「歩きながらスマホ(スマートフォン)を使っている人から罰金をとればいい」。フジテレビ系の情報番組「とくダネ!」のキャスター小倉智昭さんが、11月17日放送でこのような発言をして、ネットで話題になった。この日の番組では、道路や駅のホームで歩きながらスマートフォンを操作する「歩きスマホ」をめぐるトラブルが深刻化している問題を特集した。歩きスマホをしている人は「何を見ているのか」といった街頭インタビューや、海外での取り組みなどを紹介した。
そんなVTRを見た小倉さんは「自動車を運転しているときに携帯を使うと、罰金になるじゃないですか。歩きながらスマホを使っている人も、罰金でも取ればいいんじゃない?」「歩きながら使いたい人は止まらないといけない、というルールを作りましょう」と話した。
たしかに、スマホには「LINE」や「メール」「地図アプリ」などがあって、とても便利だが、片時も離せなくなっている人が増えているようだ。街角や駅などで人とぶつかったりした場合、非常に危険で、トラブルに発展するケースもある。
海外では、小倉さんがいうように、歩きスマホに対して罰金が課される国もあるという。はたして日本でも、歩きスマホに「罰金」を課すべきなのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に聞いた。
●小倉さんの意見に反対する弁護士が多数以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、11人の弁護士から回答が寄せられた。1 歩きスマホに「罰金」を課すべき → 1人2 歩きスマホに「罰金」を課すべきでない → 9人3 どちらでもない → 1人
<歩きスマホに「罰金」を課すべきでない>という回答が8割を占めた。そのなかには、「歩きスマホ程度の一挙手一投足まで刑罰法規で取締まる必要はない」「公共マナーの問題ではないか」といった声があった。
一方で、<歩きスマホに「罰金」を課すべき>という回答は1人だったが、「スマホは必要に応じて、椅子に腰かけたり、人に迷惑にならないような場所で、掛けることも容易だから、歩きスマホを全面的に禁止しても差支えない」という意見が寄せられた。
回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士9人のコメント(全文)以下に紹介する。(掲載順は、「罰金」を課すべきでない→「罰金」を課すべき→どちらでもないの順)
●<歩きスマホに「罰金」を課すべきでない>という意見【秋山直人弁護士】「罰金というのは刑罰であって、前科になるものですから、歩きスマホでいきなり罰金を課すというのは行き過ぎでしょう。危ないのは分かりますが、たばこのポイ捨てと同じように、条例で、混雑する場所を指定して、2000円くらいの過料(行政上の罰)を科すくらいが適当ではないでしょうか。ただ、実際に取り締まるとなると、ビデオでも撮らないと、違反行為の立証が難しいでしょうね」
【鈴木敦士弁護士】「法律上、罰金刑を規定したとしても、実際罰金刑にするには、警察などに捜査をしてもらう必要があります。警察の限られた資源は、特殊詐欺などの捜査に注力してもらった方が、多くの人の生活の安全につながるような気がします。たしかに、身体の不自由な方などにぶつかり大きなけがをさせるということがあるかもしれず、それが放置できない大問題ということであれば、スマホに歩いているときに映らなくなるような機能を搭載したよいのではないでしょうか」
【杉山伸也弁護士】「一言でいってナンセンス。歩きスマホ程度の一挙手一投足まで刑罰法規で取締まる必要はない。歩きスマホといっても、駅のホーム、歩道、路地、いろいろな状況があるわけで、大人であればスマホを使っていい状況か否か判断できるはず(逆にその判断を誤れば不法行為や過失致死傷罪等の法的責任を負うことになる)。その判断が『できない』という前提で法規制すべきというのは国民をバカにした話に他ならない」
【小沢一仁弁護士】「罰則を科してまで制限する行為であるか検証すべきと思います。私が知る限りでは、歩きスマホは他人とのトラブルを引き起こす可能性はあるものの、何か事が起こったときに直ちに他人の権利を侵害するとまではいえず、また、仮に侵害したとしてもそれが刑罰を科すべきほどに深刻なものになるとも思えません。刑罰という強い制裁をもって制限する以上、相応の背景事情が必要であると思います。現時点ではそのような事情が存在するとまではいえないと思います。そのため、歩きスマホを罰則をもって規制することについては現時点では反対です」
【濵門俊也弁護士】「刑罰としての『罰金』はもちろん、一般的な意味の『罰金』も含めて、罰金を科すことは許されるべきではないと考えます。行動の自由は、最大限に保障されるべきであるからです。もちろん、歩きスマホを良しとするわけではありません。しかし、法律等で規制したからといって歩きスマホをする人がいなくなるというのは、あまりに発想が短絡的です。他方、規制する側の負担も尋常ではないでしょう。通常の業務に支障が生じてしまうのではないかと懸念します。公共マナーの問題ではないでしょうか」
【岡田晃朝弁護士】「自由の制約は、相当の事情がある場合に必要最小限にすべきです。刑事罰については尚更です。記載の内容は、単なる歩行行為に対して、国家機関が監視し、制約を加えようというもので、必要な限度を超えるでしょう。歩きスマホについては、衝突などでトラブルが生じた際に、個別に損害賠償請求で対応すべき事案であって、国家機関が監視、制約を加えるのは行き過ぎと言わざるを得ないかと思います」
【中井陽一弁護士】「歩きスマホという行為自体が、危険性を有していて、好ましくない、というのはそう思います。とはいえ、法律を作って罰則で規制するという方法が望ましいかどうかは、疑問が残ります。歩きスマホだけでなく、歩きながら本を読んだり、よそ見をしながら歩くのも、同等の危険性があると思いますが、全てを法律で規制するというわけにもいかないと思います。社会のマナーとして、もっと啓発していくことが先決ではないでしょうか」
●<歩きスマホに「罰金」を課すべき>という意見【居林次雄弁護士】「歩きスマホは、禁止し、罰則を掛けるべきです。別に歩きながら電話をしなければならないほど、近代社会は忙しいとは思われません。特に人ごみの中で、歩きスマホを掛けている人は、周囲に迷惑を掛けながら、一向に気づいていません。周りの人にも迷惑ですし、スマホは、必要に応じて、椅子に腰かけたり、人に迷惑にならないような場所で、掛けることも容易ですから、歩きスマホを全面的に禁止しても差支えないと思います。自動車運転中の携帯電話のかけ方は禁止されていますが、同様に厳しく罰すべきであると思われます」
●<どちらでもない>という意見【川面武弁護士】「『歩きスマホ』及び『罰金』の意味が必ずしも明確でありません。私のようにガラケーしか持っていない者は対象になるのか、罰金は刑法上の刑罰なのか不明な提案です。提案を度外視して私見を述べると、想定される行為に(1)通話と、(2)画面の凝視ないし操作がありますが、特に危険なのは(2)の行為です。法規制するなら(2)について私有地以外原則禁止(罰則なし)とし、駅構内など特に危険な場所での行為には罰金刑を科するというのが望ましいと考えます。なお、より危険性の高い自転車スマホの厳格な取締りこそ優先して望みたいです」