喫煙者と非喫煙者、両者が心地よく「共存」することは可能なのだろうか。
以前にも取り上げたが、タバコをめぐる議論はしばしば「泥沼」になりやすい。タバコを吸いたい人、自分の側で吸ってほしくない人――両者の隔たりは大きく、一見すると妥協点を探ることは困難に見える。
だが、日本には「喫煙者と非喫煙者が共存できる環境」を実現するため積極的な取り組みを行い、確かな実績を残している「分煙先進都市」がある。それは、世界有数の観光地として知られる京都だ。
そのなかでも京都市は、全国初となる官民一体での「喫煙環境改善」運動を2013年から開始するなど、いち早く受動喫煙防止の取り組みへ乗り出した自治体なのだという。Jタウンネット編集部は、その進んだ喫煙環境を調査するため、京都へと向かった。
京都駅周辺で見つけた「おもてなし」の心「世界一の観光都市であるためには、タバコを吸いたい人と吸わない人の両方を『おもてなし』しなければいけない」
これは、門川大作・京都市長が2015年12月8日に行われた受動喫煙防止推進の関連イベントで語った言葉だ。実際に、市内を少し歩いてみるだけで、分煙に関する「おもてなし」はいくつも目に付いた。
市内でも特に喫煙環境の改善が進んでいるのは、京都駅周辺だという。確かに、喫煙所が設置されている中央口・八条東口付近では、改札を出るとすぐに案内表示が見つかる。
少し歩けば喫煙所があると分かっているのに、条例違反となる路上喫煙を試みる人はそういないだろう。逆に言えば、喫煙所が見つからないため渋々路上で喫煙してしまう、そんな人も少なくないはずだ。とくに、国内外からの観光客が多い京都ならなおさらのこと。
目立つところに設置された喫煙所への案内表示も、受動喫煙防止に一役買っているわけだ。
こういった喫煙環境改善の取り組みは、京都駅構内でも進んでいる。15年11月14日には、JR西日本が在来線の0番ホームに喫煙ルームを設置。これで、09年にJR西が実施した在来線構内の全面禁煙が緩和されたことになる。
京都駅長によれば、設置を決めた理由は「お客様からのニーズに応え、サービス向上を図るため」。在来線構内が全面禁煙となってからも、利用客からの問い合わせが相次ぎ「多いときには1日に30件以上」にのぼることもあったという。
また、これまでは駅ホームにタバコの吸い殻が落ちていることがあったが、喫煙ルームの設置以降は1つも見つからなくなったそうだ。駅長は、「喫煙ルームの設置がマナーの向上に繋がったと実感しています」とも語った。
外国人でも一目瞭然!市が推進する「店頭表示ステッカー」とはこうした取り組みは、京都府全域の飲食店においても進められている。たとえば、一部の飲食店の入り口には以下のようなステッカーが貼られている。受動喫煙防止のため、その店の喫煙環境が一目でわかるように表示するものだ。
このステッカーは、飲食業や旅館等の事業者組合で構成された協議会と、京都市、京都府の3者が協力し、13年から普及活動を行っているもの。外国人観光客でも分かるように、英・中・韓の3か国語で書かれているのも特徴だ。
考えてみれば、タバコをめぐるトラブルは飲食店で起きることが多い。トラブルにまで発展しなくとも、「喫煙可能な飲食店にも関わらず、隣の客から文句をいわれて......」とは幾度となく聞く話。このようなケースを減らすためにも、入り口に店内の喫煙環境を表示しておくのは得策だろう。
店頭表示ステッカーの取り組みをさらに広げるため、市は15年12月8日に日本たばこ産業(JT)と新たに包括協定を締結。JTの社員が市内全ての飲食店を回り、ステッカーの貼付協力を呼び掛けていくという。
こういった、喫煙者と非喫煙者の「共存」を目指す京都の取り組み。2020年に東京オリンピックを控え、国内外から多くの観光客が大挙する東京にとっても他人事ではない。招致の際に宣言した「おもてなし」を実現するには、分煙環境の整備が必須となるためだ。