookは。完ぺきではありません。そして厳密にパフォーマンスだけ見ると、割高です。ベースモデルを例にとると、それは900ドル(約11万円)のSurface Pro 4にしっかりしたキーボードときれいなディスプレイを付けただけです。他のWindows 10マシンでは価格という意味で競合に相当するものはなく、ほとんど奇妙なほど高いんです。それでも、Macにはプレミアムを払ってきた人が何百万人といるわけです。プレミアムなWindowsマシンを求めてきた人のためにマイクロソフトが作った端末、それがSurface Bookです。
もちろんディスプレイがキレイだとか、ラップトップがゴジラタブレットになる設計がすごいとかはあるんですが、機能性という意味ではやや風呂敷広げすぎた感はあります。さらにはトラックパッドみたいに、明らかな欠点もあります。でもマイクロソフトがそれを修正するなら、買って後悔しないマシンになるはずです。
ベースモデルでいいか、1700ドル以上出してGPU別立て版を買うかってことですが、答えは…イエス、かなあ…という感じです。GPU別といっても必ずしも市場最高パフォーマンスでないので、そういう意味でやっぱり割高です。価格の一部は、デザインに対して払うことになります。でもマイクロソフトのガジェットでそんなことが起きるなんて、予想できたでしょうか? そう、マイクロソフトがこれをデザインしたんです。
僕はこれ、非常に好きです。
Photos by Michael Hession. Additional reporting by Nick Stango
Mario Aguilar-Gizmodo US[原文]
(miho)