毎年1月2日・3日に開催される箱根駅伝。この時を楽しみにしているファンは数多いが、2015年の優勝校を覚えているだろうか。
2位に大差をつけて往路初優勝を果たし、復路もトップを独走して初めての総合優勝を掴みとったのは、青山学院大学だ。その後も2015年10月に開催された出雲駅伝で優勝を果たし、今年も優勝本命校として注目されている。そんな青山学院大学は、この1年で一気に「駅伝の強い学校」というイメージを世間に植えつけた。
この大躍進の裏に、原晋監督の存在があることは、あまりにも有名だ。会社員だった彼がなぜ大学駅伝の監督を務めることになったのか、どのようにして箱根駅伝優勝の偉業を達成したのか。『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』(原 晋/アスコム)で、その理由が語られている。
原監督が就任したのは、2003年のこと。電力会社の陸上競技部に誘われて入社するも、期待以上の活躍を残せずにいたが、営業としてがむしゃらに働くうちにトップクラスの成績を獲得。現役を引退して10年経ったころ、青山学院大学から監督のオファーをもらった。指導経験はなかったが自信はあった。なぜなら、チームを作るためや人を育てるために必要なことを営業時代に学んでいたからだ。
そのため、原監督の指導法はビジネスノウハウが大いに活用されている。
■「目標管理ミーティング」で成長を促せ
原監督がビジネスの現場から陸上界に持ち込んだノウハウのひとつが「目標管理」だ。部員全員が個々の目標を達成するために、学年やポジションの異なるランダムなグループを作り、それぞれが設定した練習計画について話し合って、より達成可能な計画に仕上げていく。
なぜランダムなグループかというと、置かれた立場が違う部員が集まることで、目標を客観的に見直すことができるから。企業では当たり前のことだが、監督が設定した目標を選手がこなすだけになりがちな陸上界では革新的なことだった。
■「体育会流の“ハイッ!”といい返事」をする人間は伸びない!
威勢がよく快活な体育会系の学生。素直だし印象もいいが、原監督にとっては残念ながら期待できる人材とはいえないそう。一般的に監督の言うことになんでも「ハイッ!」と答える学生は、練習のときも試合のときも監督を意識しやすい。監督の顔色をうかがうようになったら最悪で、自分のパフォーマンスを発揮できなくなる。
競争相手はあくまでも自分。ビジネスの世界でも「人の指示を待たずに動ける、考えられる人材が伸びる時代」と、原監督。上からの指示を素直に聞くだけではなく、与えられた条件で自分なりにアレンジできる柔軟な思考を持てるよう、学生にも指導しているという。
原監督の言葉は、どれも理にかなっていて力強い。根性論だけになりがちな体育会系の考え方は一切ない。だからこそ、選手たちも納得して監督についていけるのだろう。
2016年の箱根駅伝のテーマを、原監督は「ハッピー大作戦」と名付け、「ゴールした後、選手、スタッフ、見ている皆さん全員がハッピーになれるレース」にすると宣言している。この考え方はまさに、社員や顧客を大切にする優良企業の社長そのもの。
異色の監督が箱根駅伝二連覇の偉業を達成できるか。2016年の戦いも決して目が離せない。
文=松本まりあ