日本を代表する3大シンクタンクである三菱UFJリサーチ&コンサルティング、みずほ総合研究所、野村総合研究所に、6回にわたって2016年の日本を予測してもらう本連載。第4回は、『2016年 日本はこうなる』を上梓した三菱UFJリサーチ&コンサルティングの河合一憲氏が、2016年にスタートする「マイナンバー制度」下のサリーマンの副業について解説する。
2015年10月に施行された改正マイナンバー法に基づき、国民ひとりひとりに12ケタの番号が配布されることになりました。すでに、お手元に自身の番号が記載された通知カードが届いた方もいらっしゃるでしょう。
今後は、この番号を用いて税・社会保障・災害対策の分野で行政手続きが進められることになります。社会人であれば、すでに勤務先から、源泉徴収票作成・雇用保険手続き、財形・持株会提出などの利用の目的についてご説明を受け、番号提出の依頼をされている方も多いのではないでしょうか。
ここでよく話に上がるのが、「マイナンバー制度が始まると副業ができなくなる」という巷の噂です。私も、セミナーなどでよくこの質問を受けます。「冬にスキーのインストラクターをしています」「週末に文化教室で講師をしています」など、勤務時間以外で別の収入を得ている方からの不安の声です。
本稿では、このマイナンバー制度の下での副業のリスクについて考えたいと思います。
サラリーマンの「副業リスク」とは?
一口に副業といっても、さまざまな形態があります。
ひとつの基準になるのが、副業での収入が年間20万円を超えているかどうかです。20万円を超えていれば、確定申告を行う必要があります。
確定申告書には「住民税に関する事項」という項目があり、そこで「特別徴収」と「普通徴収」を選択するようになっています。前者の特別徴収とは、給与から住民税を天引きする方法、後者の普通徴収とは、個人が年間の住民税を4回に分けて、自分自身で支払う方法です。
単発の講師など、副収入が給与所得ではない場合、普通徴収を選択することができます。こちらを選択すれば、自宅に納付書が送付され、各自で支払うことになりますので、勤務先に連絡がいくことは原則ありません。そのため、この方法では、勤務先は副業の住民税情報に気づかない可能性が高いです。
ただし、普通徴収が可能かどうかは、お住まいの市町村区への確認が必要です。現在、特別徴収を推進している自治体が多いため、給与以外も特別徴収で対応するという流れが起きています。この場合は、勤務先に隠れて報酬を受けることは難しいと考えていただいたほうがよいでしょう。
一方、副業としての収入をアルバイトやパートなどの給与所得として受けている場合は、基本的に住民税を特別徴収されます。そして、税務署から自治体へは、副業での給与所得と勤務先の給与所得を合算した金額が連絡され、それに基づいて住民税の税額が算定されることになります。この住民税の税額は、人事や経理担当者も把握するところとなるため、勤務先の給与所得と住民税額に齟齬が生じていれば、副業をしていることがバレる可能性が高まります。
なお、給与所得として受け取る収入の場合は、20万円を下回っていても関係ありません。給与所得は20万円以下でも確定申告が必要になるので、注意が必要です。
ネット収入なら、バレない?
ここまでは確定申告が必要な場合の話です。では、20万円以下で給与所得ではなく、確定申告が不要な場合は、副業での収入が勤務先に気づかれないのでしょうか。
結論としては、気づかれます。確定申告は税務署向けの話で、市町村区向けの住民税のための申告は20万円以下でも必要です。あとの流れは、20万円以上の場合と変わりません。
最近は、アフィリエイトやネットオークションなど、インターネットを使った副収入を得ている方もいらっしゃるかと思います。これらについても、すでに説明したほかの副業と概ね同様ですが、多少異なる点があります。
まず、アフィリエイトでは支払調書が発生します。ただ、この調書は支払う側が税務署に提出するために必要なもので、報酬者への交付は義務ではありません。アフィリエイターの方には、支払調書をもらっていない方が多いのではないでしょうか。
ところが、マイナンバー制度が始まると、事業者が税務署に提出する支払調書には報酬者、つまりアフィリエイターのマイナンバーが必要になります。そして、マイナンバーが付いた支払調書を受け取った税務署は、そのマイナンバーの方が正確に確定申告をしているか否かを把握することができます。
もし確定申告をしていなければ税務署から指摘されますし、確定申告をすれば、前述の通り、勤務先に把握される可能性が高くなります。
では、ネットオークションの売上はどうでしょうか。ネットオークションでの収入は「譲渡所得(資産の譲渡による所得)」になります。譲渡所得のうち、「生活用動産の譲渡による所得」、つまり家庭の不用品などの販売収入は、1個あたり30万円以下であれば非課税です。学校のバザーやフリーマーケットの売上に原則課税されないのはそのためです。
ただし、転売など副業として売買を行う場合は、納税の義務があると考えてください。つまり、確定申告が必要になります。
「マイナンバーでバレる」は正確ではない
さらに、転売の場合、古物営業法への対応が求められます。この法律は、古物(1度使用された品物など)には盗品などが含まれるリスクがあるため、中古品などの販売には都道府県公安委員会に許可を得なければならないことを規定しています。ネットオークションで大量に中古品を転売している場合、この法律に抵触する可能性があります。
また、ネットオークションからの収入を確定申告する際もマイナンバーの記載が必要になるので、税務署には売上を把握することが容易にできます。
「マイナンバーが始まると副業が勤務先に把握される」という話は正確ではありません。マイナンバーがなくても、税務署が本気になれば副収入を正確に把握することはできますし、その結果、勤務先にもバレます。給与所得・確定申告提出義務の場合は、住民税によって副収入を把握されるとお伝えしましたが、これはマイナンバーの有無に限りません。
特に、アフィリエイトなどネットを通じて報酬を受け取っている場合は、追跡が容易です。ネットを使った振込みの場合、必ず、インターネットプロバイダを経由して振込みが行われます。そのプロバイダの履歴を調べれば、どの口座にいくら入金されたかのかが把握できます。もちろん、支払調書から把握することもできます。
ネットオークションも、出品履歴など過去の記録はインターフェース上から削除されていても、記録は必ず残ります。そこから収入を把握することは難しいことではありません。これらはマイナンバーがあろうとなかろうとできたことです。
結論は、マイナンバーが副業を暴くというよりも、マイナンバーが導入されることによって「さらに把握が容易になる」ということです。
これまで一定の副収入を得ていて勤務先に把握されなかったのは、たまたま気づかれなかっただけにすぎません。そして、勤務先にばれないようにするために収入を偽る、確定申告をしないなど、脱税行為を行うのは大きな間違いです。
脱税は重罪です。マイナンバーに怯えながら副業を行うのではなく、勤務先には正直にお話しすることをお勧めします。マイナンバー制度の有無にかぎらず、どのような副業も関係各法に従って申告・納税をすることが、国民としての責務なのです。