App Annie カントリーディレクターの滝澤琢人氏に聞く,2015年のゲームアプリ市場と2016年のトレンドとは
4Gamer
数え切れないほどのゲームアプリがリリースされた2015年も,あと残りわずか。1年間の締めとして,今年のアプリトレンドを振り返る記事を(筆者が)読みたいと思ったのが12月頭のこと。 筆者もゲームメディアの端くれではあるが,残念ながらトレンドの話は得意分野ではない。それなら専門家に聞いてみようというわけで,今回はアプリのデータプラットフォームとして業界随一と言われるApp Annie(アップアニー)に取材をさせてもらい,直接話を聞いてみた。取材に応じてくれたのは,App Annie Japanのカントリーディレクターである滝澤琢人氏だ。 筆者の個人的な興味も多少入った内容ではあるが,今年一年の振り返りと,来年のトレンド予測について,さまざまな興味深い話を聞くことができた。App Annieでは2016年1月末に1年間のアプリ市場を総括したレポートを公開する予定だが,それを待てない人は,ぜひ本稿に目を通してほしい。
リンク:App Annie公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,あらためてとなりますが,App Annieではどのような事業を行っているのかを教えてください。滝澤氏:
App Annieは,スマートフォンの市場で提供されているアプリのさまざまな全世界のデータを収集して推計値を作成し,それを必要なお客様にB to B(Business to Business)で提供するというビジネスをやらせていただいています。 弊社では,App StoreやGoogle Playのストアを分析して,どういったアプリがリリースされ,どのカテゴリでどのようなランキングの推移をしているかというデータは無料で,ダウンロード数や売上のデータは有料で提供しています。 何故ここまでいろいろな会社に採用していただけるようになったかというと,一つには,データの推計値の作り方がユニークだったからだと考えています。4Gamer:
ユニークというのは?滝澤氏:
いわゆる一般的な市場調査で言うと,ユーザー全体の推計をするのに,一部のユーザーの行動を収集・分析して全体の推計値を出す,みたいな感じになりますよね。 ただ,アプリのようなコンテンツ,とくに日本の場合は,お金を払うユーザーと払わないユーザーのブレが大きくて,その手法だとなかなかうまくいかないところがあります。たとえば,1000人から2000人,あるいは1万人といった規模で調査を行ったとしても,売上の推計値を導き出すのは難しいんです。4Gamer:
そこでApp Annieでは,ストアを分析していると。滝澤氏:
弊社では,ストアを分析してダイレクトに収集したデータと,パブリッシャさんから提供していただいているデータをかけ合わせて推計値を作っています。その数字の精度がかなり高いというのが一つの特徴です。 それから,2015年に入ってからは,ユーザーがアプリを知ってダウンロードしてから,アプリをどのくらいの頻度でどの程度の期間継続して利用しているのかというように,入口から出口まで網羅的に判断できる指標を収集できるようになりました。 利用動向やユーザーの属性情報をプロダクトとしてリリースさせていただいているので,アプリの事業者さんにとって必要不可欠な基礎データとして,弊社のデータを使っていただいている機会が増えているのかなと思います。4Gamer:
アプリのセールスランキングなどはApp Annieの公式サイトで閲覧可能ですが,そのユーザー動向などは,一般に閲覧はできないんですよね?滝澤氏:
