仕事終わりや飲み会帰り、なにか甘いもの食べたいな~と思っても、ケーキ屋やアイスクリーム屋は店じまい。そんな時の救世主が24時間営業の “コンビニ”だ。かくいう筆者もかなりのコンビニユーザー。残業帰りの午前0時、部屋着で食べるコンビニスイーツのうまさたるや……。
さて、そのコンビニスイーツはどのようにして生み出されているのか。エッセイコミック、『ひみつのローソンスイーツ開発室』(ハトコ/KADOKAWAメディアファクトリー)には、スイーツ開発に奮闘する現場の様子がリアルに描かれている。
物語の主人公・ちひろは大のスイーツ好き。入社5年目のローソン社員である彼女が商品部のスイーツ開発室に異動されるところからストーリーは始まる。花型部署に配属された喜びもつかの間、スイーツ開発の現場の厳しさを思い知らされるちひろ。企画開発部の仕事は新商品を企画・提案するだけでなく、理想のスイーツを開発するために何百回と試作や試食を繰り返していく地道な作業の繰り返しだったのだ。
中でも、読みどころはローソンの主力商品「プレミアムロールケーキ」の誕生秘話だろう。プレミアムロールケーキといえば軽やかながらミルク感たっぷりのクリームと、シットリとしたスポンジが美味しさの秘訣。その味を生み出すために開発室のメンバーは日々試行錯誤することとなる。例えば、クリームは何度も産地や乳脂肪分の比率を変えて試作。はじめこそ大好きな生クリームが食べ放題だと喜んでいたちひろだが、1カ月も毎日大量に試食し続けていればさすがにゲッソリ。さらに、生地の中にクリームをたっぷり詰め込むにはどうしたらいいのか、生地にはどのメーカーの小麦粉がいいのかと、とにかく課題だらけ。だが、そうして出来上がったプレミアムロールケーキは、5日間で100万個を売り上げた大ヒット商品になったのだ。他にも、「ぎゅっとクリームチーズ」「クリームどら焼き」「スイートポテト」などなど、一度は目にしたことがあるローソンスイーツの舞台裏は見ていて興味深い。
また、この物語は新しい部署に配属された主人公の成長ストーリーでもある。スイーツへの情熱は人一倍強いが、まだまだ経験の浅いちひろ。専門知識も少なく、新商品であるティラミスの開発に携わったときには、理想の味を伝えたくとも「ホロホロでフワフワでジュワーなんです」と、かなり感覚的。はじめこそ開発室の部長や先輩におんぶに抱っこだった彼女が、自ら企画したスイーツをヒットさせるまでの流れは読み応えがある。
コンビニスイーツというと手頃な値段から「工場で大量生産されたお菓子」というイメージがある。だが、ちひろや開発室のメンバーの奮闘を読むと、コンビニ商品も血の通った特別なものに思えるから不思議だ。普段何げなく手にできるのは、たくさんの人たちの苦労の証なのだろう。顔も知らない誰かに想いを巡らせてみたくなる1冊でもある。
文=松原麻依(清談社)