「World of Warships」でおなじみのウォーゲーミングジャパンでミリタリーアドバイザーを務める宮永忠将氏に,徳岡正肇氏が話を聞いた | ニコニコニュース
「World of Tanks」に「World of Warships」と,リアルかつ独特なテイストを持ったゲームを提供するベラルーシのゲームメーカー,Wargamingだが,社員の中にはゲームを開発するわけでもなければ,販売するわけでもなく,純粋に史実のリサーチに専念するスタッフ達がいる。同社の日本支店であるウォーゲーミングジャパンで,「ミリタリーアドバイザー」を務める宮永忠将氏もその1人だ。
そんな宮永氏に,ライターの徳岡正肇氏が話を聞いてきた。話題はミリタリーアドバイザーという仕事から,「World of Warships」の今後について多岐にわたる。なにしろ,1時間ほどの対談のつもりでいたら,3時間以上長話になってまったというくらいなのだ。さすがに,そのままでは長すぎるが,できる限りまとめたので,「World of Tanks」や「World of Warships」のファンだけでなく,ミリタリーアドバイザーという職種そのものに興味のある人も,ぜひ読んでほしい。
最初にオファーをもらったたときは,仕事を辞めていて,長野で軍事関係の専門書の翻訳とかをしてたんです。そしたら「ゲーム内の軍事用語について検証する仕事があるので,お願いできないか」っていう感じで。当時から「World of Tanks」の名前は知っていましたが,それを作っている会社のことはそれほど詳しくなかったんです。プレイもしていなかったので,「World of Tanks」がどれくらいこだわって作られているものかも,そのときは知らなかったんですね。 ただ,いろいろ調べると,これは非常によく作り込まれたゲームだし,リサーチにも敬意が感じられるなと思いました。 その後,ウォーゲーミングジャパンの川島代表から電話をもらって,一度会ってお話しましょうとなりました。外注の請負仕事として面白そうだな,と思って東京に行き,話をしているうちに,「いつから(弊社に)来てくれますか?」という話になってまして(笑)。 実際のところ,僕と同じ仕事ができる人って,たくさんいると思うんです。ただ,たまたまそのとき,自分は自由に動ける立場にいて,そこにこういう機会がめぐってきた。これは挑戦すべきだろう,と思えたんですよ。
そうなんですよ! 当初はあくまで,ユーザー向け情報の品質管理と,開発側からの情報提供要請に応えるのが仕事と聞いてたんです。当時は「World of Warships」が開発中でして,「長門級戦艦の主砲のディテールについて,詳しく教えてくれ」とか,そういう要望をさばく仕事ですね。 で,入社してみるとメールボックスがすごいことになっていました。開発側からは,相当踏み込んだ情報を求めるメールが大量に届いてたわけです。もちろん,それまでも日本のスタッフががんばって応答してたんですが,なるほど,これは専門の知識がないと進まないな,という状態でしたね。 しかも,ちょうど同時期に「World of Tanks」の日本戦車が最終調整段階にあったので,日本戦車の最終モデリングデータの検証もしなくてはいけなくなって,そのため,最初はそういう調査系の仕事で駆け回りました。
実際,Wargamingはいわゆる多国籍企業だけあって,そういうことも起きますが,同時に世界中のあらゆる紛争に社員が巻き込まれる可能性もあります。 直近の,まさに足元で起きた事例としては,「World of Warplanes」の開発拠点であるキエフが挙げられますね。ウクライナ情勢もいろいろあるので,簡単には説明できませんが,情勢を考慮して,スタッフが以前のようにキエフに集まって会議をすることはなくなりました。
ええ。そこで彼らが選んだのが「家内安全」だったんです。でもこれ,当時のパイロットが「家内安全」のお守りを持って出撃するかとなると,ちょっと疑問ですよね。あったかもしれないけど,現代の日本人が「World of Warships」の新プロモーションムービーで「家内安全」のお守りを持ったパイロットを見たら,「ないわー」と思うのが普通かなと。やはりそういうのはマズいですよね。
「World of Tanks」のときは,すでに完成したゲームに日本の戦車を乗せるという形でしたから,ある意味,分かりやすい仕事でした。 一方の「World of Warships」は開発途中であり,しかもリリース時の技術ツリーには日本とアメリカしかなく,つまり片方の主役といってもいい。そのため,開発陣も東京にオフィスが開設されることに,大きな期待を抱いていた聞いています。これで「World of Warships」開発における,いろんなボトルネックが解消されるぞ,ということですね。 しかし,東京オフィスの設立当時は,日本で「World of Tanks」を成功させることに全力投球するしかなく,「World of Warships」の開発協力に割ける人的リソースがありませんでした。そんなところに僕が入ってきたので,「World of Warships」開発スタッフから大量に届いていた熱いご要望メールを,全部処理することになってしまった――というのが,最初の話です。