そうですね。弊社で収集したデータを1か月単位でまとめたダウンロードやセールスのランキングは,インデックスランキングという形で公開しています。これは個人法人問わず,弊社の公式サイトで無料で見ることができます。 こちらはApp AnnieをPRする意図もありますが,皆さんに幅広く使っていただきたいという,業界に対する貢献的な意味合いも含めて公開させていただいています。データの実数はプロダクトになっていますので,公式サイトでは順位のみをお伝えしているという形ですね。 ですので,たとえば売上が一定でも,周囲の状況によってランクが上がったり下がったりすることがあります。月次ではブレは少なくなりますが,あくまでも相対環境としてのランキングになりますので,そのあたりは留意していただきたいです。 弊社がB to Bで提供しているプロダクトがどのようなものか,普段外からは分からないと思いますが,それだけで1時間くらいはお話できる内容があるので,別の機会にでもお伝えできればと(笑)。4Gamer:
では,その話は機会をあらためてということで(笑)。 それでは本題に入らせてもらいます。まずは現在のアプリ市場を軽くおさらいしたいのですが,iOS端末とAndroid端末を合わせた市場規模は,どのくらいになるのでしょう。滝澤氏:
弊社で行っているのはアプリ市場の分析なので,端末台数などのデータは第三者から出ている数字をお伝えしています。 市場全体としては,全世界でスマートフォンの普及台数は約20億台,その中で生み出された1年間の収益は約170億ドル,流通しているアプリの数は680万と言われています。 収益ベースで言うと,日本市場はこの中で全世界の4分の1くらいを占めているといった状態です。4Gamer:
講演などでApp Annieが国別の傾向を紹介する際 ,日本,アメリカ,中国,韓国がワールドワイドの収益全体の大部分を占めるという話が出ますが,日本だけで全体の4分の1にもなるんですね。ざっと42.5億ドルだとして,1ドル120円だと5100億円になる計算ですね。滝澤氏:
最近だと,日本とアメリカは同じくらいの規模感ですね。月次の集計だと,月によって日本が上回ったりアメリカが上回ったりと,拮抗しているような状況です。 ですので,アメリカと並んで,世界でナンバーワンのアプリ市場にまで成長したと言ってもいいと思います。なにせ,国全体の経済規模としては4倍近く離れているアメリカと,アプリ市場においては互角に戦っているわけですから。 海外から見た日本市場は市場の規模が大きいだけでなく,ユーザー1人あたりの課金額は明らかに高いという点が,魅力的に映っているのだと思います。 弊社の指標だと,1ダウンロードあたりでどのくらいの収益を上げられるかという部分では,日本がダントツなんですよ。アメリカの場合だと,ダウンロード数は日本の4倍くらい必要になります。4Gamer:
そんなに違うんですか。滝澤氏:
日本はダウンロード数の規模感が小さいので,獲得するユーザーが少なくても収益化できるというのが特徴ですね。ゲームを届けたいユーザーに,彼らが喜ぶようなコンテンツをきちんと提供できれば,マネタイズはできると。 そういった面からも,海外の企業にとって,日本市場をどう攻略するか,重要度が非常に高いのだと思います。 モバイル端末をゲーム機として見ると,ハードや開発ツールは共通ですし,その上に展開されているストアや決済手段も同じです。言語を切り替えれば展開できるので,参入障壁は非常に低いですから。4Gamer:
極端に言えば流通を整える必要もないですし,家庭用ゲーム機と比べてはるかに展開しやすいですよね。滝澤氏:
ただ,ランキングを見ていただくと分かりますが,実際にどういったアプリが売れているかという部分では,日本と海外ではまったく違います。 日本には独自の文化や消費傾向がありますから,日本のゲームユーザーが求めるものと海外のユーザーが求めているものは違う,という部分がありますよね。4Gamer:
確かに,海外のゲームメーカーが作ったアプリをそのまま日本に持ってきても成功できないことのほうが多い,という印象は強いですね。日本メーカーがなかなか海外で成功できないのも同じですけど。滝澤氏:
ダウンロード数を稼ぐ,ユーザー数を増やすという意味においては,日本の規模感というのは,まだまだ全体のトップ10にも入らない程度です。そこは,安価な端末が普及している国のほうが,安いコストで広めることができます。 ですので,何を目指すのかという話になってきますよね。ダウンロード数やユーザー数が少ない,狭められたターゲットに対してコンテンツを提供して収益を上げていくのか。それとも,世界中のユーザーにまんべんなく遊んでもらって,お金を払ってもらえなくても,広告収入などほかの収益手段でマネタイズしていくのかで,成功の姿は変わってきます。 後者のビジネスモデルであれば,必ずしも日本で成功しなくてもいい,ということになりますね。4Gamer:
世界的な傾向として,アプリ単体で収益を上げるビジネスモデルより,広告収入によるマネタイズを作っていくほうがトレンドになっているのでしょうか。滝澤氏:
世界的に見ると,2014年から2015年にかけて,アプリ内で流れているお金と広告収益を比較すると,ほぼ同じくらいの成長度と規模感でマッチしているんですね。アプリで直接ユーザーからお金を取らなくても,広告ビジネスが成り立つということは見えると思います。4Gamer:
ほぼ同じなんですか。滝澤氏:
ただ,広告による収益規模と,直接ユーザーがお金を払うアプリ内課金の比率は,国によってぜんぜん違います。 たとえば先進国の中では,日本市場は8割がアプリ内課金で2割が広告になっています。対して,アメリカやイギリスではその比率が逆転していて,パーセンテージでは広告のほうが大きいです。4Gamer:
ちなみに,本体が有料のアプリ市場は,どのくらいの規模感なのでしょうか。日本では,「ドラゴンクエスト」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズなどのリメイク作品がセールス上位にランクインするのをよく見かけますが,滝澤氏:
収益ベースで言うと,いわゆる売り切り型の有料アプリの市場規模って,ほんの数%しかないんですよ。 アプリのマーケットがリリースされたときには,皆さん,売り切り型アプリを出していたんですけど,最近は全世界でほぼ9割8分くらいのアプリは,サービスを使ってもらうことでお金を払ってもらうという運用型に完全に切り替わってしまっています。4Gamer:
そう言えば,有料アプリでは「Minecraft: Pocket Edition」がずっと有料アプリのトップを保っていますが,セールスランキングではトップ100に入っていないですね。※「Minecraft: Pocket Edition」は有料アプリランキングでは1位,全カテゴリのセールスランキングでは109位に位置している(※2015年12月29日時点)。
滝澤氏:
「Minecraft PE」はとても特殊な事例で,有料アプリの中でも,世界的にここまで大成功しているゲームはありません。ただ,それでも全世界のアプリ売上トップ10に入るようなことは,今の状況だと絶対にありません。それくらい規模感が違うんです。■2015年はIPを活用したゲームアプリが大きなポジションを占めるように。海外では日本のような運営型のスタイルに注目
4Gamer:
この1年を振り返って,日本市場で注目のアプリを教えてもらえますか。滝澤氏:
売上トップ10位までのタイトルの中でも,上位にずっと残っている「モンスターストライク」と「パズル&ドラゴンズ」の2タイトルは別格ですが,2015年に入ってから急上昇したタイトルとしては,「白猫プロジェクト」と「剣と魔法のログレス いにしえの女神」が目立っていましたね。 「グランブルーファンタジー」も今年の後半はトップ10に入るタイトルになりましたし,「Game of War」など新しいアプリもけっこうランキングに入っています。そういう意味では,競争はますます激しくなっている状況と言えます。4Gamer:
そのほか,目立った動きにはどのようなものがありましたか。滝澤氏:
最近だと,「ファイナルファンタジーレコードキーパー」「Fate/Grand Order」「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」といったIPものの上昇が目立っています。 アプリの「ファイナルファンタジー」タイトルは複数の作品が立て続けにリリースされて,ちょっと分散してしまったという印象はありますが,第1弾的な立ち位置の「ファイナルファンタジー レコードキーパー」を含め,それぞれがかなり好調に推移していますね。4Gamer:
日本以外でもIPものは人気があるのでしょうか。滝澤氏:
