労働集約型の製造業からITなどの「知識集約産業」への転換を図る中国で、大卒者を即戦力に鍛える「就職予備校」が人気だそうです。大卒後にIT技術を短期集中的に仕込む職業専門学校のようです。
大学を出ただけでは一流企業への就職が厳しい状況を見る限り、中国でも大学の存在価値が問われているのでしょう。日本も「大卒者(特に文系)にスキルは求めない」「会社に素直に染まってもらうだけ」という時代は終わるのかもしれません。(文:河合浩司)
入社後は役に立たない「就職対策校」しかない現状確かに日本にも「就職予備校」と呼ばれるところはあります。ただし教える内容は面接対策や書類選考対策、自己分析方法といった、就職活動を切り抜けるための対策です。
また日本には「公務員予備校」もありますが、こちらも公務員試験に合格するための対策を教えるところです。就職予備校と同様、入社前にしか役に立たないことを教えているので、学んだ内容は就職後に無用の長物となります。
これに対して中国の就職予備校は、入社後に即戦力となるスキルを仕込むのですから、役割が全く違います。実力をつけて会社にスキルで貢献できる人材になるから、結果的に就職できるようになるのです。
この当り前過ぎるロジックは、不思議なことに日本の就職対策ではほとんど注目されません。おそらく日本企業は余計なスキルを持たない大学生(特に文系)に、まっさらな状態で会社に染まってもらいたがっているのでしょう。
これはいわゆる「メンバーシップ型雇用」というもので、入社時には素直さくらいしか求めませんが、仲間に入った途端、会社の指示には何でも従わなければならなくなります。
一方、欧米では、高等教育を受けてきた人はその専門スキルを仕事で活かす「ジョブ型雇用」として就職します。スキルと関係する仕事が振られ、キャリアに応じて転職します。これは中国人でも同じ感覚のようで、日本企業でも「なぜ大卒の私がこの仕事?」と言われて苦労することがあるようです。
外国語大学や芸術系大学は「即戦力」を輩出できる日本にも「専門学校」というスキルを集中的に身に付ける教育機関がありますが、もっと評価されてもいいのかもしれませんね。大学の中にも偏差値は高くないけれども、在学中に学生にスキルをつけさせて、密かに高い就職率を誇る大学もあります。
例えば外国語大学などが典型なのですが、最近紹介してもらったある芸術系大学では、こんな教育をしていました。入試の偏差値はちょうど50あたり。デザインを中心に学べるカリキュラムを有しており、印刷物やウェブ、プロダクトのデザイナーを輩出しています。個人事業主として独立している方も少なくないようです。
卒業生に話を聞くと、この大学では課題の提出が多いだけでなく、在学中から企業のインターンシップへの参加も非常に盛んなのだとか。やる気のある学生は卒業生に自分から連絡を取り、早くから下積みを経験させてもらうことも多々あるそうです。
こういう人たちは、経団連の就活解禁時期を待たずとも、だいたい就職先が見えているし、入社後も即戦力として活躍できるのだそうです。これは私が想定している「就活のよい長期化」の姿のひとつといえます。
「大学の学び」と「就職後も使える力」の両方を鍛える教育をこういう教育を受けていると、学生はアルバイトをする時間もとれないくらいに忙しくなります。この大学から弊社の内定者研修に参加してくれた学生は、目の下にクマを作っていたほど。4年生は単位を取り終えて「あとは遊ぶだけ」というのが一般的ですが、この大学では寝る間も惜しまざるをえないほどハードに鍛えられているのです。
このような環境は、「大学の学び」と「就職後も使える力」の両方が鍛えられる理想的なものといえるのではないでしょうか。就職するためだけの一時的な対策ではなく、入社後も使える技術を身に付けることで、結果的に就職できる人材を育成する機関こそが「就職予備校」として必要とされることでしょう。