テレビ報道と政治介入の問題をめぐり、ジャーナリストと学者が12月15日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を開いて、政治家による「放送法」の解釈を批判し、言論・表現の自由を守ることを訴えるアピール文を発表した。
この日の会見には、ジャーナリストの坂本衛氏と綿井健陽氏、立教大学社会学部准教授の砂川浩慶氏が登壇した。アピール文には、映画監督やジャーナリスト、大学教授ら約40人が賛同署名をおこなっている(12月15日段階)。
●「政府・与党を刺激する内容を避けることが浸透している」メディアを研究している砂川氏は会見で、政権与党の幹部が、昨年12月の総選挙の際にテレビ局幹部を呼びつけて「公平中立」の報道を要請したり、今年4月に個別の番組の放送内容を問題として説明を求めたことを例にあげながら、「民主主義国家ではありえないことがおこなわれている」と指摘。「政権には、言論・表現の自由の重要性を理解してほしい」と訴えた。
坂本氏は、さまざまな意見を読者・視聴者に紹介することなど、民主主義社会におけるメディアの役割を強調。そのうえで、「人々の不可欠な道具を規制するのが間違い。しかも(政権側は)多様な意見を奪ったり、規制をかけるときの根拠として『放送法』をあげているが、その解釈がでたらめだ」と述べた。
ジャーナリストとして、報道映像の制作などに関わっている綿井氏は、報道の現場の実情を紹介した。「だんだんと政府・与党を刺激する内容を避けることが浸透している」「自主規制や忖度(そんたく)などが、制作者の中で定着し、(政権側から)いつでも簡単に操作できるような状態に少しずつなっている」と話した。
この日の会見で、坂本氏によって読み上げられたアピール文は以下のとおり
●放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピールテレビ放送に対する政治・行政の乱暴で根拠のない圧力が目に余ります。
自民党筆頭副幹事長らによる在京テレビ報道局長への公平中立の要請、総務大臣によるNHK『クローズアップ現代』への厳重注意、自民党情報通信調査会によるNHK経営幹部の事情聴取、同党勉強会で相次いだ『マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけよう』といった政治家の発言、政治・行政圧力を批判したBPOの意見書を真摯に受け止めない安倍晋三首相、菅義偉官房長官、谷垣禎一自民党幹事長の発言など。
こうした政治・行政のテレビ放送に対する圧力が、テレビ報道を萎縮させて、人々に多様なものの見方を伝えるテレビという表現の場を狭め、日本の言論・表現の自由を著しく損なっていると私たちは考えます。
とくに政治家や行政責任者が、日本の放送を規定する『放送法』の趣旨や意義を正しく理解できず、誤った条文解釈に基づく行動や発言を繰り返していることは大問題です。放送法は第一条で、放送全体の不偏不党、真実、自律を保障することを公権力に求め、政治・行政の放送への介入を戒めています。
放送法は放送による表現の自由を確保することを目的とする法律であり、不偏不党や中立を放送局に求めてはいません。放送法第四条一項二の『政治的な公平』を番組ごとに要求したり、ある番組を放送法第四条違反と決めつけたりすることことはまったくの誤りで、首相の一方的な主張を伝える番組、ある法律に反対するキャスターを一方的に伝える番組、どちらもテレビに存在してよいのです。
その一方だけを放送法違反として排除するのはおろかです。およそ先進的な民主主義国では考えられないマスメディアへの介入によって、自由な民主主義社会を危うくしてはなりません。政治家や行政責任者には、表現の自由を謳う放送法を正しく解釈して、尊重し、テレビ放送への乱暴で根拠のない圧力を抑制することを強く求めます。政治家や行政責任者は放送が伝える人々の多様な声に耳を傾け、放送を通じて、政策を堂々と議論すべきです。
テレビやラジオには、表現の自由を謳う放送法を尊重して、自らを厳しく律し、言論・報道機関の原点に立ち戻って、民主主義を貫く報道をすることを強く求めます。放送局は圧力を恐れず、忖度や自主規制を退け、必要な議論や批判を堂々と伝えるべきです。
私たちは放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピールを通じて、問題の所在を内外のマスメディアに広く訴え、メディア関係者のみならず、多くの人びとに言論・表現の自由について真剣に考え、議論をしてほしいと願っています。
●賛同人
松本功 ひつじ書房編集長
マッド・アマノ パロディスト
岩崎貞明 『放送レポート』編集長
是枝裕和 映画監督
小田桐誠 ジャーナリスト
篠田博之 『創』編集長
柴山哲也 ジャーナリスト
上滝徹也 日本大学名誉教授
桧山珠美 フリーライター
田中秋夫 放送人の会理事/日本大学藝術学部放送学科講師
高橋秀樹 日本放送協会・常務理事/メディアゴン・主筆/日本マス・コミュニケーション学会
ジャン・ユンカーマン ドキュメンタリー映画監督/早稲田大学招聘研究員
壱岐一郎 元沖縄大学教授/九州朝日放送
永田浩三 ジャーナリスト/武蔵大学教授
古川柳子 明治学院大学文学部芸術学科教授
真々田弘 テレビ屋
岡室美奈子 早稲田大学教授/演劇博物館館長
隅井孝雄 ジャーナリスト
小玉美意子 武蔵大学名誉教授/メディア研究者
川喜田尚 大正大学表現学部教授
諸橋泰樹 フェリス女学院大学教員
高瀬毅 ノンフィクション作家
中村登紀夫 日本記者クラブ/放送批評懇談会/日本民放クラブ/日本エッセイスト・クラブ
大橋和実 日本大学藝術学部放送学科助手
藤田真文 法政大学社会学部メディア社会学科教授
兼高聖雄 日本大学藝術学部教授
石丸次郎 ジャーナリスト/アジアプレス
田島泰彦 上智大学教授
白石草 OurPlanetTV
小林潤一郎 編集者/文筆業
須藤春夫 法政大学名誉教授
谷口和巳 編集者
茅原良平 日本大学藝術学部放送学科専任講師
海南友子 ドキュメンタリー映画監督
野中章弘 ジャーナリスト/早稲田大学教員
鎌内啓子 むさしのFM市民の会運営委員
豊田直巳 フォトジャーナリスト/映画『遺言~原発さえなければ』共同監督
碓井広義 上智大学文学部新聞学科教授
八田静輔 民放労連北陸信越地方連合会元委員長
(弁護士ドットコムニュース)