Agile Tour London 2015でDoug Talbot氏が,“Do you know how fast you’re going?”と題した講演を行った。InfoQは氏にインタビューして,見積と計画の難しさ,アジャイルチームが採用している計測手法,生産性を測ることの意味,#NoEstimates運動に対する氏の見解などを聞くとともに,チームが有意義な計測を行う上で役立つアイデアを求めることにした。
InfoQ: ソフトウェア開発の見積や計画が難しい理由はどこにあると思いますか?
Talbot: 私たちが将来を予見しようとした時,それが自身の専門分野であったとしても,常に大きな認知バイアスの影響下にあるということが,数多くの研究結果として示されています。逆に専門分野であることが,かえって事態を悪くしているケースも少なくありません。計画の誤りに対処するハウツーの類まで含めれば,この手の研究は無数にあります。私たちは,自分自身の専門知識レベルを把握することにさえ苦労しています。これはDunning-Kruger効果と呼ばれることもありますが,ひとつの例に過ぎません。私なりの要約すれば,次のようになります: 1. バイアスを理解する訓練を受けていない。2. 適切なデータを使用しないことが多い。3. 見積対象が私たち自身であっても,あるいは客先であっても,ほとんど常にプレッシャを受けている。
InfoQ: 見積スキルを向上させたいと思っているチームに対して,どのようなアドバイスをしたいと思いますか?
Talbot: 推測ではなく,データによる数学的な予測をするべきです。基本とするデータがないためにそれができないならば,バイアスを認識するトレーニングを受けましょう。見積を行う機会を与えてくれる主要な方法として,数多くの研究がこれをサポートしています。
InfoQ: アジャイルチームが使用している測定方法について説明して頂けますか? 計測値としてそれが有効なのかどうか,詳しく説明してください。
Talbot: ほとんどのチームは,能率測定と呼べるような,非常に基本的な方法を採用しています。ベロシティやリードタイム,WIP,CFDなどです。そのような中で,自分たちがビジネスに提供している有効性を理解しようと,効率測定への移行を試みているチームもあります。リーンスタートアップの動向は,MVP思考を普及させただけでなく,実現前の機能にさえも真の価値を提供する能力を私たちに問うています。測定に関する第3の波は,組織のヒューマンダイナミクスに関するものになるかも知れません。Spotifyの“ヘルスチェック”やPatrick Lencioni氏の言う5つの機能障害テストを採用するアジャイルチームの数が増えているようですから。
このような計測値はしかし,すべて個人としての私たち,チーム,さらには組織の向上や効率化には優れていますが,それはあくまで私たち内部の話です。私たちが力不足なのか,平均以上か,あるいは世界レベルに素晴らしいのかを知る上では役に立たないのでしょうか。何しろ開発者の80%は,自分が平均以上だと思っているのです ... 根拠もなく!
InfoQ: 自分たちの生産性を客観的に測定することは可能なのでしょうか?
Talbot: 市場全体を視野において,ビジネスに対する自分たちの影響力を見ることができるならば,間違いなく可能でしょう。当社のWebサイトにおける靴の販売数は,他の靴販売のWebサイトより多い,というようにです。 ですが,大部分のチームにとって,これは非常に難しいことです。彼らはバックエンドシステムを構築しているのかも知れませんし,大規模なシステムのほんの一部を担当しているのかも知れません。私たちが産業として成熟して,業界内ベンチマークの提供方法が検討されるようになるとよいのですが,乗り越えなくてはならない障害がたくさんあります。特に問題なのは競合ですね。
InfoQ: #NoEstimates活動についてはどう考えていますか?
Talbot: これまでの話から明らかだとは思いますが,私は現実主義者ですので,最善を尽くして見積を行う以外に選択肢のない状況があることは理解しています。従来的なプロジェクト管理とそれに関連する計画や見積の問題について,現時点ではほとんど注目されていないことは明白です。#NoEstimatesがその目を開かせる一因となればよいと思いますね。
InfoQ: チームがもっと有意義な計測を行うために,何かよいアイデアはありますか?
Talbot: まずはとにかく,測定を始めることです!効率性や有効性(価値)や人々(チーム状況)を考えるのはそれからです。難しく考えなければ,これらすべてが毎日の作業を改善してくれます。考え過ぎないことです!それができれば,その情報に興味のありそうな人たちにも参加してもらって,私たちのパフォーマンスや業界全体の成長について考えていけばよいのです。