徳岡氏:
普通ならそこで話が終わりそうですが,そこが入り口なんですね。
宮永氏:
そうなんですよ。ここで,割と決定的な問題が持ち上がりました。僕は東京にいて,サンクトペテルブルクで「World of Warships」を開発しているチームの要望に応えていくわけですが,情報を提供しようにも,肝心のゲームがどんなものなのか,こちらではプロモーションムービーを見ることしかできなかったことです。グローバル企業ならではですね。
徳岡氏:
ははあ,なるほど。
宮永氏:
こちらとしては,どれくらいのディテールで情報が必要なのか分からないという状況でした。 今なら「World of Warships」が「World of Tanks」ライクな画面であることを知っていますが,当時は,もしかしたら見下ろし型の画面で,比較的小さく見える船を,RTSみたいな感じでコントロールするゲームなのかもしれない,なんてことも考えました。もしそうであれば,甲板にある階段のテクスチャまでは伝える必要がないですよね。 一方,まぁ,ないだろうとは思いましたが,水兵の一人として甲板上を走り回れるようなゲームだった場合,甲板にある階段どころか張り紙や注意書きの詳細まで必要になります。そのへんをはっきり理解しないまま,サンクトペテルブルクの開発チームとメールでやりとりをしてたんですが,案の定,埒が明かない。 そこで,それがどんなゲームになるのか,せめて画面写真だけでも送ってもらえないかと聞いたんですが,画面写真は社外秘なので外には出せないということでした。
それです。海外ゲームをよく遊ぶ人なら,日本と中国を足して足しっぱなしにしたような日本の描写を見ることは多いと思います。「World of Warships」を,ああいう風にはしたくない,ということです。 ただ,実際にどうしたらいいかとなると,それがよく分からない。それで日本に取材しに来たという流れですね。
さて,ヨーロッパ市場においては海戦といえばユトランド沖海戦だ,という話が出ましたが,それを言うなら日本も空母のいない大海戦,日本海海戦を戦っています。「World of Warships」でそれを,といった方向性はあり得ますかね。
宮永氏:
可能だと思います。 この前,MIKASA(以下,三笠)がプレミアム艦として一時期公開されて,すぐに引っ込みましたが,理由は簡単で,三笠が戦うべき相手がいないからなんです。でも,僕がサンクトペテルブルクに行ったときの感触と,彼らが横須賀の三笠公園に来たときの異様なテンションの上がり方を見るに,ロシア市場における日本海海戦需要の高さがうかがえます。 ていうか,ロシア人としては「今度こそ日本海軍をアレしてやる」と思わなかったらウソでしょう。日本人だって,太平洋戦争のゲームをするなら,「ミッドウェイでアメリカ空母を沈めるぞ」っていうモチベーションはどこかにあるじゃないですか。 もちろん,「津島沖モード」が,今すぐ実装されるとは思いません。ただ「World of Warships」のシステムから言えば,まったく問題なく楽しめると思います。
徳岡氏:
なるほど。
宮永氏:
三笠が弱い,使いにくいという声もありました。でもそれは当然で,基本的にドレッドノート級以降の船が並んでいる「World of Warships」に三笠が入っても,戦艦どころか海防艦でしかないわけです。時代遅れになった兵器って,そういうものでしょう。そこで必要になるのは,史実で三笠が戦った相手であり,開発側もそれは確実に意識していると思います。 でも今,それを「World of Warships」の新パッチとして配信しても,世界の多くのプレイヤーは,なんで? ってなっちゃう。 つまり,いかにゲームシステムがユトランド沖海戦や日本海海戦にフィットしていて,かつ開発側もそういうものをやりたいという情熱を持っているとしても,それはやはりミリタリーマニアの欲求だということです。ゲーマーの欲求とは,食い違うんですよ。
「World of Warships」には日米の技術ツリーが出てきますが,太平洋戦争で発生した海戦は,海戦史全体から見ると,かなり特殊な戦いになります。空母と空母が戦ったのは人類史上,今のところあれが最初で最後なんです。 ですから,「海戦ゲーム」として作られている「World of Warships」において,太平洋戦争での海戦が100%再現されるに違いないと考えてしまうと,ちょっと期待の方向が食い違ってしまうかもしれません。もっとも,ユトランド沖海戦シナリオなんだから空母は参加できないぞ,それくらいみんな分かってるだろ,みたいな話になると,これはこれでまた違う,となりますが。
