人気のスマホゲームと言えば、あなたは何を連想するでしょうか?
パズドラ? それともモンスト? どちらのゲームも日々テレビCMが流れていることが多く、「ゲームをプレイしたことはないけど、名前は知っているという人」も多いでしょう。
パズドラことパズル&ドラゴンズがリリースされたのは2012年2月、モンストことモンスターストライクがリリースされたのは2013年9月。モンストはリリースされてから2年が経過していますし、パズドラに至っては来年2月で4周年を迎えます。
驚くのが両社とも、ゲーム内課金の売り上げランキングのチャートで長らくトップを2社で競い合う形で守り続けている点です。特にパズドラについてはリリースから4年目を迎えていることもあり、さすがに絶頂期に比べると売り上げは下がっており、人気のピークは過ぎているという声もありますが、それでもほとんどの期間でランキングはモンストに次ぐ2位を堅持しています。
従来のソーシャルゲームと呼ばれていた携帯ゲーム時代においては、比較的話題となるゲームはブームが1年ぐらいしか長続きせず、話題の主役が入れ替わるのが通常であったことを考えると、3年半以上の長きにわたりトップ争いをし続けているのは驚異的です。
また、モンストについても、ミクシィの救世主として登場した当初こそ、「ゲームとしては一発屋ですぐに失速するのでは」と揶揄する声も聞かれました。売上高のピークは越えたようですが、それでも3年目に入った今も利用者数の増加傾向は続いているようです。
筆者自身、なぜ両社のヒットが長続きするのか良く理解できていませんでしたが、両社の話を聞く機会があり、実はどちらの会社にもその明確な理由が存在することがわかりました。
パズドラにおいてキーワードになるのは、「あえて儲けすぎない」という点です。
ガンホーという会社は元々パソコン(PC)向けのオンラインゲームである「ラグナロクオンライン」の運営で成功して大きくなった会社です。PCオンラインゲームは月額課金で運営されるものが多く、いかに既存ユーザーに長く楽しんでもらうかがビジネスモデルの重要なキーになります。
短期的に儲けすぎないことにも気を配るガンホー
一般的にゲームの代表と言われてきたソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション」や任天堂「Wii」のような家庭用ゲーム機においては、ゲームは最初に購入する際にゲーム1本分のお金を支払い、あとは無料でプレイできるのが一般的です。
当然、一般的なゲーム会社は発売当日から直後にどれだけ大量にそのゲームを販売するかに全力を投入します。発売から時間が経てばたつほどゲームの新鮮さは薄らぎますし、中古品が市場に溢れることになるからです。ゲーム会社側は発売日までにゲームを頑張って開発し、発売したあとは基本的にはそのゲームの追加開発には注力せず、次の新しいゲームの開発にまた全力を投入します。
従来のソーシャルゲームと呼ばれたガラケー向けのゲームは、比較的こうした従来型のゲームと同じような傾向の延長線上のマインドセットにあったといえます。当時のガラケーのブラウザを使ったゲームでは、あまり複雑なゲームを構築することができないため、基本的には単純なクリックをし続けるゲームが次々に開発され、一つの人気ゲームの人気がすたれる前に次のゲームを開発して投入する、というサイクルがかなり速いペースで繰り返されていました。
それに対して、ガンホーはPCオンラインゲームで培った、家庭用ゲームとはまったく違う文化を持ち込んでスマホゲームに参入してきたという点が重要なポイントでしょう。
PCオンラインゲームにおいては、毎月ユーザーにお金を支払ってもらうために継続的に開発をし続けることが必須になります。
たとえば、ガンホーが運営するPCオンラインゲームの「ラグナロクオンライン」は10年以上ものあいだガンホーの売り上げに貢献していました。ガンホーには、こうした一つのゲームを長くユーザーに楽しんでもらうためのノウハウや文化があるからこそ、短期的なブームで終わりがちなスマホゲーム業界において、パズドラが3年以上もトップの座を争い続けることができているともいえます。
