南シナ海を航行中の米海軍イージス駆逐艦が10月27日、スプラトリー諸島(中国名・南沙諸島)で中国が「領海」と主張する水域に入り、まさに一触即発の危機となっている。一方で、同じ中国の国境といえども、川を隔てた北朝鮮側の国境管理は極めてユルい地帯があり、観光客が密貿易船に接触したり、時には相手国に上陸できたりと、今でもやりたい放題なんだとか。ボーダレスな現状をリポートする。
スプラトリー諸島で中国は、通常の国境管理と同じく、人工島から12カイリ(約22キロ)を領海と主張している。一方、中国と北朝鮮は、白頭山(中国名・長白山)を分水嶺にして西は鴨緑江、東は豆満江が国境線になっている。毛沢東と金日成が「川に国境線を引く必要はない」と取り決めを交わしたといい、船舶は相手側の陸地に着岸しない限り、国境の侵犯には当たらないと見なしている。ゆえに、2つの川の各所にある中国の遊覧船や遊覧ボートは、うまくいけば北朝鮮まで数十センチまで近づいてくれることがある。
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「特にアツいのは、丹東郊外にある鴨緑江の中州のポイントです。中州を挟んで流れが二手に分かれ、中州は北朝鮮領。そのため、中国側から国境監視の目が届きにくい」(北朝鮮マニア)
丹東といえば、中朝貿易の7割を占める貿易の拠点で、今年5月には神奈川県内に住む脱北者の男性がスパイ容疑で当局に逮捕されるなど、中朝関係におけるホットスポットだ。
マニアの男性によると、中朝国境をまたぐ橋の近くで「北朝鮮を見に行かないか?」と、少々強引な客引きのオバちゃんがウロウロしているという。日本円で1,000円ほどのツアーで、5~6人の客が集まり次第、箱バンで約50km上流の「中州ポイント」に渡る遊覧船乗り場まで連れて行ってくれる。
また「中州や対岸から見える北朝鮮は小さな兵舎があったり、農村風景が広がっているだけの、珍しいものではない。面白いのは、北朝鮮側から来る不審な木造船が観光船に横付けし、いろんな物を売ってくる」(同)といい、値段はすべて100元(約1,900円)。アヒルの卵の瓶詰めや高麗人参、化粧品といった、それほど珍しいアイテムではないが、密貿易っぽい雰囲気がイイとか。
「川岸から、ガリ痩せの北朝鮮兵士が“タバコをくれ”というジェスチャーをしてアピールしてくる。中国人の船頭は慣れたもので、乗客にタバコを売り、乗客は兵士を目がけてタバコをぶん投げる」(同)
兵士は周囲を気にしながらタバコを回収していくといい、また、少し前までは交渉次第では「北の大地」(北朝鮮領)に上げてくれることもあったとか。
米中の緊張をよそに、昔ながらの国境貿易のユルさが味わえる貴重なポイントになっているようだ。
(文・写真=金正太郎)