徳岡氏:
つまり,「World of Warships」の方向性には,まだ未知数なところがある,と考えていいのですね。
宮永氏:
そのとおりです。「World of Warships」はまだ産声を上げたばかりのゲームで,開発途中だと考えています。ようやくゲームとしての具材が揃って,遊べるようになった状態であり,これからプレイヤーと一緒に,さらに磨き上げていく必要があるわけです。
徳岡氏:
「World of Warships」はこれからも変化するゲームだというのは納得できるお話なのですが,現段階では,どのような点が課題だと考えていますか。
宮永氏:
これについては,プレイヤーがゲーム中に得る印象と,統計的なデータとの間で食い違いがある部分が多く,統計データを知っているこちら側からは「これが問題だと思っています」と簡単に説明できない難しさがあります。 その筆頭は魚雷ですが,プレイヤーからは「魚雷はあんなに命中するものじゃないだろ」「魚雷が進むコースに乗っていたら,必ず当たってしまうのは,いくらなんでもリアリティがない(ついでに撃たれた側に希望もない)」みたいな意見を多数いただきます。 実際の魚雷って,目標の下に潜っちゃったり,不発だったり,長距離を進んでいるうちに振動で自爆しちゃったりと,非常にデリケートな兵器ですからね。そういう意味では,「World of Warships」の魚雷は超兵器的なところがあります。 ですが統計を見ると,魚雷を搭載した船が敵艦に魚雷を命中させる本数って,だいたい1本前後なんです。もし従来の「World of Warships」で命中していた魚雷が,船底を潜るなりなんなりして,数%の確率で非命中扱いになります,みたいなことになったら,相当ストレスが溜まるだろうと考えていいと思います。
徳岡氏:
リアルだけど,ゲームとしては面白くなりそうもない,という感じですか。
宮永氏:
日本海軍が得意とした夜戦についても意見をもらうんですが,これまた別の問題がありまして。内部テストでは,夜戦はすでに試されてるんですが,まったく面白くならなかった。 というのも,夜戦では陣形など,艦隊規模での運動が非常に重要になるからで,現状の「World of Warships」で規律ある艦隊運動は非現実的でしょう。クラン戦は未実装ですし。
徳岡氏:
「World of Tanks」の,プレイ歴の長いプレイヤーが集まる高Tier帯のゲームでも,ランダムバトルで「規律ある集団戦」はあまり期待できないですもんね。期待されても困りますし。
ええ,「World of Tanks」や「World of Warships」はミリタリーシミュレーションというより,アクションゲームですよね。ゲームイベントを主催している私の知り合いが「World of Tanks」を評して,「年寄り向けのFPSだ」と言ってました。
宮永氏:
僕もそう思います。 実際,「World of Tanks」も「World of Warships」も,専門家からは「リアルじゃない」と言われることのほうが多いです。かつて僕もアナログウォーゲーム業界にいた頃,「World of Tanks」や「World of Warships」のようなコンピュータゲームに対して「リアルじゃない」と言い続けてきましたので,そういう人には「お気持ちはよく分かります」と申し上げたい。 ですが,じゃあそういったリアルじゃない部分を修正したらどうなるかといえば,答えは簡単で,ゲームではなく,仕事の延長線上のようなものができます。具体的に言えば,砲撃戦が始まるまで実際と同様,1時間以上かかるのが当たり前だったりするゲームです。これは,前の仕事でそういうものを実際に作ったり翻訳したりしてた僕が言うんだから,間違いありません。 そういうゲームを作ることはできます。そして,それを売ることもできます。でもそういうゲームを作って売っていた会社は,もう残ってないんです。
歴史というのはいろいろ難しくて,それによって面白くなる部分もあるんですが,あえて史実から切り離された,上手なウソをつくことで生まれる面白さもあります。それは「ガールズ&パンツァー」が,とくによく示していると思います。 もちろん,「World of Tanks」や「World of Warships」が完全に現実を無視しているかといえば,それも違いますよね。ゲームは,ゲームにするために,現実のさまざまな事柄を省略したり,逆に誇張したりして表現します。その省略や誇張によって,ミリタリーの何が表現されているか,それを伝えるのが,ミリタリーアドバイザーとしての大きな仕事の一つだなというのは,切実に感じています。実際,そうやってあきらめずに伝え続けることで,ゲームの魅力を分かってもらえるという経験も積んできました。
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