こうしたほかのスマホゲーム会社に比べるとガンホーの独特なアプローチは、パズドラの運営方針の細かい部分にも出ています。
9月にパズドラの運営会社であるガンホーの社長室の橋本裕之氏のプレゼンテーションを聞く機会がありましたが、その場でも強調されていたのは、「ガンホーはユーザーとの直接のコミュニケーションに力を入れている」という話でした。
たとえば象徴的なものとしてはガンホーではユーザーサポートも丸投げせずに自社で運営しているようで、公式アカウントに200万人を超えるフォロワーがいるツイッターやニコニコ生放送のような顧客との直接コミュニケーションができるソーシャルメディアの活用にも注力されています。リアルイベントにも力を入れており、ガンホーフェスティバルというイベントは全国9カ所をまわり11万人もの参加者を動員しているそうです。
さらに特徴的なのは、ガンホーではあえて短期的に売り上げが上がりすぎないよう、有料アイテムを多めに配るなど、短期的に儲けすぎないことにも気を配っているという逸話があります。
スマホゲームの各社がビッグデータ分析を行うことで、いかにユーザーから効率的に課金することができるかを日々模索しているのは有名な話ですが、その技術が進みすぎた結果、コンプガチャ騒動に代表されるような多額の課金をするユーザーが出て社会問題化してしまったのは記憶に新しいところでしょう。
モンストは「リアルの友人関係」をキーワードに
実はガンホーは、このデータ分析の結果を、自らの収益を最大化するのではなく、逆に短期的にユーザーが消耗してしまうほど課金しすぎないようにするために活用しているというのです。短期的に収益を最大化しようとしてユーザーから課金しすぎてしまうと、ユーザーが課金に疲れて退会してしまう可能性が高まります。
短期で回収して次々に新しいゲームに乗り換える前提であれば、そのリスクを踏まえても短期的な収益を優先してしまうのかもしれませんが、ガンホーではその選択はせず、いかに長くユーザーに楽しんでもらうかを重視しているというわけです。
一方で、長年続いていたランキング王者パズドラの牙城を崩してトップになったことで注目されているモンストにおいてキーワードとなるのは「リアルの友人関係」でしょう。
実際にスマホのゲームをプレイしたことの無い方からするとパズドラとモンストの違いがなかなか見えにくいかもしれませんが、モンストが従来のスマホゲームに対して画期的だったのは、スマホゲームに「多人数で遊ぶ」という要素を持ち込んだことです。
現在のスマホゲームブームの前にグリー(GREE)やDeNA(ディー・エヌ・エー)を中心とした「ソーシャルゲーム」ブームがありますが、実はここでいわれていた「ソーシャルゲーム」には本当の意味でのソーシャルな要素というのはあまりありません。
もともとの「ソーシャルゲーム」は、Facebook(フェイスブック)やmixi(ミクシィ)などのSNSの上で友人とのコミュニケーションを楽しむゲームのことでした。
世界的にはFacebookをプラットフォームとして8300万人を超える利用者を集めたFarmVilleが有名ですし、日本でも2009年にはmixiをプラットフォームとして「サンシャイン牧場」が200万人以上の利用者を集めて多いに話題になりました。
これらのソーシャルゲームは、SNSでつながっている友人とのコミュニケーションの延長としてのゲームとして人気を集めたものです。
それが日本においては、その後GREEやDeNAを中心にゲーム専用のプラットフォームが普及し人気を博したため、Facebookやmixiのような実際の友人とつながったSNS上の「ソーシャルゲーム」ではなく、ゲーム中心のプラットフォームであるGREEやDeNA上のゲームが「ソーシャルゲーム」と呼ばれ続けるようになった経緯があります。
ミクシィのどん底の時期
