国連が毎年発表している「世界幸福度調査」で毎年上位につけ、「世界で一番幸福な国」のひとつとして、日本でも広く知られている北欧の国ノルウェー。福祉が充実し、ディズニー映画のモチーフにもなる程自然豊かな彼の国を、「夢の国」とまで評す人もいる。
しかし先日、その「世界で一番幸せな国」に関して、衝撃的な事実が発表された。なんとノルウェーは西欧諸国の中でも、深刻な「ヘロイン漬け国家」であるというのだ。EUのドラッグ調査機関であるEMCDDA、欧州薬物・薬物依存監視センターによると、2013年時点でヨーロッパ全体のヘロイン常用者を100万人とした場合、その中で過剰摂取によって死亡したノルウェー人は70人に上り、これは西欧諸国全体の平均である16人を大きく引き離しているという。
ノルウェーでも、当然ヘロイン摂取は違法だ。しかしノルウェー第二の都市であるベルゲンでは、1,100人以上のヘロイン常用者が確認されており、市内ではヘロインや注射針など摂取器具の売買が横行し、警察は事実上黙認しているとも報告されている。
この惨状に、ノルウェーの医師会やアンチドラッグセラピーを主宰する団体は、行政に対応を開始するように要請。特に、日本円にして年間200万円以上にも上る高額なドラッグ依存治療費自己負担額の緩和を求めた。しかし、ドラッグ問題を明るみにしたくないのか、現状ノルウェー政府や地方自治体が解決に向けて動く気配は一切ない。ちなみに、EMCDDAが発表しているその他西欧諸国のドラッグ治療費自己負担額は平均して年間40万円弱。これだけ見ても、如何にノルウェーでドラッグ依存から脱するハードルが高く設定されているかがわかる。
福祉が充実し、平和で平等で、何不自由なく暮らしていけることは素晴らしいことだ。しかし2011年に同じくノルウェーで起きた銃乱射事件によって、その中でも人知れず閉塞感に苛まれ、鬱憤をため続けている人間がいることが明らかになった。多くのノルウェー国民がヘロイン漬けから抜け出すことができないことも、そういった福祉国家の歪みのひとつと考えていいだろう。「世界で一番幸せな国」に憧れるのは結構だが、同時にその影の部分をしっかりと認識することも重要だ。
最後に、ジョークのような本当の話を。先述したベルゲンで、ある男性がヘロインの過剰摂取でこの世を去った。男性には妻と6歳の息子がおり、妻は葬儀で泣きながら周りにこう漏らしていたという。
「この子もいずれヘロイン中毒になってしまうのかしら?」
するとそばにいた死んだ男性の兄、彼女の義兄がそっと肩に手を置いてこう呟いた。
「何か不安なのかい? 大丈夫、ヘロインをやったら忘れられるよ」
(文=カルロス矢吹)
※イメージ画像:「Thinkstock」より