日本マクドナルドは低迷が続き、回復の見込みが立たない。マクドナルドが11月11日に発表した2015年1~9月期連結決算は、最終損益が292億円の赤字で、1~9月期の赤字額としては13年の上場以降では最大だった。
ここ数年売上高の対前年比はマイナスが多かったが、中国の工場で期限切れ肉を使用していたことが判明した昨年夏以降は、全店売上高が対前年比2桁のマイナスが13カ月続いた。9月の全店売上高はマイナス2.0%、10月はマイナス0.6%、11月はマイナス3.8%で、減少幅は小さくなったが、依然として厳しい状況に変わりはない。今年度は不採算店舗など約190店を閉鎖するとしている。
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特に11月はマクドナルド屈指の人気商品である「チキンタツタ」を投入したにもかかわらず、売り上げが回復しなかったのは痛手だろう。
マクドナルドの売り上げ低迷の原因のひとつとして、多くの人は「そもそも安すぎるのではないか」と思うかもしれない。確かに、ハンバーガーが税込100円というのは安すぎる。11年に、中国のマクドナルドの原価表がインターネット上に流出したが、それによるとハンバーガーの原価は45円だという。原料費が多少変動しているにしても、現在も原価はおそらく大きくは変わっていないはずだ。
通常、食品を販売する店舗においては、原価率は30%以下が適正といわれる。原材料費以外の粗利から、店舗の運営にかかる賃料や人件費、光熱費などの固定経費を捻出しなければならず、そう考えると45%もの原価率では、通常は利益が出ない。
だが、マクドナルドはハンバーガーの値段を100円に設定した。販売数を増やすことで、商品1個当たりの固定経費を減らして利益を伸ばす戦略を取ったといえる。簡単に説明すると、固定経費が月に100万円かかるとして、2万個のハンバーガーを売れば1個当たりの経費は50円。45円の原価と合わせると95円かかっていることになるため、利益は5円となる。だが、2倍の4万個を販売できれば1個当たりの経費は25円となり、原価と合わせて70円に収まるため30円の利益が出る計算だ。
実際にはこんな単純な計算で推し量ることはできないが、販売数を増やすことが重要なポイントになる経営戦略なのだ。
●セット注文で利益確保
だが、消費者に安全性を疑問視されるようになり、売り上げが低迷すると薄利多売方式の経営は大打撃を受けた。かといって、いきなり価格を上げれば客離れに拍車をかけかねない。そのため、別の方法で売り上げを確保しなければならないのだ。
価格の安いハンバーガーは、それによって顧客を誘導し、ポテトやドリンクなど、利益率の高いサイドメニューを合わせたセットメニューの販売によって売上高を確保する狙いもある。
しかし、12年10月にカウンター上のメニュー表を廃止し、セットメニューばかりを全面に押し出した店舗改革を実施した際、その露骨な手法に批判が殺到したため、1年余り後に復活した経緯がある。
ちなみに、現在ドリンク(M)は220円、ポテト(M)は270円だが、いずれも原価は20円にも満たない。それがバーガー類と一緒に頼めば、ドリンクとポテト合わせて300円ほどになるため、「190円もお得」と思わせてセットでの注文を促す。だが、実際のところ、販売数が減っている現状では、セットで頼んでもらわないと利益が出ないのだ。
だが、平日10時から14時半までのランチタイムに限り、各種ハンバーガーとポテト、ドリンクのセットを割引販売する「昼マック」の施策は、14年10月に開始してからわずか1年で廃止となった。先のメニュー表の撤廃、1年で復活といった施策と同様、消費者には「迷走している」ともとらえられている。
マクドナルドは10月に200円のバーガー「エグチ」「バベポ」「ハムタス」の3種類を投入するなど、新規客の開拓を狙っているが、目に見える効果は出ていない。
マクドナルドは、年末までに約400店の改装を終える予定で、18年までに約9割の店舗を改装するという。11月26日には、日本人デザイナーによる「和テイスト」の店舗を立ち上げるなど、消費者のつなぎとめを図っている。
「デフレ時代の勝ち組」ともてはやされたマクドナルドだが、空前の逆境ともいえる状況を脱却することはできるのか。
(文=沼田利明/マーケティングコンサルタント)