アジリティにおける自律性の意義

自律性(autonomy)はSpotifyの中核的な基本理念のひとつだ。現場に可能な限り近い場所で,社員による意思決定が可能になる。同社のKristian Lindwall氏とCliff Hazell氏がAgile Greece Summit 2015で,自律性がアジリティの中心である理由を説明した。

人には自発性があり,より仕事をしたいと願っている。そうでないのならば,何かがそれを阻害しているのだ。それを見つけ出して,取り除かなくてはならない。

失敗しても不安を感じず,新しいことにトライできる文化が必要だ。 恐怖と非難という文化のある場所では,誰もリスクを取ろうとはしない。イノベーションを高く保つには,不安を感じない文化の中で,誤りを犯さなくてはならない。同じ誤りが繰り返されることを望む人はいない,とLindwall氏とHazell氏は言う。Spotifyは誰よりも速く失敗し,そこから学ぼうとしている。その過程で,数え切れないほど多くの振り返りと事後分析が行われるのだ。

自律性(autonomy)の語源はギリシャ語で,選択の自由を有するという意味である。自律性は常に境界(boundary)の中にある。境界は明瞭性と制約の形でもたらされる。境界は可能な限り(時にはチームの協力も得て)明示しなくてはならない。Spotifyは全社をあげて,自律性が高く方向性の合ったチームという文化の実現を目指している。どちらも実現可能ではあるが,努力が必要だ,と両氏は述べている。ステークホルダとも常に連携し,彼らの目的を知っておかなくてはならない。

両氏はAgile Summitで,自らも関与したSpotifyの組織再編について講演を行った。この話で興味深いのは,すべての社員(150名)が組織の構成に関わって,自分たちの働く場所を決めたということだ。リーダ全員(40名)によるワークショップが,全社員との会談を挟んで何回も実施された。必要な変更に関するアイデアを書き留めるのにGoogle docが使用され,ドキュメントへの追記あるいは修正を行うことで,オンラインディスカッションに招待される仕組みとなっていた。新組織の構成に関して同意に達すると,その内容は巨大なホワイトボードに書き出された。次の一週間で,各社員が,自身が働きたいと思うチームに名前を書き入れることになった。このように150名の社員が,自己組織的な方法で15のチームを編成したのだ。

人数が過剰なチームや不足するチーム,さらには希望者が誰もいないチームもあった。チームの規模には制限があったので,その問題を解決することが社員に求められた。すべてのリーダが再編成を最優先の作業として,メンバとの会話に多くの時間を割いた。チーム間でのメンバ交換をオプションとして検討するチームはあったが,強制されることはなかった。希望者のいなかったチームには,なぜそのチームを望まなかったのかの聞き取りが行われた。この情報を元に,実際にひとつのチームが選択されて,そのミッションを他のチームに分割委譲する作業が行われている。

InfoQ: チームの自律性を保持しながらアジャイルをスケールアップすることのできた方法について,詳しく説明して頂けますか?

Lindwall: 組織をどのように分割するかが非常に重要だと思います。明確なミッションを持った強いチーム,組織の他の部分にいかに適合するか,全体的なミッションにいかに貢献するかを理解することがキーになります。依存関係の削減を目指すこと,そして依存関係の所在を確認しておくことが,全員に対してこれらを明確にする上で有効です。組織に対して自分がどのように関係しているのか,組織に何を求めているのかを知れば,すべては自ずと明らかになるでしょう。

Hazell: Kristianと同じ意見です。ソフトウェア開発は共同作業ですから,適切なコミュニケーションが必要です。スムースで迅速なフィードバックループが役に立つでしょう。

InfoQ: 人々の間のコラボレーションをサポートして自律性を高めるために,Spotifyでは,タウンホールミーティングをどのように用いたのか,教えてください。

Lindwall: 毎月1回のペースで全社会議を行いました。リーダチームがここで最新情報を公開したのですが,それよりも重要なのは,彼ら自身がすべての質問に答えられるようになることです。情報の透明性は高く,社員に対しても,リーダたちと同じように厳しい質問をするように求められています。このようなミーティングが,組織全体に渡って,もっと小さなスケールで行われているのです。自律性を高めるには透明性が重要です。そしてこれは,透明性のためのツールのひとつなのです。

Hazell: このパターンが組織全体で,さまざまなレベルで行われるのです。私たちはこれを全社的,開発部内,各職種毎に実施します。メッセージを繰り返すこと,質問に対して回答する時間を確保すること,この2つはとても基調です。

InfoQ: チームが自己組織化した場合,Spotifyのマネージャは何をするのか,例をあげて頂けますか?どうやってチームをサポートしているのでしょう?

Hazell: 可能です。チームがあなたを必要とする度に,次週のミーティングのスケジュールを立てなければならないようであれば,あなたはチームにとってあまり役に立っていないでしょう。特定のスケジュールを入れないようにブロックした余裕時間を用意しておけば,何か起きたときに,すぐ対処することができます。私は通常,少なくとも1日1~2時間を割り当てています。特に急用が起きなければ,本を読んだり,誰かとコーヒーを飲んだり,休憩を取ったりします。

Lindwall: “自己組織化”というのは興味深い話題です。どんな状況でも,自己組織化は常にあります。しかしそれは,あなたが設定した境界の影響を受けることになります。あなたとしては,自己組織化がよい方向に進むためのサポートをしたいと思うでしょう。自己組織化された自律型チームでは,すべてのマネージャは単に立ち去るべき存在だとする誤解は,非常によく見られるものですが,それはまったく誤った行為なのです。

リーダであるあなたは,透明性を提供し,組織の制約を定義し,メンバが最高の仕事をするための条件を提供することによって,チームを支援しなくてはなりません。すべてはチームとその中のメンバが成熟するために必要なのです。経験を積んだチームが必要とするサポートは,経験の浅いチームのものとはまったく違います。実際にマネージャは,チームメンバとその作業場所であるチームに対して,多くの時間を投資しなくてはならないでしょう。適切な形式でのサポートを行うためには,状況を理解した上で,どのようにチームを改善し,メンバをサポートし,最大限のアウトプットを得るべきか,明確な意見を持っていなくてはなりません。Spotifyのマネージャのほとんどは,直属の部下と毎週,1対1でミーティングをしていると思いますし,状況を把握するために,チームと多くの時間を過ごしています。一般的な意味として,Sportifyのマネージャは,メンバをコントロールするのではなく,サポートするために存在している人たちなのです。サポートの方法は,人員配置や透明性の提供,メンバの成長の後押し,チームのダイナミクス向上のための活動,ステークホルダとのコミュニケーション向上の支援など,さまざまです。

InfoQ: 協力的な文化を作り上げる上で,組織には何ができるのでしょう?ご意見を聞かせてください。

Hazell: リーダシップを持って先行することですね。協力関係には信頼が必要です。信頼は時間をかけて,実証を通じて作り上げるものです。メンバとともに状況を共有する中で,支援を求め,支援を提供するのです。一朝一夕になるものではありません。

Lindwall: 透明性を確保することです。 あなたの考えをチームメンバに理解させて,積極的に意見を求めてください。私自身は,毎週リーダシップミーティングを開いて,おそらく普通ならば“経営業務”の範疇にあるような内容について,参加者全員に積極的に発言してもらっています。意図を明確に伝えて,皆がそれに参加することが大切です。言行の一貫性,有言実行ということも大事ですね。エンジニアであるなら,なおさらです。正直なところ,エンジニアの言い分くらい,あてにならないものはありませんから。