●高付加価値化の舵を切り始めたモスバーガー
マクドナルドが不採算に陥った店舗を次から次へと閉鎖し、その存在感が弱まっていくなかで、同時に世代交代につながる動きがポツポツと出始めている。そのひとつが、モスバーガーを運営するモスフードサービスだ。
モスバーガーの15年度の売上高(既存店ベース)は、4月こそ前年同月比1.9%減だったが、上期(4~9月期)ベースでみると前年同期に比べて6.5%も増えている。客数は2.7%減とやや減ったものの、客単価を9.5%増と大きく伸ばすことに成功した。さらには、15年に実施された「JCSI(日本版顧客満足度指数)調査」において、モスバーガーが飲食部門で総合1位の座を獲得しており、高い顧客満足度を得ていることがわかる。モスバーガーは、マクドナルドの苦戦を尻目に今後も一気に攻勢を強めていくことだろう。
その兆しになるのが、11月27日に東京の千駄ケ谷にオープンした「モスクラシック」だ。同店は「大人のための憩いの場」をテーマにした、フルサービス型のハンバーガーレストランであり、その場で大きなグリドル(鉄板)を使って調理するグルメバーガーとともに、光サイフォンで淹れたコーヒーやアルコール類なども提供している。主力商品である「モスクラシックテリヤキバーガー」「チリバーガー」「アボカドバーガー」などはいずれも1,000円以上であり、従来の300円台のモスバーガーと比べて3倍以上の高単価となっている。この同店舗は「モスバーガー」の上位ラインにある新業態店舗と位置づけており、今回の千駄ケ谷での検証結果を参考にしながら、六大都市(東京都区部・大阪市・名古屋市・横浜市・京都市・神戸市)での出店を目指す計画だ。
●グルメバーガーの真打ち、シェイクシャック
また、このモスクラシックからほど近い場所で、もうひとつの見逃せない動きがある。それが「シェイクシャック(SHAKE SHACK)」だ。モスクラシックとほぼ同じ時期に、外苑いちょう並木沿いに国内1号店をオープンしており、いちょう並木のハイシーズンとも重なって毎日長蛇の列ができている。このシェイクシャックは、ニューヨーク発の9カ国で73店舗を運営する高級ハンバーガーレストランであり、14年に「サウスビーチ ワイン&フードフェスティバル」でベストバーガーに選ばれ、同年度版のレストランガイド「Zagat NYC」でも「最も人気のあるニューヨークのレストラン」に選出。そのほか米誌「ボナペティ」が選ぶ「米国で最も重要なレストランTop 20」や、米誌「タイム」の「歴史上、最も影響のある17のバーガー」に選出されるなど、「ニューヨークのベストバーガー」との呼び声も高い。
このシェイクシャックが支持されている大きな理由のひとつは、高品質なハンバーガーを手の届きやすい価格で提供していることにある。パティはアンガスビーフ100%で、ホルモン剤などを一切使用せず、健康的に飼育されたものを厳選している。それにもかかわらず、ハンバーガーの価格は先ほどのモスクラシックなどのグルメバーガーの価格(1,000円~)と、マクドナルドなどの一般的なハンバーガーの中間程度の700円前後で提供している。
ただし、このシェイクシャックについては、このような店舗のブランド力や商品の魅力以外にも注目すべき点がある。それは、2020年までの日本における展開の独占契約をサザビーリーグが結んだことだ。
●サザビーリーグがもくろむ、ハンバーガーのスタバ
サザビーリーグといえば、「半歩先のライフスタイルを提案」することを企業理念とし、これまでスターバックスをはじめ、アニエスベーやロンハーマン、フライングタイガーコペンハーゲンなどさまざまなブランドを日本に導入することに成功してきた企業である。特に、今から20年前の95年に米国スターバックスとの合弁事業として設立したスターバックス コーヒー ジャパンは、この20年間で1,000店舗以上ととてつもない躍進を遂げた。
当初、米国スターバックスはホテルマリオットグループと組んで成田に出店していたが、接客から商品まで米国流をそのまま展開したことで失敗し、ほどなく撤退した経緯がある。それを、当時サザビーリーグの取締役であった角田雄二氏が、米国スターバックスのハワード・シュルツCEO(最高経営責任者)に送った1通の手紙がきっかけとなり、米国スターバックスはサザビーリーグと組んで本格的な日本進出を展開することを決断した。
その後、サザビーリーグはスターバックスを単なるコーヒー店ではなく、暮らしを彩るもの、豊かな文化をかたちづくる場所としてその価値を高めることに成功した。しかし、そのスターバックス コーヒー ジャパンは、2014年をもって米国スターバックスの完全子会社となり、サザビーリーグは保有株を完全に売却した。そのため、サザビーリーグとしても、スターバックスに代わる新たな魅力的なブランドをねらっており、そのひとつが今回のシェイクシャックということだ。
このシェイクシャックは、本格的なメニューをカジュアルなスタイルで提供していることから、もともと「ハンバーガー界のスターバックス」と一部で呼ばれており、日本においては奇しくも、そのスターバックスを手掛けた同じサザビーリーグが関わることでビジネス的成功が期待できる。高付加価値を進めるモスバーガーに加えてシェイクシャックが参入しバーガー戦争が勃発したことで、マクドナルドにとっては今後さらなる試練が続きそうだ。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員)