IPがゲームアプリの中で大きなポジションを占めるようになったというのは,全世界的に言えることです。 ただ,内容はけっこう国ごとに違います。たとえばアメリカ市場では,ハリウッド映画からの派生もの,Marvel ComicsやDC ComicsのIPものが非常に大きく伸びています。あとは,「SimCity」のような往年のコンテンツのアプリ版をElectronic Artsさんが出しているといったところでしょうか。4Gamer:
IPもの以外では,どんなアプリの人気が高いんですか?滝澤氏:
アメリカのゲームで言うと,上位を占めているのはカジノアプリですね。売上的にもかなり好調で,いろいろなアプリが出ています。 アメリカにはカジノ文化があるので,同じような経験をアプリで手軽にできるというのが,受け入れられている要因だと分析しています。4Gamer:
日本でいうと,パチンコ/パチスロのシミュレータアプリみたいなものでしょうか。滝澤氏:
日本の場合,本番に勝つためにシミュレータをやるという目的があると思うのですが,アメリカの場合は,仮想通貨を払って遊んで勝ち負けというように,アプリ内で完結しています。ジャンルという意味では同じかもしれませんが,傾向は違っているのではないでしょうか。4Gamer:
実際のカジノのように,お金を使わないで遊べるところが受けているんですか?滝澤氏:
お金はけっこう使っているんですよ(笑)。実際のカジノのように戻ってくることはないんですけど。 カジノって非常に汎用性が高いというか,ルールが明確でシンプルなところが,多くの人達を惹きつけているところがあるんだと思います。1回のプレイ時間も短いので,手軽に隙間時間を埋めてくれる遊びとして受け入れられているのではないかと。4Gamer:
実際,多数のアプリがリリースされていると思いますが,カジノのルールが共通でシンプルであれば,どんなパブリッシャもカジノアプリを出せるわけですよね。滝澤氏:
参入障壁はすごく低いですよね。ルールが共通ですから,模倣して誰でも作れてしまいますし。 正確な数は把握できていませんが,実際に多数のカジノアプリが配信されています。その中で勝ち上がっているタイトルは5〜6本に限定されますが,それらのタイトルは非常に好調ですね。4Gamer:
ヒットするアプリとそうでないアプリには,どんな違いがあるのでしょうか。滝澤氏:
私自身はそれほど詳しくないので,個別に細かい分析まではできていないのですが,運用系のタイトルで大切な,ユーザーを飽きさせない要素を持っているというのは,ヒットしているどのメーカーのアプリにも言えることだと思います。 始めは1000人のうち数人しか残らなくても,継続率を高めて最終的にユーザーを増やしていく計算式が成り立てば,規模を大きくしていくことは難しくなくなります。 そのように,ユーザーの行動を分析して日々改善をしていったタイトルが,新しいユーザーを獲得する力をどんどん付けていった,というところはあると思います。4Gamer:
今おっしゃったような運用系のタイトルは,日本と何が違うのでしょうか。海外では,日本のような運営型のスタイルに馴染みがないという話を聞いたことがあるのですが。滝澤氏:
やり方はだいぶ違うと思いますね。おそらくですが,海外の場合は,手動でやるというよりは,離脱を防ぐ仕組みをゲームの中でシステム的に吸収しようとするところが,各社が取っている手法なのかなと。4Gamer:
自動化の仕組みですか。滝澤氏:
たとえば,日本のユーザーさんは,何を求めているか比較的分かりやすいと言いますか。30代の男性でRPGが好きだったら,どんなゲームを過去に遊んでいるからこういった手法が有効だ,といった予測が立ちやすいですよね。 でも,アメリカなどでは,人種も文化も,生活のスタイルも価値観も何もかもが違います。あまりにも多様化しすぎているので,アプリに触ってもらった人達に向けて,何を提示するのが正解なのか多分分からなくて,うまくいかないことが,往々にしてあると思うんですよ。 ですから,データを使った分析で最大公約数的な解を導き出して,それをロジカルに取り込んでいく自動化する仕組みに関しては,非常に積極的なのだと思います。4Gamer:
なるほど。滝澤氏:
ただ,そのタイトルが成功するかどうかは,プロモーションだったり運用だったり,プロデューサーの知見やノウハウによって決まるところも大きいでしょう。 例えば,ゲームのアイコン画像やストアに掲載するスクリーンショットであったりと,いわゆる「アプリストア最適化」次第で変わってくるところもありますし,タイアップであれば,フィーチャーするIPやその扱い方によっても,ハネ方が違ってきますから。4Gamer:
日本市場で,ダウンロード数が多くなくても収益が上げやすいというのは,そういったターゲットが絞りやすい面が影響しているのかもしれませんね。 日本人としては,オートメーション化されたイベントよりも,作り手の意図が感じられるイベントのほうが楽しいと感じるものでしょうし。滝澤氏:
そういった知見は,運用型のオンラインゲームから得られたものがすごく有効ですよね。 日本のゲーム,とくにオンラインのコンテンツでは当たり前のことですけど,海外の会社にとってはとても珍しいことのようです。 私がGDC(Game Developers Conference)で運用型のアプリを説明したときに,海外では「運営」という概念が根付いていなかったので,Live Operationという形で紹介したんです。何らかのイベントをユーザーコミュニティに提示するオペレーションを続ける,という意味ですね。 そうしたら,「Live Operationでは何をやっていて,なぜ重要なのか」と聞かれたことがあります。そういうところを見て,やはり日本とはだいぶ違うんだなと思いましたね。4Gamer:
接客といいますか,サービスに対する考え方がだいぶ違うんですね。PCオンラインゲームの話になりますが,日本の場合,海外の開発元に追加コンテンツやビジュアルなど,日本向けにアレンジするのに積極的なケースが多かったので,そういう話を聞くと少し意外に感じますね。滝澤氏:
海外でグローバルに展開しているコンテンツだと,「日本独自でこういう風にしたい」というのは,開発のリソースを割くこともあってなかなか難しいみたいですね。 ですので,どちらかと言うと,マーケティング的なキャンペーンなどでライブ感というか,多少なり運営している感じを出すのがよく見る手法です。 とはいえ,そういう部分を大事にしてマネージメント専門のチームを用意して,現地にちゃんとスタッフを置いてコミュニティ管理をするような話はよく聞きますね。■中国ではMOBAとMMORPGが大きな市場になりつつある
4Gamer:
この1年を振り返って,特徴的だった動向は何でしたか。滝澤氏:
一番特徴的だったのは,Facebookが日本ではゲームプラットフォームとしてはぜんぜん流行らなかったことです。4Gamer:
Facebookですか。ちょっと意外な気もしますが何故でしょうか。滝澤氏:
海外では,Facebookの影響というのは大きくて,たとえばKingさんが全世界でユーザーを増やせたのには,ゲームプラットフォームとしてのFacebookの力によるところがすごく大きいんです。 SNSが集客としてのプラットフォームとして機能していて,つながっている人をごそっと連れてくるみたいなイメージです。今でも,アプリで「どこまで行った」とみたいことのをやり取りしている人もいますし。 先ほど話に出たカジノ系のアプリにしても,メッセージングや友達との連携といったソーシャル要素は,Facebookのようなゲーム外のソーシャルプラットフォームに任せているものが多いんです。4Gamer:
集客ツールとして機能しているのであれば,わざわざ作る必要はないですもんね。滝澤氏:
Facebook自体は日本でも流行っていてアクティブな人も多いですが,コミュニケーションツールの域を脱することはできませんでしたね。 日本の場合,運営型のタイトルではリアルとは切り離された独自のコミュニティを用意することが多いですよね。別にリアルの友達とゲームでつながる必要がないところがあると言うか。4Gamer:
リアルの関係やしがらみをゲームに持ち込みたくない向きはありますよね。FacebookやTwitterと連動しているアプリは多いですけど,積極的に利用しているユーザーが多いようには見えませんし。 とはいえ,アプリが個別にコミュニティを持ったからといって,成功できるとは限りませんが。滝澤氏:
だから「パズドラ」みたいな,ゆるくつながるくらいの関係が日本人には適切な距離なのかもしれませんね。 ただ,LINEのようなちょっとミッドコアと言うか,マルチプレイや外とのつながりに踏み込んでいるアプリも中にはありますから,今後は変わるかもしれません。4Gamer:
そういった意味では,日本ではLINEが最有力な気がしますが,どこまで波及効果があるかは,まだ未知数な気がします。自分の連絡先を見ても,仕事関係以外ではゲームに縁のない人が多いですし。滝澤氏:
アプリと言ってもいろいろなジャンルがあって,自分の生活のスタイルを壊さないようカジュアルに遊ぶ人もいれば,PCや家庭用ゲーム機の代替としてアプリを遊ぶユーザーもいますからね。 今年の中国市場では,後者の流れが非常に顕著に出たんですよ 。中国のランキングで今トップを独占しているタイトルは,NetEaseさんの「Fantasy Westward Journey」ですが,これは過去にヒットした,西遊記を題材にしたMMORPGをモバイル化したものなんです。 オリジナルは,2010年に最大同時接続者数が260万人を突破したそうなので,母数が大きいPC版ユーザーを持ってこれたというところが大きいのかなと思いますが。4Gamer:
日本でも,MMORPGをスマホで提供する動きが2015年は活発でした。まだ大きく成功したタイトルはありませんが,中国の事例を聞くと,2016年に控えているスマホ向け「ファイナルファンタジーXI」 のサービスインなどで,大きな動きが起きるかもしれませんね。滝澤氏:
また,中国ではもう一つ,「League of Legends」のようなMOBA系コンテンツが注目されています。こちらもPCからですが,バトル系のMOBAとコミュニケーション系のMMORPGが大きな市場になろうとしていて,今後出てくるタイトルも,しばらくはMOBA系が多くなると予想されています。4Gamer:
日本はどうでしょう。上位が不動の印象が強すぎるせいもあると思うのですが,ランキング全体を見ても,新旧タイトルが入れ替わっている印象があまりありません。滝澤氏:
固定化している印象が強いのは,長くサービスを続けているタイトルの総ダウンロード数が大きいところにあると思います。 ユーザーのピークを越えて徐々に売上が下がってきた段階で,大型のアップデートやプロモーションなどで昔のユーザーを呼び戻す施策が当たれば盛り返すこともありますから。 一方,新しいタイトルは,先ほどお話したように,昔ほどダウンロード数を稼がなくても売上で上位を目指せるようになったこともあって,売上の上位に突然現れることがあります。実際,トップ10はともかく,それより下では入れ替わりはけっこうありますよ。■売上ではランキングの大勢を占めていても,ユーザー利用率でランクインするゲームは少ない
4Gamer:
では,アプリ市場全体の売上やダウンロード数についてはどうでしょう。最近は,頭打ちになってきたと見る向きもありますが,滝澤さんはどのように見ていますか。滝澤氏:
冒頭でもお伝えしましたが,App Annieでは今まで収益とダウンロード数しか見えなかったんですけど,ユーザーの利用動向が分かるようになりました。そこで初めて,ゲームユーザーがすごく少ないということが見えて来たんです。4Gamer:
そうなんですか?滝澤氏:
アプリの売上では,トップ100の多くがゲームですよね。でもアクティブユーザーのユーザー利用率ランキングにはゲームがあまり入っていないんです。日本のスマートフォンユーザーは6000万人くらいいますが,その中でゲームを利用している人のシェアは,まだまだ小さいということですね。 ゲームでユーザー利用率が高いのは,「LINE ディズニーツムツム」「パズル&ドラゴンズ」「モンスターストライク」あたりです。4Gamer:
アクティブユーザーと言うのは,どういう基準で算出しているのでしょうか。滝澤氏:
特定期間のうち,アプリを1回でも起動して少なくとも何らかの操作をしたら,1アクティブユーザーとしてカウントされます。期間内に何度起動しても1ユーザーとしてカウントする,ユニークユーザーになります。 データは日次で細かく取っているんですけど,集計としては週次(WAU,Weekly Active User)と月次(MAU,Monthly Active User)の2つを出しています。4Gamer:
先ほどのデータは,週次と月次のどちらですか?滝澤氏:
月次のほうですね。4Gamer:
ユーザー利用率が高いタイトルの話は興味深いのですが,売上でトップを争うアプリでも,利用頻度で言うとほかのジャンルのアプリに及ばないんですね……。 ちなみにユーザー利用率ランキングでは,ゲーム以外ではどんなアプリが上位にランクインしているのでしょうか。滝澤氏:
LINEのようなコミュニケーションツールやニュース系のアプリ,ショッピングアプリなどですね。ただ,端末にプリインストールされているアプリも集計対象に入っているので,メールアプリや地図系,交通系のようなものも含まれています。4Gamer:
収益とはまったく別軸のランキングになるわけですね。とはいえ,アクティブじゃないアプリが今後収益を上げられるわけがないので,今後を占ううえで重要なデータになりそうですが。滝澤氏:
そうですね。どこまでリーチできるかは,そのアプリをユーザーに使ってもらうことが絶対的な前提になりますから。4Gamer:
ゲームアプリは飽きたら消してしまうような人もいますから,ニュース系とか地図系とは異なる利用率になっているのかもしれませんね。滝澤氏:
ランキングで見えるゲーム利用者の少なさというのは,限られた層しか遊んでいないという見方もできます。重複があるのでそのすべてとは言えませんが,ゲーム以外のアプリを使っている人達は,ゲームを遊んでいない可能性が高いわけです。 そういった方々が潜在的に求めているコンテンツを提供してゲームに呼び込めれば,市場を拡大できる余地はまだまだあると言えますし,大きなチャンスと捉えることも可能です。 弊社では,ユーザーのアプリ利用状況データから,どんなアプリを使う傾向にあるのか分析ができますので,仮説を立てることも可能です。4Gamer:
やり方しだいでは,スマホアプリ市場にもまだ開拓の余地があるわけですね。滝澤氏:
それから,通信料の引き下げに関する動向にも注目しておいたほうがいいでしょう。 日本のスマートフォン普及率はすごく高くなっていますけどまだ6割くらいで,フィーチャーフォンを使っている方もまだまだ多いですよね。フィーチャーフォンを使っている人達にとっては,スマートフォンの通信料の高さがネックになっているのだと思います。 現在は,政府主導で通信費引き下げに向けて動いていますが,その人達に適切なプランを提供できれば,スマートフォン市場の拡大につながっていく可能性もあります。ですので,潜在的な需要はまだ4割近くある,という見方もできるのではないでしょうか。4Gamer:
ビジネスモデルでは,今後新しい動きはありそうですか?滝澤氏:
まずは,マネタイズをどう多角化していくかでしょうね。 先にお話したように,ワールドワイドで見ると,アプリ内課金の収益と広告モデルの収益は同じくらいの規模です。日本の場合は8割がアプリ内課金で広告は2割なので,アプリ内課金がこれ以上見込めなくても,広告モデルで収益を伸ばすという道も取れます。 また,最近はアプリの数が増えたこともあって,類似コンテンツも増えています。ユーザーが遊ぶタイトルがある程度偏ってしまい,似たようなコンテンツはヒットしにくいという状況になっているので,そこを打破する何かが生まれることに期待したいですね。 たとえば2つのジャンルを組み合わせるというように要素を突き詰めていって,細かいレベルでの新しいジャンルを開拓するなど,コンテンツ自体をもっと多角化していければ,もう少し市場が広がっていくのかなと。4Gamer:
滝澤さん個人として2016年の予想といいますか,アプリ市場でどういったところに注目しているのかを教えてもらえませんか。滝澤氏:
