●住宅が売れない~住宅はダウントレンドの真っただ中
住宅が売れない。持ち家と分譲住宅を合わせた新設住宅着工戸数は、この20年で半減した(1994年度96万戸→2014年度51万戸)。消費税増税後は、一段と悪化し、低空飛行を続けている。住宅需要は持続的で大幅なダウントレンドの真っただ中にある。
市場を反映して、大手プレハブメーカーの住宅事業も惨憺たる実績である。この2年で戸建住宅事業の売り上げは、大手7社合計で1000億円の減収である。各社、リフォーム事業、不動産事業などの関連事業へのシフトにより、必死に構造転換を進めているが、業績は思わしくない。自動車、情報家電と並ぶ日本の基幹産業である住宅が今、大打撃を受けている。
住宅市場の実態とは対照的に、消費者の持ち家志向は根強い。JMR生活総合研究所の調査によれば、将来の住まいとして「持ち家」をあげる人は62%にのぼる。現在と比べて1.3倍である。ちなみに現在の持ち家居住者は49%。持ち家の幻想はいまだに強い。では、なぜ住宅市場がここまで落ちたのか。
理由は3つある。1つ目は、シングル化が進んでいることである。日本の最大世帯である「単独世帯」「夫婦のみ世帯」の生活を支えているのは、圧倒的に「賃貸住宅」である。「持ち家」を必要とするのは「核家族」「3世帯ファミリー」など、子供がいる世帯や同居人数が多い世帯である。現在の日本の世帯構造は単独世帯が3割、夫婦のみ世帯は2割と、家に子供がいない世帯が5割に達している。今後は、非婚、晩婚、高齢化などの影響により、ますます拡大する。世帯構造の激変により、持ち家から賃貸へのシフトが進んでいる。
2つ目は、収入資産の格差が進んでいることである。日本は上下の差が小さく真ん中が大きい中流社会から、再階層化が進んでいる。都市と地方、正規雇用者と非正規雇用者、金融資産を持つ人と持たない人との間で生涯所得に大きな違いがある。
「住宅は年収の5倍」といわれるが、その購買力がない人が増えているのだ。再階層化が進む社会で、家を建てることのできる購買力を持つ人は限られている。
3つ目は、家が余っていることである。日本は少子化により、親の数よりも子供の数が少ない状況が続いている。一人っ子も増えているために、子供の側からみると、独身であれば親の家がすでにあり、夫婦のみであれば双方の親の家がある。自分で家を買うより親の家を引き継ぐことのほうが課題だ。
●もはや利回りを超える効用がないと家は買わない
デモグラフィック(人口統計学的属性)の変化とは別に、本質にあるのは、住宅に利回りを超える効用がないということだ。住宅を投資対象としてみると、住宅が金融資産の利回りよりも低いことが挙げられる。
昔から資産三分法といわれるものに、貯金、株式などの金融資産、土地・住宅などの実物資産がある。現在は銀行にお金を預けていても金利は0%であるため、多くのマネーが利回りのいい金融資産に流れている。残念ながら、土地・住宅の利回りは金融資産を下回るのが現状だ。住宅を投資対象として考えると、投資対象としての魅力は金融資産以下なのである。同じ資産があるなら、金融商品に投資したほうが得。住宅に「利回りを超える効用」を持つ人しか戸建住宅を買わない、ということである。
こんな時代に、家を売る方法はあるのだろうか。
鍵は、ニーズの高度化への対応である。JMR総研の調査によると、住まいへの期待は、「家」という範囲を超えて拡大している。
3つの潜在ニーズがある。
1つ目は、「地柄重視」志向である。「近隣住民同士の人間関係が良い」「土地柄が良い」「住宅周辺の騒音が気にならない」などを重視する意識である。田園調布、二子玉川、巣鴨など魅力的な街は数多くある。街のブランド、人間関係を重視する意識や、3世帯ファミリー層の意識、好きな街、人間関係が良い街だからこそ、世代が変わっても住み続けられる住まいかたを志向する意識である。
2つ目は、「地元重視」志向である。「自分や同居人の親と共に住む」「自分や同居人の親元の近くに住む」「生まれ育ったところで暮らす」などを重視する意識である。具体的には、生まれ育った地元で旧知の友人知人と共に、仲良く暮らしていきたい意識といえる。これは男女とも20代に典型的だ。無理して大都市で孤独にひとり暮らしをするよりも、生まれ育った地元で、友人知人と仲良く暮らしていける住まいかたを求めている。
3つ目は、「利便重視」志向である。「近くに商業施設がある」「病院や介護施設が近い」「交通の便が良い」などを重視する意識である。特に高齢層の女性で買い物、通院、介護などに不便な地域よりも、アクセスが便利な大都市で利便性の高い住まいかたに魅力を感じている。
●ものとして家を売る時代の終わり~プレハブメーカーからタウンメーカーへ
ものとして家を売ることは、もはや限界である。これからのプレハブメーカーは、街づくりや人間関係づくり、地元での豊かな暮らし、利便性のある暮らしなど、家族、友人、魅力的な商業施設が集まるプラットフォーム(住まいの土台)そのもの、タウンづくりをしていく必要があるのではないか。
(文=合田英了/JMR生活総合研究所ビジネス・ディベロップメント・マネジャー)