中国のボーカロイド人気とはなんだったのか? | ニコニコニュース

中国が求めたのはボーカロイドではなく・・・
ダ・ヴィンチニュース

 中国オタク事情を連載している百元です。第17回は中国におけるボーカロイドの人気を振り返ってみたあれこれに関して紹介させていただきます。

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◆中国が求めたのはボーカロイドではなく、初音ミクだった

 結論から言ってしまえば、中国のボーカロイドの人気は現地で「V家」とも呼ばれている初音ミクを中心としたクリプトン系ボーカロイド+αのキャラクター人気を中心としたものだったのではないかと思われます。

 初音ミクという「虚拟偶像」(バーチャルアイドル)が中国で大人気となったのは、初音ミク関連の創作物を楽しむ上で必要な前提知識が少なく、極論すればボカロ曲を聴くだけで問題なくそのジャンルにハマりファンとして楽しめたこと、また創作活動を行う上で必要とされる「知識」や「解釈」についてもそれほど高いハードルが求められなかったことなどが理由として考えられます。

 ボーカロイドの人気、特に「キャラ萌え」的な方面に関しては、他の商業作品と比べて好き勝手に、気楽に楽しめる間口の広さと、コンテンツを追いかけることによってニコニコ動画を中心とした日本のオタクネタや空気を「分かる」「楽しめる」ことの深さなどにより、ライトな層からディープな層まで非常に多くのファンが出ました。

 楽しむ上でのハードルが低く、二次創作的な活動に関しても比較的自由に扱って楽しめる作品に関しては、それ以前にも「東方project」や「Axis powers ヘタリア」などが中国のオタク界隈では大人気となっていましたが、初音ミクを中心としたボーカロイドは音楽という更に間口を広げて話題を拡散させる要素が加わったことから、それ以前とは別物の、一般層まで巻き込んでの人気となりました。

 ちなみに、歌を中心としたオタクのライトな層から一般層にも及ぶ人気の大爆発という点に関しては、現在中国で大人気となっている「ラブライブ!」にも共通する所も見受けられます。

 しかし初音ミクをはじめとするクリプトン系ボーカロイドのキャラ(及びキャラが関係した曲)が大人気になったのとは対照的に、作曲関係ではあまり盛り上がりませんでした。

 これに関しては中国における音楽の好みや作品発表の場の問題、ボーカロイドの現地展開の混乱などの影響も考えられますが、

「音楽に手を出す、趣味で楽しむという人間が日本と比べて圧倒的に少ない」


「音楽で一旗あげる、食っていくという夢がもてない」

 といった中国のオタク界隈も含む、中国の音楽関係の環境も大きく影響していたのではないかと思われます。

◆中国の「趣味としての音楽」に関する環境は?

 今回の記事を書くにあたって文化方面にも詳しい中国のオタクな方に、中国における「趣味としての音楽」に関する事情を教えていただきましたが、それによれば

「上の世代はあれこれと難しかった時代でも音楽を趣味として楽しんでいた」


「歌ったり、独学のハーモニカでソ連の曲などを演奏したり、すごい人になるとバイオリン制作が趣味なんて方もいた」
「現在も公園に行けば二胡を演奏するお爺さんなどがいるし、おばさんの広場ダンスは社会問題になるレベルで活発」

 ということですが

「今の若者、80年代生まれ以降の世代の間では音楽の趣味が一気に縮小してしまった」

 そうで、これがボーカロイドの作曲方面が中国で盛り上がらなかったことにもつながっているのでは……という話でした。

 都市部の80年代以降に生まれた人たちが一人っ子政策の世代で、厳しい受験や就職にさらされてもいます。親の世代はいわゆる「上山下郷運動」で農村に送られるなど厳しい環境にあったのは間違いありませんが、農作業が終われば自由に使える時間が有り、趣味に興じることもできたのだとか。

 しかし80年代生まれ以降の世代は厳しい受験戦争に立ち向かわなければならず、音楽、芸術方面に関しても主に受験の際に加点を得るためのものになってしまいました。そのため音楽に関しても趣味ではなく受験勉強の一環といった扱いになり、あまり楽しめなかったそうです。

 それに加えて、中国の音楽業界は長らく海賊版に荒らされていた上に印税関係の環境も未整備なことから、一般人が曲を作ることがなかなかお金につながらないそうです。

 またオタク界隈においても同人音楽にお金を出すという習慣がなかなか広まらなかったことから、作曲関係に手を出す人は少なく、ボーカロイド自体も中国で展開するボーカロイドチャイナがゴタゴタしてしまったこともあり、あまり盛り上がることの無いまま今に至っています。

 以上のようなことから、初音ミクを中心としてボーカロイドが流行っていた当時の中国では、

「ボーカロイド文化のコンテンツを受け取る」


「消費して自分たちの感性で楽しむ」

 といったことに関する地盤はできていたものの、作曲方面で創作して楽しむということに関する地盤はまだ整っていなかったのかもしれません。

 そして中国ではボーカロイドがキャラの人気を中心に盛り上がっていたことから、初音ミクなどのクリプトン系のボーカロイドが関係しない、近年の日本で人気になったオリジナル系のボーカロイド曲が人気になるのは難しいようです。

 もちろん個々のボカロ曲の動画が話題になったり、「日本のオタクの間で大人気!」といった方向から話題になったりすることはあるのですが、昔のような広い範囲での人気というのは生まれなくなっています。

◆「初音ミク」の今後は?

 中国におけるボーカロイド人気の、

「ネットで拡散し盛り上がるバーチャルアイドル及びその歌などに関する人気」


「ハマる際のハードルの低い音楽を中心として、ライトなオタク層、一般層を巻き込む作品」

の部分に関しては、現在「ラブライブ!」の方に移行している感も見受けられますが、初音ミクというキャラクターが中国のオタク界隈における人気キャラクターとして浸透し、日本のオタク文化のアイコンとして定着しているのは間違いありません。

 日本のボーカロイド関連、特に初音ミク関連の動き自体が最近はあまり活発ではありませんが、日本のオタク文化のアイコンとしての知名度は今もなお健在ですし、この辺りを活かした長期的な活動は今後も期待できるのではないでしょうか。

文=百元籠羊