ただ、2012年頃にはスマホの普及による携帯ゲームの高機能化もあり、ブラウザを中心としたカジュアルなソーシャルゲームから、パズドラのような携帯ゲーム機顔負けの高機能なスマホゲームの時代が到来し、ますますソーシャルゲームやスマホゲームは、1人で楽しむゲームという側面が強くなっていきました。
ここで注目したいのは、ミクシィはこの「ソーシャルゲーム」のブームの流れで敗北した企業だったという点です。
「ソーシャルゲーム」ブームの黎明期にサンシャイン牧場がヒットしたことで、一時的にmixiゲームはFacebook同様ソーシャルゲームのプラットフォームとして時代の注目を集めました。
しかし、その後はゲームプラットフォームとしてはGREEやDeNAの後塵を拝し、さらに本丸のSNSとしては映画公開などに後押しされて日本でも知名度を一気に上げたFacebookに主役の場を奪われていきます。
モンストがリリースされる前年にあたる2012年にはLINEの躍進などもあり、ソーシャルメディアマーケティング会社の社員が「mixiは死ぬ」というタイトルのブログ記事を書いたことが話題になり、謝罪のプレスリリースを出す結果になるという騒動があったほどです。
参考:社員の「mixiは死ぬ」ブログに謝罪 SNSマーケティングのトライバルメディア
その後、2013年5月には創業社長である笠原健治氏が社長を退き、さらには10月には決算が赤字に転落することが発表。ミクシィにとっては非常に厳しい局面を迎えることになります。
当時、ミクシィが大規模リストラをしているという匿名ブログが話題になったりもしましたから、文字通りミクシィがどん底にあった時期といえるでしょう。そして注目したいのは、モンストのリリース日が2013年の9月という事実。まさにこのどん底の時期に開発されリリースされたサービスなのです。
モンストが生まれたのは「必然」である
ミクシィの採用ページに、その背景の一部がインタビューとして公開されていますが、モンストのプロデューサーである木村弘毅氏は、実は前述のmixiゲームのプラットフォームも担当していた人物です。
mixiの良い時期も悪い時期も経験している木村氏が、モンストを開発する際に軸としたコンセプトが実際の友達と「多人数で遊ぶ」ことでした。
実はミクシィのゲームにおける中心的価値観は、mixiゲームにおいてもモンストにおいてもぶれていないわけです。つまり、モンストは、「リアルの友人関係」「多人数で遊ぶ」という自らのサービスのコアの可能性を信じ続けたミクシィの社員だからこそ生み出せたゲームということがいえます。
誤解を恐れずにいえば、モンストは、初期のソーシャルゲーム競争に敗北したミクシィの執念が生んだ新しい本当の意味でのソーシャルゲームといえるかもしれません。そういう意味で、モンストが窮地に陥ったミクシィがたまたま当てた一発芸的なヒットと考えている人は本質を見誤っています。
モンストは「リアルの友人関係」を重視し、「多人数で遊ぶ」ということの価値を信じているミクシィだからこそ生み出せたゲームであり、ミクシィからモンストが生まれたのは実は必然と言えます。
そのモンストの勢いを象徴する一つのデータが、キーワード検索の傾向から人気度を測るGoogleトレンドにあります。2014年10月まではパズドラが上回っていましたが、その後はモンストが逆転。今もモンストが圧倒しています。
一見パズドラとモンストは同じようなゲームに見えるかもしれませんが、モンストはスマホゲームにリアルの友人関係を組み合わせたパズドラとは違うジャンルのゲームということができます。
最近ではパズドラも友人と同時に遊ぶ機能を追加するなどしてモンストを参考にしているようですし、最終的にはゲームの世界は流行り廃りがありますから、永遠にパズドラとモンストの時代が続くことはありえませんが。
実は一見同じような存在に見えるスマホゲームにおいても、大ヒットの影にはその会社の文化や歴史が大きく影響しているということにも注目してみると、違った風景が見えてきます。