日本の大みそかにつきものの食べものといえば「そば」だろう。有名店にできる行列や出前で大忙しの様子などは、暮れの風物詩として例年ニュースでも取り上げられる。実は、この年越しそばの習慣は、江戸時代中期にはすでに始まっていたという。短時間で食べることができ、当時から値段もリーズナブルだったそばは、今も庶民の強い味方だ。たんぱく質やビタミンB群、ルチンなど、健康面で注目されている成分も豊富でカロリーも低い。
しかし、なぜ大みそかにそばを食べるのか、何時ごろ食べるのが正式なのか。毎年当たり前のように食べている年越しそばだが、改めて考えてみると知らないことだらけだ。そこで、日本麺類業団体連合会に資料を借りて、年越しそばの由来について調べてみた。
■月末に食べる「みそかそば」が、大みそかの習慣として広がった
「歳末にそばを食べるのは、江戸中期、商家を中心に行われてきた毎月末(みそか)にそばを食べる風習と関係がある。関西では月末のことを『つごもり』、年末を『大つごもり』といい、暮れの31日に食べる『大つごもりそば』が年越しそばにつながったという説だ」(出典:そば・うどん百味百題)
江戸時代中期の書物にも「大年蕎麦」と記述があることから、その頃すでに歳末の習わしになっていたと推定されるということだ。ではなぜ、年越しにそばを食べるのか。諸説あるようだが、「そば・うどん百味百題」から由来を紹介しよう。
まずは、「運そば説」だ。
「鎌倉時代に、博多の承天寺が年末に『世直しそば』と称してそば餅を振る舞ったところ、翌年から町人たちの運気が上がった」(出典:そば・うどん百味百題)
そして、「三稜(みかど)縁起説」はこうだ。
「室町時代、関東三長者の一人増淵民部(ますぶち・みんぶ)が、毎年大みそかに無事息災を祝って『世の中に めでたいものは蕎麦の種 花咲きみのり みかどおさまる』と歌を詠み、そばがきを食べたのが始まり。そばの実が三角なので三稜、みかどは帝に通じるとして縁起がよいとされた」(出典:そば・うどん百味百題)
続いて、「細く長くの形状説」だ。
「細く長いそばの形から、家運を伸ばし、寿命を延ばし、身代を永続きさせたいと縁起をかついだ。別名『寿命そば』ともよばれる」(出典:そば・うどん百味百題)
他にも「切れやすいそばを食べて、1年の労苦や厄災をきれいさっぱり切り捨てようとした。また、一年中の借金を断ち切る意味とも。どちらも残さずに食べきらないといけない」(出典:そば・うどん百味百題)など、「伸びる」と「切れる」の真逆ではあるが、それぞれの捉え方を、来る年の幸運や家族の繁栄に掛けあわせた縁起ものだったことがわかった。
■植物としてのそばの特長や、職人仕事からきた説も
他にも、植物としてのそばの特長や、職人仕事からきた説もあるので紹介しよう。まずは、「そば効能説」だ。こちらは正にビタミンやルチンを感じ取ったかのような説だ。
「そばの効能は、江戸時代の料理本『本朝食鑑』にも書かれているが、そばを食べることで体内を清浄にし、新年を迎えようとした」(出典:そば・うどん百味百題)
そして、そば職人目線の「捲土重来説」だ。
「そばは一晩風雨にさらされても、翌朝、陽が射せばすぐに立ち直る。それにあやかって『来年こそは』との思いを込めた」(出典:そば・うどん百味百題)
最後に誰もが聞いてうれしくなる「金運説」だ。
「金箔を作るときに打ち粉として使われるのがそば粉。金銀細工師は飛び散った金銀の粉をかき集めるのにもそば粉を使っていたことから、『金が集まる』の縁起で食べるようになった」(出典:そば・うどん百味百題)
ちなみに薬味のネギは、神職の禰宜(ねぎ)に通じるともされ、「清め払う」、「ねぎらう」という意味も込められているので、忘れずに入れよう。
■「年越し」といっても、年は越さずに食べきろう
年越しそばを食べる時間帯に特に決まりはないようだ。ただし、年越しそばには、1年の厄災を断ち切って新しい年を迎えようという意味が込められているため、年をまたがず、その年のうちに食べきることが大事だ。
発祥は室町時代ともいわれる年越しそば。新しい年の幸運や健康を願って、思いも新たにいただくことにしたい。
「教えて!goo」では、「年越しそば、どのタイミングで食べる?」ということでみんなの意見を募集中だ。
●文献提供:一般社団法人日本麺類業団体連合会(参考文献「そば・うどん百味百題(柴田書店)」)
教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)