「ハラスメント」についてのトピックは、当コラムでも幾度か紹介してきた。今回はハラスメントの中でも最も有名な「セクハラ」について、少し変わった角度から切り込んでいこうと思う。
「セクハラ」と聞いて、読者が最も思い浮かべそうな状況といえば、男性社員から、女性社員へのセクハラ言動が挙げられるのではないか。しかし、少し考えれば、世の中には全く逆の状況でのセクハラもあり得るのではないだろうか。そうした所謂「逆セクハラ」について、「教えて!goo」にも「よく『男女平等』と言われますが、何が一体『平等』なのでしょうか?」といった質問が寄せられている。
■性的不快感があれば、「逆セクハラ」はあります!
質問の要点は二つである。一つは逆セクハラはあり得るか、もう一つはその場合のセクハラの線引きはどこか、についてである。回答者は現代社会が男女平等社会であり、男性にも女性にも、同様の権利が保障されていることを踏まえて、逆セクハラの存在を認める声が多く上がった。
「その場合でも『セクハラ』で部下(男)で訴えることができたはずです。(確かアメリカの該当ケースがあったはず)」(rmz100さん)
「もちろん性別が逆の場合もセクハラです。当人が嫌がる“性的な”行為を強要したり言葉を言ったりする事は全て、性別や立場(上司と部下など)に関係なく、セクハラに該当します」(aalextさん)
逆セクハラの線引きについても、通常のセクハラと同様に、受け手が性的不快感を覚えるか否かが、一つの基準であることが見えてきた。
■なんで「逆セクハラ」裁判を耳にしないの?その裏には悲しい現実が……
世間一般にとっても、逆セクハラはセクハラと同じように存在するということが、上述の回答でわかった。しかし、現実のニュースなどで逆セクハラ裁判を見かけないのはなぜだろうか。本当は逆セクハラには、セクハラと同じような、法的対処がなされていないのではないのだろうか。この点について、武蔵浦和法律事務所代表の峯岸孝浩弁護士に解説していただいた。
「セクハラには男性から女性に対する行為だけでなく、女性から男性に対する行為も含まれますので、理論的には同じような裁判結果になるはずです。しかしながら、逆セクハラの裁判の事例が少ないので私見になってしまいますが、通常のセクハラのケース(男性から女性)に比べると、逆セクハラの場合は立証の難易度や慰謝料の額に影響が出るのではないかと考えます」
これは驚くべき事実ではないだろうか。男女平等参画社会を謳ってきた、日本の一片に看過できない問題が横たわっているのである。具体的にはどのような影響が現実に浮き出てくるのだろうか。峯岸弁護士は実際にあった判決の事例を紹介。
「大阪高等裁判所平成17年6月7日判決の事例を紹介します。これは男性が女性上司から逆セクハラを受けたことを理由に訴訟を提起した事案です。具体的には、『女性上司は、男性が職場の浴室に入っていたところにノックをしないで浴室の扉を開けた。その後女性上司は、脱衣室内に入って全裸の男性に話しかけた』という行為が問題になりました。結論としては、裁判所は女性上司の行為は逆セクハラにあたらないと判断しました。
「逆セクハラ」を考える際に、「もしこれが男女で別の立場だったなら……」と考える思考は非常に重要である。相手の立場に自己をおいて考えることで、逆セクハラ認定に関して認識の齟齬が生まれにくくなるであろう。また、セクハラを予防する観点からも、この視点は欠かせない。セクハラに泣き寝入りはあってならないことを、覚えておきたい。
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