2015年もテレビからは多くの番組やタレントが生まれたわけだが、印象に残っているのはお笑い芸人というより、むしろ他ジャンルからのニューカマーかもしれない。たとえば最近テレビで見かける有名人といえば、佐藤栞里や羽田圭介、あるいは藤田ニコルなど。新たなタレントが数多く発掘された年だといえるかもしれない。
そして昨年は、バラエティ番組においてもまた発掘の年だった。いわゆる素人発掘系の番組は『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)、『アウト×デラックス』(フジテレビ系)や少し毛色は違うが『有吉反省会』(日本テレビ系)など、少し前からひとつの流れとしてはあったが、昨年もその流れは続いた。10月に始まった『指原カイワイズ』(フジテレビ系)もそうだし、あるいは『しくじり先生』(テレビ朝日系)も取り上げているのはタレントではあるが、これまで見せてこなかった部分を見せるという意味では、発掘系の番組だといえるだろう。
その流れを踏まえて、昨年スタートした、あるいは昨年元気だった3つのバラエティ番組を挙げてみたい。いずれも発掘という要素を持ちながら、それぞれ強い個性を持つ番組であり、16年も要注目のバラエティだ。
■『人生のパイセンTV』(フジテレビ系)
15年10月にレギュラー放送スタート。人からバカだと言われようが己のポリシーを貫き人生を謳歌している先輩のことを「パイセン」と呼び、たまにウザいけど一緒にいて楽しい愉快なパイセンたちを紹介する番組だ。これだけ聞くと、最近よくある素人発掘番組のようではあるが、対象者との距離感がほかの番組とはまったく違う。変わった人を見て笑うというのではなく、変わった人と一緒になって笑おうという、あまりにも近すぎる距離感が全編通して伝わってきて、底抜けかつ裸の楽しさが尋常ではない。
テロップや音など編集を駆使して「パイセン」の素敵さを伝えるVTRも見どころ満載だが、それを見るオードリー・若林正恭とベッキーがとにかく楽しそうなのも素敵だ。ほかの番組では見えない自然体の姿があり、ゲラゲラ笑いながらVTRにツッコむ若林もさることながら、一人ミュージカルという隠された秘技まで披露してしまうベッキーの姿が見られるのは、この番組ならでは。これまでのテレビの常識に捉われない、新たな息吹を感じることができる。
番組では登場する「パイセン」のことを「たまにウザいけど一緒にいて楽しい」と表現しているが、この番組もまさにそうだ。たまにウザいけど、一緒にいて楽しいバラエティ。日曜の夜に暗澹たる気分に陥っている人が見て、人生ってそう悪いもんじゃないかもしれない、と思える番組である。
■『マツコ会議』(日本テレビ系)
15年10月スタート。もはや現代のテレビには欠かせない顔となったマツコ・デラックスだが、昨年4月に始まった『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)と並んで、マツコしか持ち得ない特性が存分に発揮された番組だ。毎回話題となっている場所と中継をつないで一般の方に話を聞いていくわけだが、この番組でのマツコ・デラックスはMCだけではなく、総合演出として出演している。
とにかく、中継先の相手へのマツコのツッコミの入れ方が絶妙。もちろん一般の方に対してツッコむ場面もあるのだが、その場合は決して過剰にひねったり悪く言うことなく、むしろ敬意を持って接している。強いツッコミを入れる相手は必ず中継先のディレクターであり、そのさじ加減が素晴らしい。一般の方を「素人」というように扱わず、むしろ「玄人」と呼ばれる側のディレクターが怒られる様子が新鮮であり、この番組をほかの番組と違う位置へと押し上げている。
『夜の巷を徘徊する』もそうだが、テレビとは限られた種類の人間だけが作るものではなく、むしろ土地から生まれるものだという信念すら感じられるほど。15年のマツコが密かに行っている挑戦とは、街頭テレビの時代への原点回帰であり、あるいは新たな形での萩本欽一的テレビの復権だといえるのかもしれない。
■『水曜日のダウンタウン』(TBSテレビ系)
14年4月にスタートした番組だが、その勢いは昨年も止まらなかった。というかむしろ、ますます勢いを増しているといって少しも過言ではない。昨年で言うと「松本人志メキシコからきた謎のマスクマンとしてプロレス会場に登場してもバレない」説と「『結果発表』のコールが日本一上手いの浜田雅功」説は、15年以降のダウンタウン像を確かに発掘している。
あるいは、天龍源一郎のハスキーボイスや松野明美の大根っぷりなど、タレントの新たな側面の発掘や、大友康平を面白いという切り口で捉える手法など、とにかく新しいものが毎週のように発掘され続けている。どの回を見ても抜群に面白いという確変状態は止まる気配すらない。16年もまた、最注目のバラエティ番組だ。
以上、3つの番組は、発掘というだけにとどまらず、社会性をどこかに感じるという点でも共通している。テレビは小さなスタジオの中だけで作られるものではなく、むしろ世間の中にあるべきものだ。15年はテレビが狭いモニタの中から飛び出し、世間に向かって正しく対峙しようとする、その最初の年だったといえるかもしれない。
(文=相沢直)
●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa