いまも拡大を続けるDMMグループの頂点に立つ亀山敬司会長。その亀山会長がもともとファンだったという漫画家の西原氏。かれこれ7年来のつき合いとなる2人だが、その関係は単なる友情とも違う不思議な絆で結ばれていた。西原氏いわく「ただのこすいおっさん」亀山会長の、甘酸っぱい青春の思い出から、ほかに類を見ない独特の経営理念まで、その知られざる素顔に迫った!
西原 お母様が今でも、社員食堂で賄いの仕事やってるってホント?
亀山 うん、してるね。スーパーのチラシ見て「今日は納豆が安い」とか言いながら買い出ししてる。こないだ82歳になったばかり。
西原 そうやってみんなが美味しく食べる姿を見るのが生きがいなんだ。
亀山 みんなから必要とされているのが嬉しいんじゃないかなぁ。
西原 でも、さすがにねぇ……(笑)。
亀山 本人が働きたいって言ってんだからいいじゃん。お袋は昔から働き者で、嫁いだあとに親父がキャバレー始めたもんだから、そのままママになったりもしたのよ。酔っ払いの相手で深夜まで働いてても、毎朝必ず弁当を持たせてくれた。
西原 うんうん。
亀山 当時のキャバレーってのは今のキャバクラと全然違って、もっと重いイメージなのよ。ワケありのお姉さんがウチに2、3人住み込みで働いてて、よく「敬司くん、敬司くん」って可愛がられてたね。晩飯はホステスさんも一緒にみんなで食うわけ。風俗街の『サザエさん』みたいな(笑)、そういう温かい家庭で育ったわけよ。
西原 その頃、童貞を捨てさせてもらえば良かったのに~。
亀山 いや、小学生だったし(笑)。
西原 もったいない(笑)。でも、そんなふうに小さい頃から肌でずっと商売の感覚を浴びていたんだと思う。
亀山 だから俺がアダルトビジネスをやるって言っても、家族は誰も反対せず「あ、そう」って感じだったしね。(笑)。
西原 そういえば露天商やってた頃は何売ってたの?
亀山 勝手に皮布にアラレちゃんとかニコちゃん大王とか描いて、キーホルダーにして1個500円で売ってたなぁ(笑)。
西原 今、描ける?
亀山 描けるけど、今は著作権を侵しません(笑)!
西原 訴えないから大丈夫、大丈夫。
亀山 アハハハハ。
西原 (自分で描きながら)ニコちゃん大王ってこんな感じだったっけ?
亀山 (ペンを渡されて)いや、目はこうだから。
西原 なるほど~。
亀山 このへんから手が伸びてて……もう忘れちゃったなぁ。
西原 じゃあ、これが亀山画伯の作品ということで紹介させていただきます。
※著作権的にはグレー!?亀山氏直筆の「ニコちゃん大王」
亀山 やめて〜。訴えられちゃうよ~。
西原 これが訴えられるなら、世の中のそっくりさん全部訴えられるから(笑)。
亀山 おかしいなぁ〜。昔はもっと似てたんだけどな~。
西原 それにしても、もと露天商が、こんなに立派になっちゃって。
亀山 「人生、投げたらあかん!」それが言いたかったね、俺は。世間のヤンキーの若者たちに言いたい。「なんとかなるさ!」「なんとでもなるさ!」
西原 で、その基本は「金を使わない」ことね(笑)。たとえ何百億稼ごうとも。
亀山 そうそう。とにかく貯め込むこと。金は「パワー」だからね。「消費」するものではないから。
西原 税金は?
亀山 も、もちろん払うよ!
西原 ホント?
亀山 ちゃんと真面目に払ってるから(笑)! 昔、査察に入られたことあったけど何も出なかったし。
西原 チッ、上手く逃げやがったな!