先ほどの話とかぶってしまうのですが,リワード型報酬の提供が難しくなっているので,プロモーションの多様性ですね。O2Oというかオフラインとの連動みたいなもので,どうやってユーザーを引っ張ってくるのかに注目したいところです。 広告のマネタイズモデルでも,ヒットポイントさんの「ねこあつめ」のように,アプリ内課金と広告のハイブリッド型でヒットタイトルが生まれてきたので,今後同様のケースが増えるかどうかが気になります。 あと,アプリメーカー各社は新しいジャンルやカテゴリを創造していくと思いますが,その中から化学変化が生まれて,新しいユーザーを獲得するアプリが出てくるのかは,着目し続けたいです。 最近は日本の会社も海外市場に対して本格的に取り組み始めているので,その動きに注目して,できれば海外で成功するタイトルを見届けたいですね。4Gamer:
ビジネスモデルで,今後ヒットしそうなものはありますか?滝澤氏:
ノンゲームアプリ全体での話ですけど,新しいマネタイズのモデルとしては,アメリカ市場で今確実に増えてきている,サブスクリプションという月額課金のモデルですね。 「YouTube」も月額課金のモデルを採り入れて,月1200円払えば広告が表示されなくなる,さらにその収益をコンテンツホルダーにきちんと分配する流れがあるのが今までと違います。音楽ストリーミングの「Spotify」なども同様の思想ですよね。 アプリ内課金の中に,都度課金とサブスクリプション,年間課金といったバリエーションを取り入れるアプリが目に見えて増えているので,今後は頭角を現すのではないかと考えています。4Gamer:
新興国でのビジネスモデルはどうでしょうか。滝澤氏:
新興国で言うと,課金決済が一番のハードルなんですよね。要は,クレジットカードを持っていない,それ以前に銀行口座を持っていない人が多いということなんですけど。 ではどうやって支払っているかというと,携帯の通信料にしても,通話料金にしても,店頭でプリペイドで課金しているわけですよね。 最近は,コンテンツのメーカーがキャリアと組んで,「このコンテンツであればパケットが消費されません」というように,通信料を負担するというケースが出ているんですよ。4Gamer:
それは日本にいると,なかなか出てこない発想ですね。滝澤氏:
そうですね。日本ではスマートフォンは定額制が当たり前なので。 通話も一つのコンテンツだと考えると,ユーザーからしてみれば,友達と10分話すのもゲームで10分遊ぶのも,お金と時間を費やすという意味では同じなんですよね。 ゲームでは難しいかもしれませんけど,通信料込みの形でコンテンツが提供されるようなビジネスモデルなら決済手段の問題を解決できるので,インパクトは大きいんじゃないかなと。4Gamer:
日本でも似たようなビジネスモデルが実現できたら,フィーチャーフォンからの乗り換えが捗るかもしれませんね。どういう形なら実現できるのかは,想像も付きませんが……。滝澤氏:
インターネットカフェでやっている特典付きのサービスなどは,比較的近いかもしれませんね。4Gamer:
最近ではインターネットカフェでスマートフォン向けの特典付与も行っていますし,実現できるかもしれませんね。 残念ながら,そろそろお時間となってしまいましたので,最後に読者に向けてメッセージをお願いします。滝澤氏:
今回お話したようなデータは,弊社のプロダクトとして提供させていただいております。無料のブログやレポートも随時発表していますので,興味を持っていただけた方は,まずはユーザー登録をしていただければと思います。 そのほか,アプリビジネスについてご質問がございます際は,弊社までお問い合わせください。4Gamer:
ぜひまたお話をお伺いできればと思います。本日はありがとうございました。Store Stats:日次ランキングデータ
https://www.appannie.com/apps/ios/top/?_ref=header&device=iphone Index:月次ランキングデータhttps://www.appannie.com/indexes/all-stores/rank/overall/?month=2015-11-01&country=JP 有料製品の問い合わせ先 sales@appannie.com リンク:App Annie公式サイト ―――――――――――――――――――――――――――――
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