【若新雄純】青野さんは、2012年の「デコボコラボ」(「就活アウトロー採用」の前身プロジェクト)にゲストとして来てもらったのが最初でしたね。参加していた若者たちが、「自分たちのように就活からはみ出していても、本当に企業のニーズはあるのか」と半信半疑だったので、当時上場直後のベンチャー企業で人事だった青野さんを呼んで、僕と対談してもらいました。
【青野光一】すでに面識のあった納富さんから、「就職を希望する既卒者が集まるイベントがあるから来てほしい」と誘われて、なんだか訳がわからないまま行ったんです。若新さんにはその時初めて会いました。WEBサイトのプロフィールには「自意識過剰なので、誇張してます」と書いてありましたが、会ってみたらそのままでした(笑)。
【若新】青野さんは最初、僕と目を合わせてくれませんでしたよね(笑)。ところで、イベントに参加してみて、その時はどんな印象を持ちましたか。
【青野】既卒者に対する印象が変わりましたね。僕のイメージでは、いわゆる引きこもりの若者の集まりかと思っていたのですが、自分の意見をちゃんと持って、自分の頭で考えている若者がいたんです。こんな優秀な若者が就職できないでいるなんてもったいない、というのが第一印象でした。
その後、「就活アウトロー採用」では、企業の人事として参加しました。ここでは、「真剣10代しゃべり場」(以前NHK教育テレビで放送されていた討論番組)で取り上げられるような“青臭い”テーマで若者たちと議論するのですが、これまた新しかった。僕は採用活動に15年くらい携わってきて、新卒採用や中途採用を含めていろんな採用の枠組みを見てきたと思っていましたが、「まだこんなのがあったのか!」と衝撃的でした。
【若新】どのあたりが新しかったんでしょう?
【青野】普通はどうしても人事が上で、若者が下、という関係性になってしまいますが、その構図が完全に崩れていました。それだけお互いにオープンで、対等な関係が生まれていたということだと思います。
【納富順一】あの場での自己開示はすごいですからね。参加企業は企業名を明かさずに若者たちと対話し、若者たちも出身大学や年齢などをなにも明かさないので、自然と人と人の対話になります。お互いに勘ぐったりすることなく、1人の人間としてオープンになる。企業と若者が駆け引きなしで対話できる場なんです。
【若新】社会的な属性を開示しないからこそ、自己が開示される、ってことですね。
【若新】アウトロー採用に参加する若者たちは、実際に会ってみると、劣っているわけじゃありません。ただ、ズレてはいます。従来の就職活動に違和感があって、はみ出した人たちなので、どこか屈折していて、偏りや歪みがある。その歪みを直すのではなく、歪んでいるなりに働ける場所を見つけようというのが活動のポリシーです。メインストリームの人材ビジネスに長年携わってきた青野さんから見て、彼らのはみ出し具合や歪みはどんなものなんでしょう?
【青野】僕としては、許容の範囲内です。むしろ新鮮です。確かに歪みはあるかもしれませんが、そこでしか出会えない人材に出会える。それが大きな魅力だと思います。
【若新】歪んだ、変な人材を、採用したい人事もいると?
【青野】はい、いると思います。
【納富】企業の人事担当者と話すと、アウトロー採用に参加する若者は、良くも悪くも、他の採用サービスでは出会えない層だとよく言われます。
【青野】世の中には、就活ではこんなことを言ってはいけない、こんなことをしてはいけないという「就活とはこうあるべき」というものがありますよね。そこで想定外のことが起きるはずもなく、人事からするとその対応は難しくありません。従来どおりの対応で済むのでラクといえばラクです。採用側としても、ラクな方向を好む傾向があることは否めません。
でも就活において、ただ選考に落ちたくないようカスタマイズされた人が集まると、その人らしさが見えてきません。だから、採用する理由も落とす理由も曖昧になる気がします。彼らの自己PRなどを読んでも、その人のことがなかなか見えてこないですし、1人ひとり会って、本音を引き出す時間もありません。結局は学歴などの分かりやすい指標で落とすことになるわけです。どういう人間であると強く主張することで、否定されたり選考に落ちたりするというリスクを過剰に意識するあまり、特徴がなくなっているのが現状です。
【若新】昔から大企業の評価制度では、「下位25%を落とし続けた結果、一度もD評価を受けなかった人が部長になる」という話があります。A評価を受けた回数ではなく、D評価をどれだけ避けることができたかどうかで出世が決まる。採用面接も同じかもしれませんね。「落とす理由」が特段見当たらないから採用している。
【青野】その点、アウトロー採用で出会う若者たちは、採用する理由も、落とす理由もはっきりします。
【若新】従来の採用活動が、人事にとっての“作業”だとするなら、“採用作業”しにくい、はみ出した人は、何か秀でていても、企業の採用活動からはこぼれ落ちますよね。でも、実際に人として会ってみると、許容範囲内。
【納富】アウトロー採用の若者たちは、実は、入社した後も組織で波風を立てていることが多いようです。彼らの価値は「空気を読んで水を差す」ことです。プロセスが本来の目的やミッションに合致していないときに、上司や同僚に声を出して確認するのだそうです。従来の新卒であれば、違和感を覚えても「会社とは、社会人とはそういうものだ」という上司の一言で後はひたすら空気を読むのでしょうが、アウトローの子はしっかりと話し合い、腑に落ちないと動かない人が多い。
【若新】あつれきを生む人は多いですね。ただ、採用側には「そういう人材ですよ」と最初から伝えています。商品でいうなら、「この置物は、魅力的だけど、よく倒れたり揺れたりする不安定なものです」と。アウトローは「アウトレット」とは違います。傷ものだから倒れたり揺れたりするんじゃなくて、そもそもまったく違う動き方をする。
【青野】同感です。僕にとっては「アンティーク」のイメージが近いですね。2つと同じものが存在しない。
【若新】アンティーク、いいですね! コンビニやスーパー、デパートでは売ってない非売品ということですよね。役に立つかどうかは別として、どうしても欲しい人は探してでも買うし、興味のない人にとってはガラクタのようなものです。だから、作業効率が図られているマーケットでは流通できない。
【納富】アウトロー採用は、社会的ガラクタの中からアンティークを探す「宝探し」なんですよね。集まってくる若者たちは、誰から見てもそこそこ価値がある人材というよりも、ある企業や経営者にとっては「これはすごい!」という宝物のような存在になれる。そんな企業と若者をどれだけ組み合わせられるかが、僕らが挑戦していることなんです。
【若新】「アウトロー採用の若者を採用すると、どんなふうに活躍してくれるのか」と聞かれたら、「どう活躍するか楽しみです」と答えています。アンティークは、掃除機や洗濯機のように機能が明確な量産品とは違います。アンティークがあることで、暮らしにどなんな影響を与えるかは、それは買ってからのお楽しみです。豊かさは、機能性だけでははかれませんからね。そんな人材が、会社にも1人や2人はいていいんじゃないかと思います。
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青野光一(あおの・こういち)----------
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納冨順一(のうとみ・じゅんいち)----------