医師免許なく客にタトゥー(刺青)を入れたとして、彫り師が医師法違反の疑いで摘発されるケースが相次いでいます。医師以外がタトゥーを入れることは「犯罪」にあたるのでしょうか。捜査当局の見解を聞きました。
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「医師法に抵触」厚労省が通知
医師法は医師以外が「医業」を行うことを禁止しており、違反した場合には3年以下の懲役か100万円以下の罰金、もしくはその両方が科されます。タトゥーや刺青を入れる行為が医業にあたるか否か、条文上には明記されていません。
しかし、皮膚に色素を入れて眉などを描く「アートメイク」のトラブル拡大を背景に、厚生労働省は2001年、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は医師にしかできない、とする通知を出しました。厚労省によれば、通知はアートメイクのみならず、タトゥーや刺青も対象としています。無資格で施術を行えば、医師法に抵触する――というのが国の見解です。看護師にも医療行為が許されていますが、その場合も医師の指示が必須となります。
医師法のほか、暴力団対策法は指定暴力団員が少年に刺青を入れることを禁止しています。また、青少年健全育成条例で青少年への刺青を禁じている自治体もあります。
2010年代から取り締まり強化
2010年代に入ると、医師法違反による彫り師への取り締まりが強化されていきます。2010年7月、兵庫県警が彫り師で暴力団組員の男を医師法違反容疑で逮捕。広島県警も、同年9月に彫り師を逮捕しました。昨年2月には、熊本県警が自称彫り師で暴力団幹部の男を逮捕しています。過去の新聞報道によると、兵庫・広島・熊本の事件はいずれも不起訴となっており、立件の難しさが伺えます。
そして現在、医師法違反容疑での彫り師やタトゥー・スタジオの取り締まりに力を入れているのが、大阪府警です。8月に大阪・アメリカ村の「チョップスティックタトゥー」の代表と彫り師ら男女計5人を逮捕。11月には、名古屋市西区の「エイト・ボール・タトゥー・スタジオ」の経営者や彫り師ら男女計4人を逮捕しました。
なぜいま摘発強化?
大阪府警による同容疑でのタトゥー関連の摘発は、逮捕まで至らなかったものも含めると、昨年だけで5事件12人に達します(12月2日現在)。大阪府警の捜査幹部によると、以前からアートメイクをめぐる薬事法違反・医師法違反事件を捜査しており、その過程でアートメイクよりもさらに皮膚の深い層に針を刺すタトゥーに着目。厚労省や検察、医師に見解を聞きながら、捜査を進めてきたそうです。
無免許店や許可を持つ「合法店」の数は警察としては把握しておらず、摘発するかどうかは「事案の態様によって」判断しているとのこと。具体的には、健康被害など社会的な反響の大きさを重視しているといいます。
健康被害の発生を懸念
懸念される健康被害について、捜査幹部は医師への聞き取りを踏まえ、以下のような危険性を指摘しました。
○針が真皮や皮下組織に達するので感染症を伴うが、彫り師では対処できない。
暴力団との関係「視野に入れて捜査」
さらに、彫り師やタトゥー店が暴力団の資金源となる可能性についても、「視野に入れて捜査している」そうです。捜査幹部は「もし大きな資金源になっているなら、捜査をしないといけません。暴力団が医師法違反で未成年の客らにタトゥーを彫らせたりする事には問題があります」と話します。
医師資格を持っている彫り師はまずいないでしょうし、逆にタトゥーの技術を持った医師もほぼ皆無とみられます。だとすると、医師法での摘発は事実上の「タトゥー禁止令」になるのでは? 「それは厚労省に聞くべき問題。警察は医師法違反だから捜査をしています」(捜査幹部)。
「野放しなら違反が蔓延」
また、「タトゥーは文化だ」という声に対しては、「片一方の意見だけでなく、反証として医師の意見も聞く必要があると思います。芸術かと聞かれても、私は答える立場にはありません」と回答しました。
大阪府警としては、やはり健康被害の可能性を重く見ているようです。「健康被害の問題があるから医師法違反になるし、やるべき価値があるとみています。これを野放しにすれば違反が蔓延してしまうし、不作為になってしまう。国家資格なしでの医行為は看過できません」