’15年9月に行われたダボス会議で75.4%の企業関係者などが「10年後に企業活動の30%をロボットがこなす」と回答したとする報告書が発表された。今や技術革新により、労働のあり方は大きな過渡期を迎えつつある。さらに、日本経済は五輪バブル終焉、少子高齢化という不安要素も孕む。
果たして、今、従事する仕事は5年後も存在するのか。その実態に迫る一環として、夏野剛氏(慶應義塾大学・特別招聘教授)と佐藤航陽氏(メタップス代表取締役)が「賢者の知恵対談」を敢行。ここでは、その一部をお届けする。
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AIや技術の進化を危機と感じる人が増えた昨今。しかし、この状況を夏野剛氏と佐藤航陽氏は「むしろチャンス」と捉える。人類史上もっとも不確実ともいえる今の時代、IT業界の雄が考える5年後に食える人物像とは――。
夏野:佐藤さんのメタップスはAI事業に取り組んでいるけど、AIが代替できる仕事が人の手を離れるのは当然だよね?
佐藤:そうですね。でも、AIには自ら知性を持つ“汎用型”と、株の売買など1つの作業を行う“特化型”の2パターンがあるんですよね。
夏野:汎用型の実用化はなかなか難しいから、5年後もAIに代替されないかもしれない。でも特化型は簡単に普及するから、例えば、弁護士とかは厳しいんじゃないかな。今ある『ヤフー知恵袋』にAIが搭載されたらすぐに代替されると思うし(笑)。
佐藤:ですね。いわゆる専門職は特化型ですから、例えば多くの“士業”が必要なくなると思います。弁護士や会計士のように、決められた範囲や過去のパターンで処理していく作業は、今後AIに代替されていくでしょうね。
夏野:そういう意味では、医師も他人事ではない。紹介状や処方せんを出すだけの街の個人医院なら、国が医療バージョンの知恵袋を提供すれば要らなくなってしまう。
佐藤:スマホに症状を入力するとデータベースで照合されて、考えられる病気が表示される。技術的には十分可能ですからね。
夏野:海外ではそういう動きもあるけど、日本では医師会や歯科医師会がロビイング活動をしていて、政治的な影響力は強い。だから、士業なんかは“既得権益”として守られ、意外と20年ぐらいは生き残るんじゃないかな。そうなると、日本のAI産業は世界から取り残されてしまうわけだけど。
佐藤:その点、米国は国が最先端のテクノロジーを積極的にバックアップする傾向がありますよね。
夏野:日本でも安倍政権は規制をなくそうとしているけど、「規制を残してくれ」と言っているのは、実は民間企業。だから、僕は、この先の5年間で日本でしか通用しない“ガラパゴス職業”が増えると見ているんだ。
佐藤:そうやって既得権益で守られる職業には、まだ猶予がありますけど、それ以外の職業はダイレクトに影響を受けるでしょうね。しかも、AIどころかインターネットで代替できる業務は多く、例えば、管理職に求められる能力も変わっていくかと。
夏野:というと?
佐藤:部下の報告をまとめたり稟議を回したりするのは、管理職がいなくてネットでできてしまう。つまり、今後の管理職は部下のマネジメントがメイン業務になると思うんです。
夏野:必要とされるのは、部下から「この人の下ならやる気が出る」と思われる人物ですね。
佐藤:カリスマ性や人間味があってコミュニケーション能力に長けた人が求められると思います。
夏野:でも、危機感を持っている管理職の人たちは少ない。ヒドいやつは「自分はクビにならない」と高をくくっている。でも、今の時代に正規雇用や大企業に意味なんてなくて、会社がいつ潰れるかわからない。まさに「明日は我が身」なのに。
この対談はまだまだ続きますが、その完全版は10/27発売の週刊SPA!に掲載されている大特集『[5年後に]食えない職業』でぜひご覧ください。同特集では「5年後に沈む業界」「AI技術の発展で食えなくなる職業近未来年表」「5年後に食えなくなる職業ランキング」「5年後に消滅する裏稼業」「実際にこの5年で食えなくなった人実例集」なども掲載。あなたの仕事は5年後も本当に大丈夫なのか、ぜひこの特集で確かめてほしい。 <取材・文・撮影/週刊SPA!編集部>
なつの・たけし●慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ在籍時に「iモード」や「おサイフケータイ」等の多くのサービスを立ち上げた。現在「カドカワ」や「GREE」「ぴあ」など複数の企業の取締役を兼任している
さとう・かつあき●‘86年、福島県生まれ。株式会社メタップス代表取締役社長。早稲田大学在学中の’07年に同社を設立。’11年に人工知能を活用したアプリ収益化プラットホーム「metaps」を開始。世界に8つの拠点を持ち、未上場で43億円を資金調達して注目される。8月末にマザース上場