亀山 Aが会社の金を抜いてた口座を突き止められて、それで来たんだけど。「Aがこれだけ隠してたんだから亀山はもっとあるに違いない」っとね。結局、俺は何も出てこなくて、Aの横領分の追徴金を代わりに払わされて終了。ま、そのおかげでそいつの不正が発覚したんだけどね(笑)。
西原 「国税さんありがとう」だね。
亀山 で、そいつに「充分もらってたのに何でそんなことしたんだ?」って聞いたら「会社は儲かってて敬ちゃんは喜んでたし、盗んだ金でパーッと遊んだら銀座のみんなも喜んでた。みんなハッピーで俺は幸せだった」って。そう言われて「ほ~」としか言えなかったよね。なんせ、人に道聞くたびに1万円チップ払うようなヤツだったからなぁ〜。
西原 そんで、逃げ回ってボロボロのショボショボになった時に一緒に再会したんだよね。私が「自殺とかしないでね」って言ったら「あ、そんな気は全然ないです!」って明るく答えてたよね(笑)。
亀山 アハハ。今頃どこかで漁師のおばちゃんとか騙して、とにかく生きてると思うよ。
西原 生涯、誰かを騙して生きてるタイプだね。
亀山 アハハハハ。
西原 そしてそのまま家に上がり込んで一緒に暮らす、という。
亀山 でも、なんか愛嬌があるヤツなんだよ。悪いことやっても憎めない。会社の連中にも評判は良かった。盗った金でみんなに振る舞って、宵越しのカネは持たない奴だったしね。
西原 血圧めちゃくちゃ上がってたくせに(笑)。
亀山 さすがに会社としては戻せないけどね(笑)。
西原 いくらいいヤツでも泥棒は家に入れられないよね(笑)。
亀山 のたれ死にしそうになったら助けてやるけど、会社には戻さないね。
西原 Aさんのお酒は、お酒が好きな人の飲み方とは違ってたから、たぶん泥酔して階段踏み外して死ぬと思うよ。
亀山 「いよいよ最期の時」ってことになったら電話してくんじゃないかな(笑)。
西原 そういえば亀山さん、最初に会った時、約束したじゃない。「お互い相手が立ち行かなくなったら、月5万円づつ振り込む」って。
亀山 あったね~、そんなの。現代版「5人組」みたいな契約だよね。5人確保すれば、一人当たり月5万円振り込まれたらそれだけで25万円。なんとかなるんじゃないかと。
西原 5万円ならそんなに負担じゃないし、何年も一緒に楽しく遊んだ人なら、それもいいかなって思えるじゃない。
亀山 お互い、一寸先は闇だからね。
西原 ふふふ。でも、亀山さんはコンビニのおでん食ってれば満足なんだから、エンゲル係数は相当低いよね?
亀山 かといって、質素倹約を掲げて生きてるわけではないからね。欲しいものがあったら買うし。
西原 なに買ったの?
亀山 う〜ん。こないだのアフリカだってファーストクラスで行ったもん。
西原 それは普通でしょう。もしかしてLCCだったとか?
亀山 いやいや、フルフラットで個室だったから。幸せだったな〜。
西原 けど、これだけ急成長したら、それだけ反動も大きいんじゃないの?
亀山 いや、そう見られてるけど、30年間、同じような感じで安定して伸びてるのよ。なんか最近目立って見えるけど、昔の方が成長率高かったりもするし。
西原 従業員の給料は上がってるの?
亀山 うーん……俺ほどは上がってないかな(笑)。
西原 やっぱり! さすが搾取の天才! でもさ、組織が大きくなると、高学歴の社員を周りにはべらせたりしてない?
亀山 もともとうちの社員は学歴低いからね。高卒だらけだったし(笑)。ここ最近だよ、新卒とか採り始めたのは。だからいま、東大とか高学歴の学生を面接してるのは、高卒のビデオレンタル店の店長あがりだったりする。
ーーDMMは今、金沢大学の学生が就職したい会社の1位らしいですね。
亀山 本当?たぶん去年くらいからだよ。みんなエロやってんのわかってるのかね?
西原 それこそ母校(編注:大原簿記学校)の卒業生を優先的に入れてあげればいいのに。
亀山 たぶん面接だけで落ちるね(笑)。って、おまえ大原をバカにしてんのか〜!
