Amazonお坊さん便に中止要請…“お布施の明朗化”が猛反対されるワケ | ニコニコニュース

Amazonお坊さん便に中止要請…“お布施の明朗化”が猛反対されるワケ
デイリーニュースオンライン

 ネット通販最大手「Amazon」で法事・法要で読経する僧侶を手配するサービス「お坊さん便」が始まったが、これに仏教団体が「宗教をビジネス化している」などと猛抗議したことが物議を醸している。

 仏教の伝統を考えると反発も致し方ない部分があるが、ネット上では「お坊さん便」を支持する声が続出。仏教団体を批判するコメントが次々と書き込まれる事態になった。さらに仏教界の反発の裏側にカネの問題があるとの生臭い情報も噴出している。

「お布施はサービスの対価ではない」と猛反発

「お坊さん便」は株式会社みんれびが2013年から展開しているサービス。2015年12月8日からAmazonを通じてサービス申し込みができるようになった。

 同サービスでは、法事法要手配と戒名授与がセットになって6万5000円など料金が明示されており「分かりやすい」と評判に。さらに「お車代・お膳料・心づけなどは不要」「戒名は宗派に合わせて『信士・信女』『釋・釋尼』のいずれか」などと明記されており、料金面の不安を感じさせない内容になっている。

 だが、これを受けて全日本仏教会の齋藤明聖理事長が公式サイト上で「お坊さん便」を批判する以下のような声明を発表した。

「お布施は、サービスの対価ではありません。同様に『戒名』『法名』も商品ではないのです」
「お布施は、慈悲の心をもって他人に財施などを施すことで『六波羅蜜(ろくはらみつ)』といわれる修行の一つです。なぜ修行なのかというと、見返りを求めない、そういう心を持たないものだからであります」
「まさしく宗教行為をサービスとして商品にしているものであり、およそ諸外国の宗教事情をみても、このようなことを許している国はありません。世界的な規模で事業を展開する『Amazon』の、宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ません」

 同会は米Amazon本社にサービス取扱いの中止を要請する予定だという。

 実は以前にも同会は「新規参入」に反発している。2010年にイオンが「お坊さん紹介サービス」としてお布施の目安金額をサイト上に掲載したが、この時も「お布施の金額を表示するのは適切でない」などと猛批判。これを受けてイオン側はサイト上の目安料金を削除し、コールセンターで詳細を伝える形に変更した。

 しかし、今回のケースをはじめとした中小の僧侶派遣サービス業者はお布施の価格明示化が当たり前になっている。よって法的に問題はないが、仏教会は大手を対象に「モラル」「伝統」を理由に価格明示をやめさせたいようだ。

ネットはAmazon支持一色…高額の布施に強い不信感

 同サービスについては「僧侶をモノ扱いしている」「ネットで派遣されてもありがたみがない」といった批判もあり、仏教会の反発も理解できなくはない。だが、ネット上では以下のような「Amazon支持」の声が圧倒的に多い。

「お布施が対価じゃないなら戒名とか金額で差別するな」
「儲けまくって宗教をビジネス化したのは自分たちでしょ」
「ぼったくりされるより、料金が明示されてた方が全然マシ」
「対価じゃないなら『お礼にウチで取れた大根をどうぞ』で納得するのかよ」
「自業自得。法外な料金を請求して利用者に不信感を抱かれた結果だ」

 批判の背景には世間の「仏教離れ」がある。普段は全くお寺と付き合いがないのに、葬儀の時だけ高額なお布施を要求されれば「ぼったくられた」と感じるのも無理はない。仏教団体がお布施や葬儀の意味を世間に伝えたり、普段から仏教に慣れ親しむように努力すべきだったが、それを怠っていたという部分もある。

 そもそも「Amazonが運営してるわけじゃないのに文句を言うのは筋違い」との意見もあり、仏教会の声明は世間で否定的に受け止められているようだ。また、仏教の世界でも批判一辺倒というわけではなく、昨今は僧侶の仕事が減ってきていることから「このサービスで仕事が入るのはありがたい」という現役僧侶の声もある。

猛反発の本当の理由は「非課税特権」?

 仏教会の反発は「宗教は商業サービスではない」という建前だけでなく、そのウラには切実な事情が絡んでいる。最近はどこのお寺でも、少子高齢化や仏教離れによって檀家が減少。新規事業者に仕事を奪われると厳しいという危機感がある。

 さらに、それ以上に仏教団体が危惧しているのが「非課税特権」の存在だという。

「お布施や戒名料などは対価ではなく喜捨(寄付)と見なされ、基本的に非課税。宗教施設についても不動産取得税、固定資産税が掛からない。しかし民間事業者の価格明示によって『お布施はサービスの対価』と判断されると、税制優遇の根拠が揺らいでしまう。もし税制優遇を廃止すれば4兆円の財源が生まれるとの試算もあり、実際に納骨堂などが課税対象と判断されたケースが出てきているので仏教界はナーバスになっているんです」(仏教関係者)

 なぜ利用者に不安がられても頑なに寺院側が「料金の明示」をしないかといえば、具体的な価格を提示してしまうと「商取引」とみなされて課税対象になる恐れがあるからだ。

 新規事業者の価格明示によって伝統が崩れれば、最大の特権である税制優遇が廃止されてしまう危険性がある。そう考えると齋藤理事長が「お布施はサービス対価ではない」「宗教行為はサービス商品ではない」と繰り返し強調していた理由も透けて見える。

 いずれにせよ、今までのように「独占市場」にあぐらをかいてはいられない。仏教界に大きな変革の波が訪れているのは間違いないだろう。

佐藤勇馬(さとうゆうま)個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、ネットや携帯電話の問題を中心に芸能、事件、サブカル、マンガ、プロレス、カルト宗教など幅広い分野で記事を執筆中。歌舞伎町や新大久保をホームグラウンドに飲み歩くのが唯一の楽しみ