日本の国民的RPG『ドラゴンクエスト』には英語版が存在します。英語版を見ると、ドラクエの持つユーモアやセンスといったものまでなんとか移植しようと頑張っているのが分かります。今回はドラクエの英語版で「魔法」の呪文がどのように訳されているかをご紹介します。
■ドラクエのネーミングセンスは抜群!
あらためて言うまでもありませんが『ドラゴンクエスト』に登場する魔法の呪文はとてもよくできています。効果がイメージしやすい短い言葉が選ばれていますし、その魔法がグレードアップしたときの名前も分かりやすくなっています。
例えば、HPを回復する癒やし効果の魔法は、
ホイミ
ベホイミ
ベホイム
ベホマ
ベホマラー
ベホマズン
と実にきれいに並べることができます。しかも覚えやすいですね。他の呪文も同じで、本当によくできています。ドラクエが愛される理由の一つはこのようなネーミングセンスにもあるのではないでしょうか。
■英語版ではどうなっている!?
ドラクエの英語版は初期には『Dragon Warrior』というタイトルでリリースされていました。初期には魔法の呪文(spell)は下のように訳されていました。
ホイミ ⇒ Heal
ベホイミ ⇒ HealMore
ベホマ ⇒ HealAll
ベホマラー ⇒ HealUs
ベホマズン ⇒ HealUsAll
メラ ⇒ Blaze
メラミ ⇒ BlazeMore
メラゾーマ ⇒ BlazeMost
ギラ ⇒ Firebal
べギラマ ⇒ Firebane
ベギラゴン ⇒ Firevolt
バギ ⇒ Infernos
バギマ ⇒ InferMore
バギクロス ⇒ InferMost
ヒャド ⇒ IceBolt
ヒャダルコ ⇒ SnowBlast
ヒャダイン ⇒ IceSpears
マヒャド ⇒ SnowStorm
イオ ⇒ Bang
イオラ ⇒ Boom
イオナズン ⇒ Explodet
ザキ ⇒ Beat
ザラキ ⇒ Defeat
ザラキーマ ⇒ DefeatMax
メガンテ ⇒ Sacrifice
ラリホー ⇒ Sleep
ラリホーマ ⇒ SleepMore
マホトーン ⇒ StopSpell
マヌーサ ⇒ Surround
メダパニ ⇒ Chaos
キアリー ⇒ Antidote
ルーラ ⇒ Return
リレミト ⇒ Outside
トヘロス ⇒ Repel
トラマナ ⇒ Stepguard
インパス ⇒ X-ray
ラナルータ ⇒ Day-Night
いずれもその魔法の効果を直截(ちょくせつ)に表す単語を選んでいて、効果の程度は「more」「most」「max」などの単語を付けて表現しています。確かに分かりやすいですが、これでは日本語版の持つネーミングの面白さは伝わらないですね。
*……同じ呪文でも複数の表記があるものがあります。例えば「ヒャダルコ」は『Dragon Warrior III』ゲームボーイカラー版では「SnowStorm」となっています。
■魔法の呪文もリブートされた!
現在では海外版も『Dragon Quest』というタイトルになっています。ドラゴンクエストシリーズはいわばリブートされているのです。リブート前には上記のようだった魔法の呪文も、リブート後は、日本語版の持つニュアンスをなんとか翻訳しようと努力したものになっています。
ホイミ ⇒ Heal
ベホイミ ⇒ Midheal
ベホイム ⇒ Moreheal
ベホマ ⇒ Fullheal
ベホマラー ⇒ Multiheal
ベホマズン ⇒ Omniheal
メラ ⇒ Frizz
メラミ ⇒ Frizzle
メラゾーマ ⇒ Kafrizzle
ギラ ⇒ Sizz
ベギラマ ⇒ Sizzle
ベギラゴン ⇒ Kasizzle
バギ ⇒ Woosh
バギマ ⇒ Swoosh
バギクロス ⇒ Kaswoosh
バギムーチョ ⇒ Kaswooshle
ヒャド ⇒ Crack
ヒャダルコ ⇒ Crackle
ヒャダイン ⇒ Kacrack
マヒャド ⇒ Kacrackle
イオ ⇒ Bang
イオラ ⇒ Boom
イオナズン ⇒ Kaboom
ザキ ⇒ Whack
ザラキ ⇒ Thwack
ザラキーマ ⇒ Kathwack
メガンテ ⇒ Kamikazee
ラリホー ⇒ Snooze
ラリホーマ ⇒ Kasnooze
マホトーン ⇒ Fizzle
マヌーサ ⇒ Dazzle
メダパニ ⇒ Fuddle
キアリー ⇒ Squelch
ルーラ ⇒ Zoom
レミーラ ⇒ Radiant
リレミト ⇒ Evac
トヘロス ⇒ Holy Protection
トラマナ ⇒ Safe Passage
インパス ⇒ Peep
ラナルータ ⇒ Tick-Tock
*……上記同様、同じ呪文でも複数の表記があるものがあります。
例えば、火炎系の初期魔法「メラ」ですと、日本人は「メラメラ」という擬音を知っていますから、名前だけでその効果を想像できます。しかし、日本語で表記された「メラ」をそのまま「mera」としても分からないだけでなく、ニュアンスは伝わりません。
また英語は日本語ほど擬音の多い言語ではありませんのでなかなか難しいのです。しかし、このリブート後では、より効果の強い魔法には「-le」、最上級の強い効果のものには「Ka-」を付けるなどして、分かりやすくなっています。また語感が良く、韻を踏んでいるようなものまであります。
日本語版の持つネーミングセンスの良さまでなんとか英語版に移植しようと努力しているわけです。英語訳を担当したスタッフは相当の苦労をされたでしょう。こうした工夫の凝らされているドラクエを、英語圏の人がもっと好きになってくれるとうれしいですね。
(高橋モータース@dcp)