西原 当たり前じゃないか(笑)! 今、従業員数は?
亀山 3000人弱かな。
西原 お給料は全部でいくらぐらい払ってるの?
亀山 怖くて計算出来ないね。もっと稼がなきゃ。東京の家賃も高いし。
西原 (トイレに立ちながら)ここの分、ちゃんと払っとけよ!
ーーせっかくなので、亀山会長の子育てについての考えを聞かせてもらえますか。
亀山 子どもに金は使う必要も、残す必要もないよね。
西原 さっき「お金はパワー」って言ったじゃない。
亀山 仕事においてはね。でも、プライベートでは逆に「重し」になることが多いから。
西原 うんうん。
亀山 多すぎるカネは、むしろ縛りつけられたり、雑音が手に入ったりするよね。たとえば、金目当ての女がいっぱい寄ってきて、本当の愛が見えなくなったり。いつか本当に息子のことが好きな女の子が現れてもさ、金持ってたら「もしかしたら……」って思っちゃうじゃない。それは本人にとって不幸だよね。
西原 ふーん。
亀山 二代目の社長とか、若くして成功した人とか見てると、大変そうだよ。別に本人のせいでもないんだけど。やっぱり二代目って、ある程度売り上げあるところから始まるじゃない。そこから上げても「親のおかげだ」って言われるし、下げようものなら「あいつで終った」って言われるし。ハードル高いもん。
西原 でも、普通は子会社作ってさ、そこに息子置いて資産を渡すじゃない。亀山さんはそんな素振り全然ないし。
亀山 それでも「坊ちゃん」だの「二代目」だの言われちゃうよね。
西原 聞いたところによると、息子さんがDMMを受けて落とされたってホント?
亀山 知らなかったんだよ。ウチの息子は物怖じしないから、勝手に受けてた。
西原 落としたヤツは気が利かないよね~。「亀山」なんて名字で就職試験受けてたら、普通は気づくでしょう。
亀山 後で見たらリストに名前があったけどね。ある意味、うちの会社が健全であることの証明かもね。勝手に受けて勝手に落ちてた(笑)。
西原 大丈夫? こんなところまでしゃべって。
亀山 ま、後で削っておくから。ハハハ(笑)。
西原 メディチ家みたいな、クリエイターに好きにやらせて愛でるという“粋さ”がないのね、この人。
亀山 いやいや、相手に委ねるまでが俺の仕事だから。
西原 その割には私の漫画には細かいこと言うよね~。経営者がイラッとするくらいの作品じゃないと、お客様は喜ばないから!
亀山 わかったよ。じゃあもう、好きに描いていいよ。タイトルは『つかまるな、亀山くん!』でお願いします。
西原 あー、この人といると、いつもなんかすっきりしないんだよなぁ。残便感のような感覚というか。
亀山 うまくまとめておいてよ。ほら、あんたの漫画いつも最後、ちょっとかっこよく締めるじゃない。牧歌的な感じでさ、中間色使ってさ。アハアハアハ。
西原 こういうところがムカつくのよね。あー、今日も後味悪かった。
亀山 一度に満足を与えないのがいいんだよ(笑)。
西原 でも、これくらいイラッとする方が、次また会おうってなるのかもね。めちゃくちゃ褒められたら次に会う気しなくなるもん。
亀山 ムフフフ。じゃあ、またね〜!
【完】
(構成/中村裕一 撮影/西田 航)
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プロフィールDMMグループ会長
亀山敬司
DMMグループ会長 亀山敬司
石川県のレンタルビデオ店からアダルト、IT業界の大物まで登り詰めた成り上がり実業家。現在はFX、英会話、ゲーム、太陽光発電、3Dプリンタ、VRシアターと多岐にわたる事業を展開している。
漫画家
西原理恵子
漫画家・西原理恵子
高知県生まれの漫画家、1988年にデビュー作を発表以来、実体験をベースにしたギャグ漫画作品を発表。著作に『ぼくんち』『毎日かあさん』ほか多数(西原理恵子公式ホームページ「鳥頭の城」)