『家、ついて行ってイイですか?』『逆向き列車』『交換少女~アノ娘の街に住んでみた~』……。
タイトルだけで何やら興味をそそられるこれらの番組は、すべてテレビ東京によるものである。
近年、このテレ東の躍進が目立っている。以前は「万年5位」などと民放の中で視聴率最下位であることを揶揄されていたが、最近はバラエティ番組での斬新な企画が話題を呼ぶことが多い。特徴的なのは、いわゆる素人を巻き込む企画が多いことだ。
『家、ついて行ってイイですか?』は、終電を逃した人に文字通り「家について行っていいですか?」と声をかけ、実際に相手の家に上がり込むというもので、『逆向き列車』は、通勤前の人に「会社を休んで、いつもと逆向きの列車に乗りませんか?」と提案、その後の非日常を追う。今年1月に放送された『交換少女』は、東京・渋谷と鹿児島・屋久島の女子高生がお互いの生活を1週間交換するものだ。
そのほか、空港で来日した外国人を直撃する『Youは何しに日本へ?』や、世界各地で活躍する日本人を紹介する『世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~』も、テレ東の人気番組だ。
なぜ、テレ東が“素人市場”を独占したのだろうか。「素人ものは計算できないので失敗するリスクも大きいですが、その分リアルな画が撮れるため、予想外の面白さも生まれる」と語るのは、テレビ業界関係者だ。
「素人さんを使わせてもらう企画の場合、制作側も『いったい、どこまで要望に応えてもらっていいものか』を探りながらやっています。いかに、その人の日常を撮るかが大事になってくるので、相手には素の自分になってもらうことが大前提です。『これはテレビだ』と意識されてしまうと、どうしてもカッコつけたり、普段と違う感じになってしまいますから。
そのため、テレ東の社員は『業界人っぽさを消す』という特殊技術を持っているような気がします。例えば、現場でロケをするディレクターが、いかにも“テレビマン”という感じで素人さんに接していたら、あんなに生々しい番組づくりはできないと思います。
素人さんには、ある意味で警戒されないように、自然に接することが大事です。制作の人間はタレントと接することも多いので、服装をビシッと決めたり、だてメガネなどで“業界人感”を出す人も多いのですが、素人さんが相手の場合は、逆に『僕も、あなたと同じですよ』という空気を出さなければ、うまくいかないわけです。
一方、まだまだ『テレビは偉い』と思っていて、横柄な態度を取るディレクターなどがいることも事実です。しかし、そういう人の取材現場を見ていると、やはり相手はずっと緊張しています。『こうやればいいんですか?』『これで合っていますか?』という感じで、せっかく面白い要素を持っている素人さんが、制作側の指示を待つようになってしまうのです。そうなると、もう屈託のない笑顔も撮れなければ、突拍子もない発言も出てこないんですよ。テレ東の人たちは、そのさじ加減が実にうまいと思います」
●他局もびっくりする、テレ東社員の万能ぶり
いかに自然に振る舞ってもらい、テレビカメラの存在や取材中という事実を忘れてもらうかが、素人もの企画成功の一因となっているようだ。しかし、素人を扱うことによって、予定していたシーンが撮れなかったり、制作側の想定をひっくり返すような対応をされることも、日常茶飯事だという。
そのため、お蔵入りなどの憂き目に遭うことも多いというが、そこは転んでもただでは起きぬテレ東である。
「例えば、ある素人さんに密着して長時間撮影しても、もっと面白い素人さんが現れたら、そちらを使って、前者はお蔵入りということも多々あるでしょうね。そうなった時に、相手が『いいですよ。またよろしくお願いします』と言ってくれるような関係性を築いておくことが大事です。
また、お蔵入りやロケ失敗の可能性が高いということは、その分、数をこなさなければなりません。そこで、毎回カメラマンを外注していたら制作費がかさんでしまうので、ディレクターがカメラマンを兼務することもあるでしょう。もちろん、プロのようなきれいな画は撮れないでしょうし、番組を観ているとガタガタで手作り感が満載な時もあるのですが、もはや、それが味になりつつあるともいえます。
また、テロップ(字幕)に関しても同じです。きれいなテロップを入れるためには、編集所に映像を渡して、専門のスタッフに発注しなければならないのですが、予算がないため、自分たちでテロップやBGMの入れ方を覚えて仕上げた例もあると聞いたことがあります。予算が限られていることで、逆に、ディレクターなど現場のスタッフがスキルを覚え、育っていく土壌があるのかもしれません」(前出の関係者)
時には「なんでテレ東の人は、こんなことまでできるの?」と言われることもあるというが、面白い番組づくりのためには、汗をかくことを厭わない姿勢も、好調の一因といえそうだ。
また、結果的に自局の社員が“万能選手”に育つことで、良質なコンテンツづくりが継続的に可能になる。テレ東の快進撃は、実はまだまだ序章なのかもしれない。
(文=編集部)