配偶者が浮気をしたので、夫や妻だけでなく、浮気相手からも慰謝料をとりたいーー。
そう考える人も多いですが、慰謝料請求は当然の権利とはいえ、実際に支払ってもらうのは難しいケースもあるようです。
弁護士ドットコムの法律相談に寄せられた「夫の不倫が発覚し、離婚に向けて話し合い中です。相手の女性に慰謝料請求したいのですが、彼女はいわゆる『ニート』。無職で、貯金もほぼないそうですが、慰謝料を支払ってもらえるのでしょうか。」という質問をもとに、松野 絵里子弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 定職も貯金もない不倫相手に慰謝料を支払ってもらうことは難しい
妻が夫の浮気相手に慰謝料を請求できることは、最近の女性はよくご存知です。ご相談者は離婚に向けて話し合っているそうですので、夫婦関係が破綻しているとして、数百万円の慰謝料が訴訟では認められる可能性があります。
では、慰謝料を請求したい相手がニートの場合、お金をきちんと支払ってもらえるのでしょうか?
定職も財産もない相手女性からは、任意で支払ってもらうのが難しそうです。公正証書で、慰謝料の「分割払い」の合意をしておけば、支払ってもらえるかもしれません。ただ、支払ってくれない場合、差押え対象(給料債権)がないので、支払いの強制も難しいでしょう。企業法務でも、倒産しそうな会社に執行するべき資産がなく、支払いを認めた「判決」がただの紙切れになってしまうことは、よくあります。
ただし、不倫相手から慰謝料を支払ってもらうことは難しくても、離婚の際、不倫をした夫に対して、慰謝料を請求することは可能です。
浮気は、夫と相手女性の共同不法行為です。例えば、二台の車が追突した結果、歩行者が事故にまきこまれたケースを考えてみましょう。二台の運転手がいずれもよそ見をしていたなら、二人は共同不法行為の加害者です。この二人の運転手が「相手女性と夫」だとすると、歩行者は「妻」です。
ご相談者は夫の不倫が原因で離婚協議に発展していますが、もしも夫と別れず、やり直すことになれば、家庭が崩壊したことにはなりません。事故でまきこまれた歩行者の怪我が軽かったのと同じです。そのような場合、不法行為の結果が重大とはいえず、不倫相手に請求できる慰謝料は、離婚する場合に比べかなり低額になります。
いずれにせよ、離婚する場合もしない場合も、定職も貯金もない相手から慰謝料を取ることは難しいです。もし、離婚するべきか迷っているなら、前向きに、パートナーとの関係修復を目指してもいいかもしれません。やはり離婚するということなら、きちんと定職のある夫から慰謝料や財産分与をもらうように調停申立をして離婚する等をしたほうが良いでしょう。具体的アクションに出る前に専門の弁護士への相談をお勧めします。
【取材協力弁護士】
松野 絵里子(まつの・えりこ)弁護士
東京弁護士会所属の弁護士。
大手事務所にて12年の経験を経て、独立。
紛争事件、国際的企業法務、国際的家事事件を取り扱う法律事務所を運営しています。
プロボノ活動としては、子どもの法教育に取り組んでいます。
事務所名:東京ジェイ法律事務所
事務所URL:http://ben5.jp/